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第二幕 江戸の生活をシよう!

第二十七話 少年よ、春画を描け

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「あ……っ」

「あ……っ」

 何かに反応しては吐息を交えたミツの「あ……っ」と他人の乳首を初めて触れた俺の「あ……っ」が、滑稽なほど揃っては無音で薄暗い部屋の中へと浮かび上がっていった。

 黒のタンクトップの下はノーブラで軽いサラシを一枚巻いたのみであろう。偽物ではない乳首の感覚を指先に触れたことに感動にも近い感情がじゅわ~と溢れていれば――おかしい、そこからの記憶がすっぽりと抜け落ちたようになくなっていた。

 意識を取り戻せば、ふくれっ面をしたミツが壁に腕を組んでもられかかっており、俺は俺で頬がハムスターの食事光景みたくバンバンに膨れ上がっていた。なるほどな、アホみたいに連続ビンタされて記憶がぶっ飛んだと推測。

「で? お前なにしにきたの?」

 機嫌を悪くさせないように乳首の件を掘り返すのはやめて、とりあえずここは用件だけを聞いた。あ~、喋りづらい。口内までめちゃくちゃ痛いのなんの……。

 そうすればミツも多少は大人なようで、やや苛立ちながらこう口にした。

「殿様から命令だ。今晩で一枚、春画を描け」

「え? 一晩って……いやいや、道具とかなんも……」

「貴様に目はないのか。道具ならある」

「うおっ! いつの間に!?」

 記憶が飛んでいるときになのか、六畳ほどの畳には書初めに使用しそうな半紙一枚と墨汁と細さが大中小ある筆が一本ずつ。それとロウソクの灯なんて比じゃない、壁の染みまで照らす立派な造りの行灯が置かれていた。

「さあ描け」

「分かった。描く、描くけどよ……お前、帰らないのか?」

「逃げ出さないように絵が完成するまで見張っておくよう言われた。分かったら早く描け、ウジ虫」

「ええ……?」

 暴力系忍者でも相手はお年頃の女子。俺は異性と一夜を過ごすのも初体験。それに追加して春画を前でお披露目するかのように描くって、なんちゅープレイだ!

「せめて外行ってくれね……?」

「黙れウジ虫、早くしろウジ虫、息するなウジ虫」

 どうしてよいのか分からず困惑してオタオタしているのに、遠回しに死ねときつい言い回しをされては急かされる顛末。これ以上文句は言われたくないのもあり、大人しく半紙を敷いたところへ正座をして筆を持とうと指をかけようとしけれども、やめた。アイディアがなんもないのに筆を握るのはよくない。まずはどんな春画を描くか練らなければ。それのみか渡された半紙は一枚のみ。失敗は絶対に許されない。筆は現代でもアナログの練習で使用していたから画力が下がるとかそういった今のところ心配はない。まあ、上手く描けて映えるかは墨汁の質次第。

「えーと、どうすっかな……」

 考えろ、考えろ、考えろ。これだと思う、描きたいエロはなんだ? さあ思い出してみろ。あれほどエロが描きたいと疼いて、ムラムラしていたはずだ。思いつくだけでいい、思いつけ……ぐぬぬ、おかしい! 出ないだと!?

 俺は果てしない迷走の道へ入りこんでしまった。どんなことを描きたいのか、どう表現したいのか、そもそも春画とエロは違ったりするのではないか等々、マイナス方面ばかりに進んでいき、視野が広く見えなくなっていたのだ。一刻も早く抜け出そうと、もがいても遅し。魔の手はもう既に足元に忍び寄り、ガッチリと拘束されてしまったのである。

 これは、大ピンチだ――!
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