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リーサ Ⅱ
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内部に収める部分のセットアップを終える。ここまでは、他のボットと大きく変わるところは無かった。可能な限りオープンソースを使い、バージョンは全て最新に。
オーノが自室で組み上げた、リーサ一歩手前、ニア・リーサは、単品パーツでデスクに並んでいる限り、特殊な部分は無かった。
セットアップする時に、マスターをデフォルトでマツモトにしているだけで、何の変哲も無い、ボットが組み上がったにすぎない。
セクレタリーボットが高価なのは、ひとえに外観部分の素材を、よりナチュラルに、有機物を模して作る為の材料費と、それを組み上げる職人の技術ゆえだった。
今、オーノの自宅で組み上がったそれらは、そのままではただのボットに過ぎず、これから、廃棄手続きを偽装してまで持ち帰った外観部との結合を行うところだった。
バッテリーは新規で購入した。費用は全てマツモトが持ってくれる、リスキーな殻割りをして、セルを換装させずに、専用のものを購入した。
後は、弱っていた足の部分は、3Dプリンタで作成し(この際の図面の入手が一番やっかいだったかもしれない)、見かけについてはかなり新製品に近づいた。
ボディは、丹念に洗い、(洗っている最中、オーノは少しだけ、何をやっているんだ、自分は、と、我に返る事はあったものの)なんとかやりとげた。
こうなってくると、ピグマリオンというよりはゼペット爺さんの気分だ。
一から自分で作ったならば、また、違った感動があったに違い無い。
しかし、オーノは自分に一から作り上げるだけの能力が無いこともわかっていた。
自分にできるのは、既存部品を組み合わせて、修繕するだけだ。
ロジックを組み立て、図面を引き、無から有を作り出す事に憧れて、何度か挑戦もしたが、途中でイヤになってしまうのだ。
今回だって、リーサの一番のウリである、発声機能については、完全にブラックボックスで、配線を繋ぎ混んだだけだ。
自分で、音声ライブラリを作り、加工し、制御する為に必要なロジックを作る事はできない。
ただ、アリモノを組み合わせたあけの『作業』
だから、オーノは、ゼペット爺さんですら無いのだ、本来であれば。
創造者になれない修繕者。自分が『そう』だという事を、痛いほど感じる作業だった。
だが、それが、楽しくなかったかといえば嘘になる。
出口の、完成品の見える、ゴールの定まった作業であっても、適合するパーツを探し、必要な情報を調べ、試す作業は楽しかった。
企業活動であれば、真っ先に切り捨てられるであろう、無駄なトライアンドエラーだ。だが、オーノはそれをやりきった。
後は、起動し、動作テストを行うだけだ。
オーノは、おそるおそる主電源のスイッチを入れた。
「ピーーーーーーーーーーー!!!!」
いきなりのビープ音に、外部ディスプレイを確認する。
エラーメッセージをたどると、テスト用に使っていた起動データを誤って読みこんでいるエラーが出ていた。
落ち着いて、起動デバイスを外し、再起動をかける。
今度は、アラートは鳴らなかった。
起動シーケンスが、次々とテストをクリアし、アルファベットと文字と記号がディスプレイを流れていく。
見慣れたロゴが表示されて、止まる。
ゆっくりと、リーサが起動した。まぶたは開かないが、双眸にともった明かりが、起動成功したのだと教えてくれる。
認証部分に、あらかじめマツモトのデータを流しておいた為、最初のユーザー認証がかからなかった。
「……マツモト?」
起き上がったリーサが、まずはじめに、対面しているオーノに対してそう呼びかけたのは、あらかじめ認証データを入れておいたから。
「いや、違う……俺は」
思わず名乗ってしまいそうになったオーノだったが、余計な情報を与えて、後の禍根になってもまずいな、と、思い、
「修繕者だ」
他に、適当な言葉が思いつかずにそう名乗った。
設計からパーツの作成まで、自分の手で成していたら、もっと気の利いた『創造者』とでも名乗れたのだろうか、と、ふと思ったが、無意味だと気づく。
リーサが、わずかに首をかしげた。
なんというか、いかにもな皮膚、いかにも人間然としたフォルムよりも、こうした機械的な構造の方に、より感情的なものを読み取ろうとしてしまうのは、少し妄想の度が過ぎるのだろうか。
オーノは、不覚にもリーサを『かわいい』と思っていた。
認めたくないが、マツモトも恐らくもっているであろう『性癖』を、もしかしたら自分も持っているのではないだろうか。
