13 / 51
第一幕 江戸にイこう!
第十二話 無理難題
しおりを挟む
風が優しく吹くだけで、戦慄が体の芯から突き抜けていく。周りがざまあみというふうに蔑んではコソコソと内緒話をする。空気はたちまち悪くなり、今ので打ち首ルートに大きく進んだ気がした。
ミツや爺やは、殿様に俺が千代姫を襲おうとした、とんでもない大罪人と伝えたことであろう。でなれば、一発目から娘を襲おうとしたのか聞くはずもないし、なにより指先がもう刀の持ち手部分に触れかかっている。現代ではなく、江戸で骨を埋めて人生終了だなんて。これは洒落にならないレベル。マジで殺される五秒前だ。
死ぬのだけは絶対に嫌だ。回避したい。強く生きたいという意思がまだ残っており、どろどろと不穏な雰囲気の中、下げかかっていた面を前に上げて殿様に向けてこう言った。
「殿様、それは誤解です。俺はこの世界の者ではなく、未来から飛ばされて江戸にやってきたんです! 気づいたらこの神通城ってところにいて、偶然お宅の娘さん、千代姫に出会っただけであって――」
理由を話している最中にもかかわらず、斜め後ろで傍聴していた一人の袴姿の男がブハッと吹き出したのだ。とすれば隣にいた者にも笑いは感染していき、次第に爆笑の渦へと包まれた。その笑いは場を和やかにさせるものではなく、馬鹿にした汚い笑い。
なにがおかしい。嘘なんか一滴も混入していない事実だぞ。悔しい思いをぶちまけても、ストレスが発散していくはずもない。ポイントみたく溜まっては破裂寸前。長いこと馬鹿笑いは続く。とうとう悔しさがこらえきれず、周りの人間には聞こえない程度で小さな舌打ちをかました。
ところが舌打ちのすぐ後から
「やかましい」
殿様はポーカーフェイスで淡々と五文字をこぼすかように言えば、お祭り騒ぎが面白いぐらいにピタリとやんだ。とっさに自分に言ったのかと思い、嫌な汗がじんわり流れ出したぐらい。
「それでは小僧、お前は未来から来たと?」
「えっ、ああ……はいっ。今の時代から四百年か五百年ぐらいの世界から来たんです!」
何事のないよう会話を続けていくことに、またもや心臓が恐縮する。俺の心臓が昨日から忙しすぎて若干メンタルの心配をしてしまう。
「では聞く。これから江戸はどうなる?」
「へ?」
「未来から来た者なら知っているはずだ。江戸はどこへ向かい、どう変わっていくのか、さあ答えよ」
「は……」
え、えええ、江戸のこれからを教えろだと!? 知るか――!!
あまりにも急すぎる質問。足りない頭をフル回転させて、江戸に関連する単語や出来事を探しまくる。サッと浮かぶのはナポレオン、チンギスハン、コロンブスといった日本史に関わることのない横文字の人物ばかり。こういったときに限って出ないのが人間というものだ。
全くといっていいぐらい思いつかん! 授業で習った新しい記憶といっても、高校は世界史を選択。長いこと日本史と触れ合っていない脳みそに残っていたら逆にすごい。って、まずい! そうこう考えているうちに沈黙も長引いていく! どうすればここを生きる道を開けるんだ……っ!?
ヴァ~! 悩みに悩んでいると、痺れを切らしたのか
「なぜ黙る? まさか我を騙したか?」
痛いお言葉が返ってきた。喜怒哀楽どれにも当てはまらない表情、血も凍る不気味さが動悸をより高めた。
「とととと、とんでもございやせん!!」
これにはすぐに否定を返す。そうすれば殿様は、だったら早く答えろといった感じで顎を軽く上へ動かす。なんでもいいから答えろという俺と、下手に話せばまた誤解されるやめておけという俺が胸の中でひたすら会議を行っては大パニック。ぐるぐると思考も視界も回ってどうすればいいんだ……。
「もういい」
黙りこくる静けさに呆れた殿様は、ため息をつくと、次に迷わず腰にあった日本刀を引き抜いては刃を俺の首元へピッタァ……。喉仏のと距離は、数センチもない。そこで殿様は刃先を止めたのだ。
ミツや爺やは、殿様に俺が千代姫を襲おうとした、とんでもない大罪人と伝えたことであろう。でなれば、一発目から娘を襲おうとしたのか聞くはずもないし、なにより指先がもう刀の持ち手部分に触れかかっている。現代ではなく、江戸で骨を埋めて人生終了だなんて。これは洒落にならないレベル。マジで殺される五秒前だ。
死ぬのだけは絶対に嫌だ。回避したい。強く生きたいという意思がまだ残っており、どろどろと不穏な雰囲気の中、下げかかっていた面を前に上げて殿様に向けてこう言った。
「殿様、それは誤解です。俺はこの世界の者ではなく、未来から飛ばされて江戸にやってきたんです! 気づいたらこの神通城ってところにいて、偶然お宅の娘さん、千代姫に出会っただけであって――」
