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日々は続く
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マツモトに彼女ができたらしい、という話を、オーノはコールセンターのミヤノから聞いた。
ミヤノも、比較的協力的、というか、やりやすい相手の一人だ。ざっくばらんに希望を直接相談してくる事もあるが、それはたいてい、予算感を把握したいというだけで、稟議をあげて通るか通らないかの見通しをたてる為の情報収集だ。
イケそう、と、思えば、正式に見積もり依頼をあげてくるし、ダメそう、と、思えば、代案をたてる為の相談を正規ルートから根回ししてくれる。
おおよその見通しもたてずに、いきなり大規模案件をふっては失笑を買うような連中は見習って欲しい、と、いつも思っている。そんな聡明なミヤノだが、男を見る目に関してだけ言えば、絶望的に趣味が悪い。
彼女がしっかり者すぎるのか、しっかり者であるがゆえに、彼女に頼ろうとするやさ男が寄ってくるのか。多分後者だろう、と、思いながら、オーノはほどよい距離感で、そこそこの交流をしていた。
休憩時間の帰りに、荷物を運んでいたオーノをさり気なく手伝いながら、ねえねえ、と、話しかけられた内容がマツモトの事だった。
「何で俺にそんな話を?」
「オーノさん、マツモトさんと仲良さそうだったから」
マツモトが、しょっちゅう倉庫に顔を出すのは、仕事上の理由でもあったのだが、先日の『ニア・リーサ』の一件依頼、頻繁になっているのは確かかもしれないな、と、思いながら、オーノはマツモトに来るのを控えるよう言わなくては、と、思っていた。
「女性陣の間に失望が広がってるのよねー、プレゼントとおぼしき買い物をしている所を見かけたー、とか、飲み会の誘いが断られるようになったー、とか」
俺は誘われた事無いなあ、その飲み会、とは、言わなかった。誘われても、何を話ていいかわからないからだ。
「さあ、マツモトが俺のところに来るのは仕事上必要があるからであって、プライベートな話はしないよ」
しれーっっと嘘をつくオーノを、ミヤノは、熟練のコールスタッフのそれで聞き耳をたてた。
「ふーん、まあ、本人に直接聞けばいいか」
そう、最初からそうすべきなのだ。きっと、彼女できたの? などと水を向ければ、きっと嬉々として『彼女』の話を語り出すに違いないのだから。
オーノの前でそうしているように。
--
実際、『それ』が目的では無いにしろ、共通の秘密を持っているという気安さの為か、マツモトは仕事のついでに雑談をしていくようになった。
雑談の内容は当然マツモトの『彼女』の事で、どうもかいがいしく世話をしているようだった。
オーノは、マツモトのような男は、実は少なくないのではないのか、と、思い始めている。
理想を投影した女。
望む通りを受けて答える女。
オーノの知り合いに、心理学や精神医学に関わる人間がいないのが残念だった。
専門家は、マツモトと『彼女』のありようを、どのように判じるのか、少し興味があった。
そして、興味といえば。
--
セクレタリーボットの中古パーツを定期的に調べるようになってしまったオーノがいた。
一体組み上げてからというもの、もう一体、組み上げてみたい、という衝動にかられるようになったのだ。
もちろん、イーグル、シャーク、パンサーも、オーノが廃棄予定だったパーツ類を使って組み上げた、サポートボットではあるが、艶は無い。
あの、ニア・リーサを組み上げて、『マツモト?』と、呼ばれた時のあの感覚。
自分用の、自分専用のものであったらどうだったろう、そう、思わずにはいられないのだ。
フルカスタマイズして、新規で購入する事も、もちろん可能なのだが、それをするくらいなら、位置から自分で設計、組み立てたいという衝動が強かった。
創造者になりそこなった修繕車ゆえの好奇心というべきか、あきらめきれない『創造』への執着なのか。
いまだ名もない自分専用のセクレタリーボット(女性)を組み上げる事を夢に見ながら、オーノは、今日も、話のわからない上役や、気の良い同僚の間を巡りつつ、コンソールに向かうのだった。
(終わり)
ミヤノも、比較的協力的、というか、やりやすい相手の一人だ。ざっくばらんに希望を直接相談してくる事もあるが、それはたいてい、予算感を把握したいというだけで、稟議をあげて通るか通らないかの見通しをたてる為の情報収集だ。
イケそう、と、思えば、正式に見積もり依頼をあげてくるし、ダメそう、と、思えば、代案をたてる為の相談を正規ルートから根回ししてくれる。
おおよその見通しもたてずに、いきなり大規模案件をふっては失笑を買うような連中は見習って欲しい、と、いつも思っている。そんな聡明なミヤノだが、男を見る目に関してだけ言えば、絶望的に趣味が悪い。
彼女がしっかり者すぎるのか、しっかり者であるがゆえに、彼女に頼ろうとするやさ男が寄ってくるのか。多分後者だろう、と、思いながら、オーノはほどよい距離感で、そこそこの交流をしていた。
休憩時間の帰りに、荷物を運んでいたオーノをさり気なく手伝いながら、ねえねえ、と、話しかけられた内容がマツモトの事だった。
「何で俺にそんな話を?」
「オーノさん、マツモトさんと仲良さそうだったから」
マツモトが、しょっちゅう倉庫に顔を出すのは、仕事上の理由でもあったのだが、先日の『ニア・リーサ』の一件依頼、頻繁になっているのは確かかもしれないな、と、思いながら、オーノはマツモトに来るのを控えるよう言わなくては、と、思っていた。
「女性陣の間に失望が広がってるのよねー、プレゼントとおぼしき買い物をしている所を見かけたー、とか、飲み会の誘いが断られるようになったー、とか」
俺は誘われた事無いなあ、その飲み会、とは、言わなかった。誘われても、何を話ていいかわからないからだ。
「さあ、マツモトが俺のところに来るのは仕事上必要があるからであって、プライベートな話はしないよ」
しれーっっと嘘をつくオーノを、ミヤノは、熟練のコールスタッフのそれで聞き耳をたてた。
「ふーん、まあ、本人に直接聞けばいいか」
そう、最初からそうすべきなのだ。きっと、彼女できたの? などと水を向ければ、きっと嬉々として『彼女』の話を語り出すに違いないのだから。
オーノの前でそうしているように。
--
実際、『それ』が目的では無いにしろ、共通の秘密を持っているという気安さの為か、マツモトは仕事のついでに雑談をしていくようになった。
雑談の内容は当然マツモトの『彼女』の事で、どうもかいがいしく世話をしているようだった。
オーノは、マツモトのような男は、実は少なくないのではないのか、と、思い始めている。
理想を投影した女。
望む通りを受けて答える女。
オーノの知り合いに、心理学や精神医学に関わる人間がいないのが残念だった。
専門家は、マツモトと『彼女』のありようを、どのように判じるのか、少し興味があった。
そして、興味といえば。
--
セクレタリーボットの中古パーツを定期的に調べるようになってしまったオーノがいた。
一体組み上げてからというもの、もう一体、組み上げてみたい、という衝動にかられるようになったのだ。
もちろん、イーグル、シャーク、パンサーも、オーノが廃棄予定だったパーツ類を使って組み上げた、サポートボットではあるが、艶は無い。
あの、ニア・リーサを組み上げて、『マツモト?』と、呼ばれた時のあの感覚。
自分用の、自分専用のものであったらどうだったろう、そう、思わずにはいられないのだ。
フルカスタマイズして、新規で購入する事も、もちろん可能なのだが、それをするくらいなら、位置から自分で設計、組み立てたいという衝動が強かった。
創造者になりそこなった修繕車ゆえの好奇心というべきか、あきらめきれない『創造』への執着なのか。
いまだ名もない自分専用のセクレタリーボット(女性)を組み上げる事を夢に見ながら、オーノは、今日も、話のわからない上役や、気の良い同僚の間を巡りつつ、コンソールに向かうのだった。
(終わり)
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