少しだけ怖くなって、オーノはリーサから視線をそらした。
リーサは、まるで、きょとんとした様子で、こちらの様子をうかがっているようだ。
だが、リーサは何も言葉を発してはいない。決められた動作、決められた言葉を返しているだけだ。
そこに何らかの意味をもたせようとしているのは、人間だけなのだ。
リーサには、唇すらない、口を思わせるフォルムがそこにあるだけだ。
その、人によく似た美しい声は、スピーカーから発せられたもので、一度文章を作ってから音声化されるため、わずかにタイムラグがある。
だが、オーノは、そこに、話を熟考し、謹聴されているという錯覚を覚える。
「いや、ダメだ」
思わず、触れようと手をのばしかけた自分を制したオーノの手お、リーサがとった。
「ダメ、では、ありません、よ?」
ゆっくりと、問いかけてくる声、言葉ひとつひとつを丁寧につむぐように発される声と、人と変わらない声に、オーノの理性はあやうく揺らぎそうになった。
「終了、本日は停止」
そう言ったが、リーサはコマンドを受け入れなかった。
「あなたに、それを命じる権限はありません」
ぴしゃり、と、拒絶された思いだった。
理由はわかっている、あらかじめマツモトから受け取って入れた認証データにより、管理者をマツモトと認識しているからだ。シャットダウンに関わるようなコマンドを、マツモト以外からは受け付けないようになっているだけなのだ。
思わず、オーノは舌打ちをした。
「修繕者、あなたは、私に何をして欲しいのですか?」
両足を揃えて、首をわずかにあげて問いかける声が、声だけが、妙に人間じみていて、オーノはそれが恐ろしくなった。
「何もするな、俺の近くに来るな」
しかし、リーサはオーノからの音声コマンドを受け入れない。
じりじりと近づくリーサに、オーノは後ずさった。
どうしたんだろう、自分は。目の前の旧型セクレタリーボットから目が離せない。
このままでは、自分の心が維持できない。
ふと、いまだ繋がっている外部ディスプレイとキーボードが目に入った。
急いでキーボードに取り付いて、ルート権限で侵入し、停止コマンドを入力した。
テストの為に、とりつけたままだったそれらが、何とも頼もしく思えた。
コマンドには、音声や顔といった認証はかからない。パスワードのみで、管理者権限での操作が可能になる。
それができなければ、セットアップはできなかった。
好奇心で、単独稼働させなくて本当に良かった、と、胸をなで下ろしながら、オーノは思った。
オーノが自室で組み上げた、リーサ一歩手前、ニア・リーサは、単品パーツでデスクに並んでいる限り、特殊な部分は無かった。
セットアップする時に、マスターをデフォルトでマツモトにしているだけで、何の変哲も無い、ボットが組み上がったにすぎない。
セクレタリーボットが高価なのは、ひとえに外観部分の素材を、よりナチュラルに、有機物を模して作る為の材料費と、それを組み上げる職人の技術ゆえだった。
今、オーノの自宅で組み上がったそれらは、そのままではただのボットに過ぎず、これから、廃棄手続きを偽装してまで持ち帰った外観部との結合を行うところだった。
バッテリーは新規で購入した。費用は全てマツモトが持ってくれる、リスキーな殻割りをして、セルを換装させずに、専用のものを購入した。
後は、弱っていた足の部分は、3Dプリンタで作成し(この際の図面の入手が一番やっかいだったかもしれない)、見かけについてはかなり新製品に近づいた。
ボディは、丹念に洗い、(洗っている最中、オーノは少しだけ、何をやっているんだ、自分は、と、我に返る事はあったものの)なんとかやりとげた。
こうなってくると、ピグマリオンというよりはゼペット爺さんの気分だ。
一から自分で作ったならば、また、違った感動があったに違い無い。
しかし、オーノは自分に一から作り上げるだけの能力が無いこともわかっていた。
自分にできるのは、既存部品を組み合わせて、修繕するだけだ。
ロジックを組み立て、図面を引き、無から有を作り出す事に憧れて、何度か挑戦もしたが、途中でイヤになってしまうのだ。
今回だって、リーサの一番のウリである、発声機能については、完全にブラックボックスで、配線を繋ぎ混んだだけだ。
自分で、音声ライブラリを作り、加工し、制御する為に必要なロジックを作る事はできない。
ただ、アリモノを組み合わせたあけの『作業』
だから、オーノは、ゼペット爺さんですら無いのだ、本来であれば。
創造者になれない修繕者。自分が『そう』だという事を、痛いほど感じる作業だった。
だが、それが、楽しくなかったかといえば嘘になる。
出口の、完成品の見える、ゴールの定まった作業であっても、適合するパーツを探し、必要な情報を調べ、試す作業は楽しかった。
企業活動であれば、真っ先に切り捨てられるであろう、無駄なトライアンドエラーだ。だが、オーノはそれをやりきった。
後は、起動し、動作テストを行うだけだ。
オーノは、おそるおそる主電源のスイッチを入れた。
「ピーーーーーーーーーーー!!!!」
いきなりのビープ音に、外部ディスプレイを確認する。
エラーメッセージをたどると、テスト用に使っていた起動データを誤って読みこんでいるエラーが出ていた。
落ち着いて、起動デバイスを外し、再起動をかける。
今度は、アラートは鳴らなかった。
起動シーケンスが、次々とテストをクリアし、アルファベットと文字と記号がディスプレイを流れていく。
見慣れたロゴが表示されて、止まる。
ゆっくりと、リーサが起動した。まぶたは開かないが、双眸にともった明かりが、起動成功したのだと教えてくれる。
認証部分に、あらかじめマツモトのデータを流しておいた為、最初のユーザー認証がかからなかった。
「……マツモト?」
起き上がったリーサが、まずはじめに、対面しているオーノに対してそう呼びかけたのは、あらかじめ認証データを入れておいたから。
「いや、違う……俺は」
思わず名乗ってしまいそうになったオーノだったが、余計な情報を与えて、後の禍根になってもまずいな、と、思い、
「修繕者だ」
他に、適当な言葉が思いつかずにそう名乗った。
設計からパーツの作成まで、自分の手で成していたら、もっと気の利いた『創造者』とでも名乗れたのだろうか、と、ふと思ったが、無意味だと気づく。
リーサが、わずかに首をかしげた。
なんというか、いかにもな皮膚、いかにも人間然としたフォルムよりも、こうした機械的な構造の方に、より感情的なものを読み取ろうとしてしまうのは、少し妄想の度が過ぎるのだろうか。
オーノは、不覚にもリーサを『かわいい』と思っていた。
認めたくないが、マツモトも恐らくもっているであろう『性癖』を、もしかしたら自分も持っているのではないだろうか。
少しだけ怖くなって、オーノはリーサから視線をそらした。
リーサは、まるで、きょとんとした様子で、こちらの様子をうかがっているようだ。
だが、リーサは何も言葉を発してはいない。決められた動作、決められた言葉を返しているだけだ。
そこに何らかの意味をもたせようとしているのは、人間だけなのだ。
リーサには、唇すらない、口を思わせるフォルムがそこにあるだけだ。
その、人によく似た美しい声は、スピーカーから発せられたもので、一度文章を作ってから音声化されるため、わずかにタイムラグがある。
だが、オーノは、そこに、話を熟考し、謹聴されているという錯覚を覚える。
「いや、ダメだ」
思わず、触れようと手をのばしかけた自分を制したオーノの手お、リーサがとった。
「ダメ、では、ありません、よ?」
ゆっくりと、問いかけてくる声、言葉ひとつひとつを丁寧につむぐように発される声と、人と変わらない声に、オーノの理性はあやうく揺らぎそうになった。
「終了、本日は停止」
そう言ったが、リーサはコマンドを受け入れなかった。
「あなたに、それを命じる権限はありません」
ぴしゃり、と、拒絶された思いだった。
理由はわかっている、あらかじめマツモトから受け取って入れた認証データにより、管理者をマツモトと認識しているからだ。シャットダウンに関わるようなコマンドを、マツモト以外からは受け付けないようになっているだけなのだ。
思わず、オーノは舌打ちをした。
「修繕者、あなたは、私に何をして欲しいのですか?」
両足を揃えて、首をわずかにあげて問いかける声が、声だけが、妙に人間じみていて、オーノはそれが恐ろしくなった。
「何もするな、俺の近くに来るな」
しかし、リーサはオーノからの音声コマンドを受け入れない。
じりじりと近づくリーサに、オーノは後ずさった。
どうしたんだろう、自分は。目の前の旧型セクレタリーボットから目が離せない。
このままでは、自分の心が維持できない。
ふと、いまだ繋がっている外部ディスプレイとキーボードが目に入った。
急いでキーボードに取り付いて、ルート権限で侵入し、停止コマンドを入力した。
テストの為に、とりつけたままだったそれらが、何とも頼もしく思えた。
コマンドには、音声や顔といった認証はかからない。パスワードのみで、管理者権限での操作が可能になる。
それができなければ、セットアップはできなかった。
好奇心で、単独稼働させなくて本当に良かった、と、胸をなで下ろしながら、オーノは思った。
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