エロ絵師、江戸に飛ばされて春画描くってよ。

マンボウ

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第二幕 江戸の生活をシよう!

第二十九話 チョロイン、爆誕!

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 ではここで今一度、心にあるキャンバスを白紙に戻そう。気の強いミツが受け身となって自由を奪われた縛りをされたことを想像。眉間のシワ、目つき、唇の形、ポーズ、どう変化するだろうか。

 緊縛はSM業界でもポピュラーの王道のプレイ。自身はSMの世界に深く関わったことはないけれど、緊縛に至っては種類豊富な拘束具に、一本の縄から出来上がる無数の縛り方があり、非常に奥が深いと認知をしている。また変態のお遊びだと軽々しくまとめてはならない。芸術に片足を突っ込んでいると言っていただきたい。なんて緊縛の回し者みたいなことを思いながら、ぼんやりとでもあるが一枚の春画が脳内で出来上がった。

 時間は無制限ではない。忘れないうちに早く筆を動かすのだと、気持ちを引き締めて一番細い線が描ける筆を持って、いざ参る!

「…………」  

 一難去ってまた一難。またもピンチ。右手が動かず、半紙とにらめっこが続いている。ちゃんと描きたい絵が定まったんだ。今さらなにを怖がっているのか中の自分に尋ねても答えは出ない。描きたい欲が十二分あるのは確定している。またまた謎が謎を呼び、喉元から力んでは低い唸りが漏れてきたことろでようやく、この描けないスランプの理由があっさりと判明。

 それは――実際にミツを縛って春画を描きたいという新たな欲が芽吹いてしまったのである。

 ……はは、なにをバカなことを。たしかに肉付きはよく、縛ると緊縛映えたりもしそうだが、あの暴力系淫乱忍者に頼んだところでボコボコの返り討ちにあって最悪殿様に告げ口されるがオチ。変な気はよせ、さあさあ描こう。改めて筆を持ってレッツゴー。

 道理から外れた青い念など捨て去るため、無理にでも半紙にしがみついて筆先を垂らすも、

「ぬううう~……っ!」

 トイレでふんばるときのような苦しみぬく声色を出さずにはいられない。どろどろの脂汗を落としながら、必死に集中しようとしても今は描きたい欲よりも、ミツを縛りたい欲が強まっていた。ダメだ、もうここまできたら抑えられん!

 筆を置いた俺は、ミツの方向に土下座をしてから大声を上げる。

「お願いだミツ! お前を春画の手本にさせてくれ!」

「断る、黙れ、静かにしろウジ虫」

 すかさず来ちゃった人格否定文。だけども、これは想定内だ。俺の欲望はそれくらいじゃ負けへんで~!

「頼むっ! 終わったら俺のことボコボコにしていいから! ほんのちょっとお手本にするだけだ。な? いいだろ?」

「死ね」

「生きる!」

「ええい、喋るなウジ虫!」

「最初で最後のお願いだ! お前って結構美人さんだし、絵にしたらすごい映えると思うんだよ!」

「び、美人……? 私が……?」

 美人と口にした途端、吊り上がり眉だったミツの面構えは柔らかくなっていき、脱力したような声を出す。さも美人と言われた経験がないような反応。このとき、俺の中であくどい思惑がピコンと光った。これは、押せばいけるやつ……?

「えっ? 知らねぇの? お前、かなり美人だぞ? ミツを最初目にしたとき、千代姫の姉上かと勘違いしたぐらいだったぞ」

「な、なにをバカな! 美人だの姉上だの実にくだらん!」

「ん~、そうか。俺はミツの美貌を春画とはいえ表現したかったけどな~。まっ、人に見つからない美しさってのも儚げでいいけど。美人のミツが嫌なら仕方ない。やめようやめよう、や~めたっと!」

 アホっぽくお手上げのポーズを最後にきめれば、顔を赤くしたミツは弱弱しくこんなことを言った。

「ふん、貴様が千代姫様を想像して描くという警戒があるから私がお手本としてなってあげないこともない……っ」

 チョロイン、いっちょ上がりぃ!
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