理由を話している最中にもかかわらず、斜め後ろで傍聴していた一人の袴姿の男がブハッと吹き出したのだ。とすれば隣にいた者にも笑いは感染していき、次第に爆笑の渦へと包まれた。その笑いは場を和やかにさせるものではなく、馬鹿にした汚い笑い。
なにがおかしい。嘘なんか一滴も混入していない事実だぞ。悔しい思いをぶちまけても、ストレスが発散していくはずもない。ポイントみたく溜まっては破裂寸前。長いこと馬鹿笑いは続く。とうとう悔しさがこらえきれず、周りの人間には聞こえない程度で小さな舌打ちをかました。
ところが舌打ちのすぐ後から
「やかましい」
殿様はポーカーフェイスで淡々と五文字をこぼすかように言えば、お祭り騒ぎが面白いぐらいにピタリとやんだ。とっさに自分に言ったのかと思い、嫌な汗がじんわり流れ出したぐらい。
「それでは小僧、お前は未来から来たと?」
「えっ、ああ……はいっ。今の時代から四百年か五百年ぐらいの世界から来たんです!」
何事のないよう会話を続けていくことに、またもや心臓が恐縮する。俺の心臓が昨日から忙しすぎて若干メンタルの心配をしてしまう。
「では聞く。これから江戸はどうなる?」
「へ?」
「未来から来た者なら知っているはずだ。江戸はどこへ向かい、どう変わっていくのか、さあ答えよ」
「は……」
え、えええ、江戸のこれからを教えろだと!? 知るか――!!
あまりにも急すぎる質問。足りない頭をフル回転させて、江戸に関連する単語や出来事を探しまくる。サッと浮かぶのはナポレオン、チンギスハン、コロンブスといった日本史に関わることのない横文字の人物ばかり。こういったときに限って出ないのが人間というものだ。
全くといっていいぐらい思いつかん! 授業で習った新しい記憶といっても、高校は世界史を選択。長いこと日本史と触れ合っていない脳みそに残っていたら逆にすごい。って、まずい! そうこう考えているうちに沈黙も長引いていく! どうすればここを生きる道を開けるんだ……っ!?
ヴァ~! 悩みに悩んでいると、痺れを切らしたのか
「なぜ黙る? まさか我を騙したか?」
痛いお言葉が返ってきた。喜怒哀楽どれにも当てはまらない表情、血も凍る不気味さが動悸をより高めた。
「とととと、とんでもございやせん!!」
これにはすぐに否定を返す。そうすれば殿様は、だったら早く答えろといった感じで顎を軽く上へ動かす。なんでもいいから答えろという俺と、下手に話せばまた誤解されるやめておけという俺が胸の中でひたすら会議を行っては大パニック。ぐるぐると思考も視界も回ってどうすればいいんだ……。
「もういい」
黙りこくる静けさに呆れた殿様は、ため息をつくと、次に迷わず腰にあった日本刀を引き抜いては刃を俺の首元へピッタァ……。喉仏のと距離は、数センチもない。そこで殿様は刃先を止めたのだ。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
如月さんは なびかない。~クラスで一番の美少女に、何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。
八奈結び商店街を歩いてみれば
世津路 章
キャラ文芸
こんな商店街に、帰りたい――
平成ノスタルジー風味な、なにわ人情コメディ長編!
=========
大阪のどっかにある《八奈結び商店街》。
両親のいない兄妹、繁雄・和希はしょっちゅうケンカ。
二人と似た境遇の千十世・美也の兄妹と、幼なじみでしょっちゅうコケるなずな。
5人の少年少女を軸に織りなされる、騒々しくもあたたかく、時々切ない日常の物語。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ルナール古書店の秘密
志波 連
キャラ文芸
両親を事故で亡くした松本聡志は、海のきれいな田舎町に住む祖母の家へとやってきた。
その事故によって顔に酷い傷痕が残ってしまった聡志に友人はいない。
それでもこの町にいるしかないと知っている聡志は、可愛がってくれる祖母を悲しませないために、毎日を懸命に生きていこうと努力していた。
そして、この町に来て五年目の夏、聡志は海の家で人生初のバイトに挑戦した。
先輩たちに無視されつつも、休むことなく頑張る聡志は、海岸への階段にある「ルナール古書店」の店主や、バイト先である「海の家」の店長らとかかわっていくうちに、自分が何ものだったのかを知ることになるのだった。
表紙は写真ACより引用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる