エロ絵師、江戸に飛ばされて春画描くってよ。

マンボウ

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第二幕 江戸の生活をシよう!

第三十七話 見られている見られている!

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 自分を褒め讃えては、春画のモデルとなったミツに何気なく視線を送る。すると全身が火照ったように赤みがかって、汗が絶え間なく流れていた。そして唇をパクパクと動かしている。こちらからでは遠くて聞こえないが、あの動きは……み、ら、れ、て、い、る? 

 はは、なるほど。「見られている」って言っているのか。ミツと俺以外の人間は、まさか本当に縛って記録した絵だと夢にも思うまい。お構いなしに春画をじっくりとご鑑賞。ミツは絵と重ねて自分が大勢に、それも知り合いに不埒な格好を晒していると感じてしまい大興奮というわけか。裏付けとして右手がゆーっくりと股間近くまで下がっていっては、どうしようかと五本指はテクニシャンのように華麗に動いて行き場のない迷子状態となっている。

 ピコーン、悪魔の閃きが現れた。

「ああっとそうだ、ひとつ言い忘れていました! 実を言うとですね、この春画を描くにあたって参考にした人がいます」

「ほう、誰だ」

「はい。そこにいるミツです。彼女はとても強く正しく凛々しいお方であり、自分みたいな弱い男は歯が立ちません。そこで、彼女を縛ったらこんなふうになるんじゃないかな~? と、自分勝手な想像で描き上げました!」 

「へぇ、ミツか。よく見れば雰囲気とかちょっと近いしいな」

「あの子はたしかに千代姫様にも信頼されてるし、責任感が人一倍強いわよね。この絵みたく縛ったらこうなっちゃうのかしら?」

「おや、待てよ。目元とか似てねぇか?」

 俺は露骨にミツの顔を見ながら説明をすれば、ちょっとした事件みたいな騒ぎから、またも第二回目の互いに意見を言い合う大討論会へ入った。実物のミツと春画の女性を見比べる者が多数出没。

「み、見られている見られている……っ! 私がっ、見られている……っ!」

 口が上に開くたび白い歯に唾液の糸が引いてはハァ~ハァ~。ミツの熱くねちっこい呼吸音が届いてくるようだった。笑っちゃダメなんだろうが、反応がすんごく面白い。

「あ~っと、皆さん。あ、く、ま、で、も! これは私個人の妄想にしかすぎません。勘違いされてはミツにも迷惑がかかるのでミツと断定しないで改めて、今一度、まじまじと、ご覧になってください!」

 愉快な心地をもっと味わいがため、見る者たちを煽る感じで声を張り上げれば、おや? ミツの様子が……。

「見られてる見られてる見られてるーっ!! うあああああああーっ!!」

 突如獣の如く雄叫びを上げるやいなや、忍者走りで襖をぶち破って逃走。外の景色が一望できるほどの大きな穴がぽっかりと出来上がった。

「ひいいぃっなんということを! 殿がお気に召した襖の柄に穴が! 殿、私からミツにしっかりと言い聞かせて――」

「放っておけ。今は小僧が先だ」

 泡吹き爺やを遮って殿様は神妙な物言いを残す。ざわめいていた室内は信じられないぐらいに静まり返った。息をしている人間が自分以外いないのではと疑問を抱くほどだ。外で一陣の風が吹き、木の葉がざわめく音たちが妙に奥深くの鼓膜へこびりついては、今までずっと大人しかった心臓が早鐘を打ちまくる。
 皆が殿様が次に出す言葉を耳を傾けた。

「――藤山スグル、続けて二枚目の春画を描け。私も見たこともない、とびきりの力作を見せるがいい」

「は……はいっ!」

 よっしゃ! 助かったけど、なんかハードルめちゃ上がった!? とびきりって言われても人それぞれだ。好きなシチュエーションとか希望とかあれば有難いんだが。聞いたら殺される? でも、聞くのは一時の恥、聞かぬは一生の恥って言われるぐらいだしな……意味の重さが違うけど。

「あの、殿様?」

「なんだ」

「……や、なんでもないです」

 無理無理無理、無理だ。眼球を動かしただけで威嚇みたいな尖った眼光。立ち向かうに至らないとしても、ディープな受け答えはまだまだできっこない。
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