エロ絵師、江戸に飛ばされて春画描くってよ。

マンボウ

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第二幕 江戸の生活をシよう!

第三十八話 弘法筆を選ばず

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 でも、殿様と話す機会なんてそうないことだ。意見というか、要望を出すなら道具のことだ。今回は墨汁と筆のみで春画を描いたが、やっぱり絵師としては物足りないのが正直なところ。

 絵具のような物があれば表現方法にもすごく助かる。今の緊縛でそこそこの評価を得たのなら、現代のおねショタとか触手とか寝とられとか豊富なエロジャンルを使ったら、歴史の教科書に載りそうな人間国宝扱いされたりするのでは?

 そうだ。上手いこと動けば、江戸時代でワンチャン、なろう主人公みたく崇められるんだ――!

「殿様! やっぱりひとついいですか?」

「なんだ」

「次の春画は色がついたもので描きたいので、絵具とかって江戸の町にありますか?」

 答えはあるかないかで来るだろうと思っていたそのとき、殿様は大きく鼻で笑った。雲行きが怪しい。選択ミスだったと悟る。

「絵具を使えば、これまでにない史上最高の春画が描けるのか?」

「えっと……いや、表現の幅とかぐっと広がるんじゃないかな……って?」

「小僧、弘法筆を選ばずという言葉は知っているか?」

「なんとなく……」

「説明してみろ」

「才能がある人ほど道具や材料にあれこれ物申さず、手元にある物で使いこなすといった意味です……」

 上手く動くどころかマイナス方面へ進んでしまった。調子に乗りやすい性格が災いした結果が、あまりにもいたたまれない。ミツみたく襖をぶち破って逃げ出したい。

「今の発言は撤回します。申し訳ございませんでした」

「うむ、期限は七日後だ。それまでに描いた絵を持ってくるがいい」

「はい。失礼します」

 額を畳にこすりつけんばかりに土下座をした。それから茶屋に戻って仕事を再開するため急ぎ足で城の出入り口となる門に踏み入れようとしたタイミングで、千代姫が門の傍に立っているのが見えた。雰囲気的に俺のことをずっと待っていたらしい。

「スグル様、もうお話は終わったのですか?」

 う~ん、もう可愛い大好き! いつも以上に愛おししさがMAX。今願いが叶うなら健全な意味で抱きしめたい。

「はいとりあえず。というか、千代姫ずっとここに?」

「ええ。私もスグル様に会いたいから一緒に行きたいって何回もお願いしたのに。爺やたちから絶対に来てはいけないってものすごい剣幕で言われちゃいました」

「あらら、そうなんですね」

 爺やたちの判断は正しい。春画プレゼンテーシを我を忘れそうなぐらい熱く語ってしまった側としては、千代姫が来なくて正解だ。千代姫が悪ではないが、もしあそこに居座られたら却ってあんなに喋れなかった。
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