エロ絵師、江戸に飛ばされて春画描くってよ。

マンボウ

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第二幕 江戸の生活をシよう!

第四十九話 思いが冷めないうちに

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 あの日、あの場所でもう身も心も捕らわれていたのかもしれない。どちらにせよ地位も、発言力も、彼女には到底敵わないし、逃げ出せない虜となってしまった。

 顔を上げたまま、右手を少し横に動かしたとき、隣にいる千代姫の指先に触れた。咄嗟に離れようとしたが、千代姫はそれを受け入れるかのように手を重ねてきたのだ。

「……っ!」

 心臓が持たないぐらいドキドキするのかと思いきや、逆。安定した鼓動と柔らかな肌が安らぎを与えたのか眠気をぐっと促進させられ、俺の身体は睡眠欲を抗うことないまま、素直に眠りについてしまった――。

「……あっ!?」

 ブガッと自分の鼻息で目覚めた頃には、ちょうど朝焼けか始まった時間。江戸の姫様と朝チュンとか洒落にならん……っ!

「千代姫、おきてく……あれ?」

 隣にいたはずの千代姫はいなくなって、代わりに花の形を彩った一本のかんざしが置いてあった。

「これは、預かっていろということか? それとも忘れ物?」

 赤子を抱くように両手で優しくかんざしを持つと、昨晩の出来事がフラッシュバックされていくのと同時に血流が激しく乱れ、鼓動は熱を帯びて加速していく。二人だけの秘密、人に勘付かれないように歩いた夜道、興奮とスリル、勝手に初心だと決めつけていた彼女の正体。……新たな春画のネタが、降りてきた。

「よしっ!」

この思いが冷めないうちに――描け。

 沸き上がる熱は、描きたい欲へと変わっていった。両手で頬を叩けば、すぐに半紙を敷いてから、筆を握る。ミツのとき以上に手が止まらず、周囲の音さえもシャットアウトするほどの集中力で、一枚の春画を描き上げた。時間はそれほど経っちゃいないが、渾身の出来だと思っている。

 今回は一枚の半紙に男女二人が描かれているが、男の裸体の上に女が乗っかっている。その表情は殺伐とした微笑み。女が男が襲われている絵だなと殿様に言われたら素直に「はい、そうです」と答えるであろう。今回に関しては人によって意見が別れるといった深い裏はない。身をもって経験したことを絵に託しただけのことだ。

 フッとキザっぽく鼻で笑ってから、出勤するための準備に入った。

 しかし俺はこの春画で、致命的なミスをひとつ犯した。描きたい情熱がオーバーヒートしたあまり、男女の顔が鏡かってぐらい俺と千代姫そっくりに描き上げてしまったのだ。そんなことと知らずに、春画をルンルン気分で提出。そこから呼び出されたのは、提出して三時間後のことだった――。
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