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第二幕 江戸の生活をシよう!
第四十話 もっと強く君を抱きしめられたなら
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「ええい、分かりました! このお話は次会ったとき、正直にお答えしましょう! ですが、誰もいない二人っきりの場所で会ったらの話です!」
この場を切り抜けるため、こうする他に手立てはない。がむしゃらな感じでそう言った途端、蛇みたくまとわりついていた千代姫の細い手はすぐに剥がれ落ち、顔つきもパッといつもみたく子どものような無邪気さを取り戻した。
「本当ですか? スグル様と二人きりでお話、嬉しい!」
嬉しさがはじけんばかりにぴょんぴょんと飛び跳ねる千代姫。うっ、愛娘のようにかわええ……っ! ついさっきまでのアダルトな面影はどこへ? そもそもあれは俺の思い過ごしとか、勘違いだったりして。うん、きっとそうだな。こんな少女がちと背伸びした年相応の女の子。
「いつ行けばよろしいでしょうか?」
「ええと……そうですね、俺はいつでも千代姫が都合のいい時間帯でよければ相手になりますよ」
「わあっ! スグル様、大好き!」
すると千代姫はギュッと腰辺りを両手で強く抱きしめたのであった。俺は女子から大好きと言われたのは初めて、抱き着かれるのも初めて。大パニックなんて軽い表現。肉体から抜けた魂が宇宙にまで飛ばされては座禅を組んで悟りを開きそうになっていた。なんせこの子に軽々しく触れていいのか、両方の腕は空中を舞う。これほどまでに理性を無視したいと思った日はない。このとき、ほんのわずかな男気があれば、もっと強く抱きしめられたならとタラレバ語りが尽きない。けれど今は、幸せな時間を噛みしめて――。
「おーい、スグル!」
「ハッ!? え? あ、あれ!?」
千代姫がいない。いるのは呑気に漬物をポリポリと食らっている助六。しかもここは長屋で助六の家であり、俺のお隣!
「大丈夫か? さっきから上の空だけんどよ。疲れてるのか? ほれ、もっと食うか?」
「あー……いい……」
そうだった。あれから時間が経って仕事に戻って帰宅して湯屋に行ってから助六んちにお邪魔して夕飯をごちそうになっているんだっけ。俺調べによると、どうやら恋というものは時間まですっ飛ばす能力があるみたいだ。キンクリもびっくり。というか、あのまま時が一生止まっててもよかったんだけどさ……。
ほわわんと青春の一ページの出来事を振り返っては、漬物を飴みたくしゃぶっては舌で転がす。飲み込むという考えにすら辿り着けずにいると、助六は本気で心配そうに体調を気遣ってきた。
「まさか、小毬の奴にビシバシ休みもなく働かされたのか? そうだろ、そうなんだろ? あの団子女! ひとっ走り文句言ってやる!」
「ああ違う違う! ちょっと具合が悪いだけだ! 落ち着けって!」
「ケッ、そうゆうことか。元気が出ないときはな、殿様に頼み込んで春画を見せてもらえ。湯屋辺りで小耳に挟んだ話だけんど、殿様専用の春画師がいるってもっぱらの噂だ。すんごいよな~……っておい、スグル! やっぱ具合悪いんだろ!? 唇まで真っ白けだぞ!」
「そ、そうか? 全然、そんなことねぇって……」
「もうとっとと帰って寝ろ! 今晩は棒も握るな! ほれ!」
「ははは、お邪魔しました……」
助六に半ば強制的に家に帰させられ、苦い笑顔をふりまいて後にした。体調が悪いというよりかは、話を聞いて体調不良になってしまった。殿様専用の春画師がいるなんて、どこでどう情報が流出したんだ? 城の誰かだとしたら、お漏らし情報がすぎる。俺がその春画を描いているとバレたくないかと問われたら首をかしげてしまいそうになる。なんていうか、どうせなら正体不明の方が……かっこいいし。
この場を切り抜けるため、こうする他に手立てはない。がむしゃらな感じでそう言った途端、蛇みたくまとわりついていた千代姫の細い手はすぐに剥がれ落ち、顔つきもパッといつもみたく子どものような無邪気さを取り戻した。
「本当ですか? スグル様と二人きりでお話、嬉しい!」
嬉しさがはじけんばかりにぴょんぴょんと飛び跳ねる千代姫。うっ、愛娘のようにかわええ……っ! ついさっきまでのアダルトな面影はどこへ? そもそもあれは俺の思い過ごしとか、勘違いだったりして。うん、きっとそうだな。こんな少女がちと背伸びした年相応の女の子。
「いつ行けばよろしいでしょうか?」
「ええと……そうですね、俺はいつでも千代姫が都合のいい時間帯でよければ相手になりますよ」
「わあっ! スグル様、大好き!」
すると千代姫はギュッと腰辺りを両手で強く抱きしめたのであった。俺は女子から大好きと言われたのは初めて、抱き着かれるのも初めて。大パニックなんて軽い表現。肉体から抜けた魂が宇宙にまで飛ばされては座禅を組んで悟りを開きそうになっていた。なんせこの子に軽々しく触れていいのか、両方の腕は空中を舞う。これほどまでに理性を無視したいと思った日はない。このとき、ほんのわずかな男気があれば、もっと強く抱きしめられたならとタラレバ語りが尽きない。けれど今は、幸せな時間を噛みしめて――。
「おーい、スグル!」
「ハッ!? え? あ、あれ!?」
千代姫がいない。いるのは呑気に漬物をポリポリと食らっている助六。しかもここは長屋で助六の家であり、俺のお隣!
「大丈夫か? さっきから上の空だけんどよ。疲れてるのか? ほれ、もっと食うか?」
「あー……いい……」
そうだった。あれから時間が経って仕事に戻って帰宅して湯屋に行ってから助六んちにお邪魔して夕飯をごちそうになっているんだっけ。俺調べによると、どうやら恋というものは時間まですっ飛ばす能力があるみたいだ。キンクリもびっくり。というか、あのまま時が一生止まっててもよかったんだけどさ……。
ほわわんと青春の一ページの出来事を振り返っては、漬物を飴みたくしゃぶっては舌で転がす。飲み込むという考えにすら辿り着けずにいると、助六は本気で心配そうに体調を気遣ってきた。
「まさか、小毬の奴にビシバシ休みもなく働かされたのか? そうだろ、そうなんだろ? あの団子女! ひとっ走り文句言ってやる!」
「ああ違う違う! ちょっと具合が悪いだけだ! 落ち着けって!」
「ケッ、そうゆうことか。元気が出ないときはな、殿様に頼み込んで春画を見せてもらえ。湯屋辺りで小耳に挟んだ話だけんど、殿様専用の春画師がいるってもっぱらの噂だ。すんごいよな~……っておい、スグル! やっぱ具合悪いんだろ!? 唇まで真っ白けだぞ!」
「そ、そうか? 全然、そんなことねぇって……」
「もうとっとと帰って寝ろ! 今晩は棒も握るな! ほれ!」
「ははは、お邪魔しました……」
助六に半ば強制的に家に帰させられ、苦い笑顔をふりまいて後にした。体調が悪いというよりかは、話を聞いて体調不良になってしまった。殿様専用の春画師がいるなんて、どこでどう情報が流出したんだ? 城の誰かだとしたら、お漏らし情報がすぎる。俺がその春画を描いているとバレたくないかと問われたら首をかしげてしまいそうになる。なんていうか、どうせなら正体不明の方が……かっこいいし。
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