エロ絵師、江戸に飛ばされて春画描くってよ。

マンボウ

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第一幕 江戸にイこう!

第十二話 無理難題

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 風が優しく吹くだけで、戦慄が体の芯から突き抜けていく。周りがざまあみというふうに蔑んではコソコソと内緒話をする。空気はたちまち悪くなり、今ので打ち首ルートに大きく進んだ気がした。

 ミツや爺やは、殿様に俺が千代姫を襲おうとした、とんでもない大罪人と伝えたことであろう。でなれば、一発目から娘を襲おうとしたのか聞くはずもないし、なにより指先がもう刀の持ち手部分に触れかかっている。現代ではなく、江戸で骨を埋めて人生終了だなんて。これは洒落にならないレベル。マジで殺される五秒前だ。

 死ぬのだけは絶対に嫌だ。回避したい。強く生きたいという意思がまだ残っており、どろどろと不穏な雰囲気の中、下げかかっていた面を前に上げて殿様に向けてこう言った。

「殿様、それは誤解です。俺はこの世界の者ではなく、未来から飛ばされて江戸にやってきたんです! 気づいたらこの神通城ってところにいて、偶然お宅の娘さん、千代姫に出会っただけであって――」

 理由を話している最中にもかかわらず、斜め後ろで傍聴していた一人の袴姿の男がブハッと吹き出したのだ。とすれば隣にいた者にも笑いは感染していき、次第に爆笑の渦へと包まれた。その笑いは場を和やかにさせるものではなく、馬鹿にした汚い笑い。

 なにがおかしい。嘘なんか一滴も混入していない事実だぞ。悔しい思いをぶちまけても、ストレスが発散していくはずもない。ポイントみたく溜まっては破裂寸前。長いこと馬鹿笑いは続く。とうとう悔しさがこらえきれず、周りの人間には聞こえない程度で小さな舌打ちをかました。

 ところが舌打ちのすぐ後から

「やかましい」

 殿様はポーカーフェイスで淡々と五文字をこぼすかように言えば、お祭り騒ぎが面白いぐらいにピタリとやんだ。とっさに自分に言ったのかと思い、嫌な汗がじんわり流れ出したぐらい。

「それでは小僧、お前は未来から来たと?」

「えっ、ああ……はいっ。今の時代から四百年か五百年ぐらいの世界から来たんです!」

 何事のないよう会話を続けていくことに、またもや心臓が恐縮する。俺の心臓が昨日から忙しすぎて若干メンタルの心配をしてしまう。

「では聞く。これから江戸はどうなる?」

「へ?」

「未来から来た者なら知っているはずだ。江戸はどこへ向かい、どう変わっていくのか、さあ答えよ」

「は……」

 え、えええ、江戸のこれからを教えろだと!? 知るか――!!

 あまりにも急すぎる質問。足りない頭をフル回転させて、江戸に関連する単語や出来事を探しまくる。サッと浮かぶのはナポレオン、チンギスハン、コロンブスといった日本史に関わることのない横文字の人物ばかり。こういったときに限って出ないのが人間というものだ。

 全くといっていいぐらい思いつかん! 授業で習った新しい記憶といっても、高校は世界史を選択。長いこと日本史と触れ合っていない脳みそに残っていたら逆にすごい。って、まずい! そうこう考えているうちに沈黙も長引いていく! どうすればここを生きる道を開けるんだ……っ!?

 ヴァ~! 悩みに悩んでいると、痺れを切らしたのか

「なぜ黙る? まさか我を騙したか?」

 痛いお言葉が返ってきた。喜怒哀楽どれにも当てはまらない表情、血も凍る不気味さが動悸をより高めた。

「とととと、とんでもございやせん!!」

 これにはすぐに否定を返す。そうすれば殿様は、だったら早く答えろといった感じで顎を軽く上へ動かす。なんでもいいから答えろという俺と、下手に話せばまた誤解されるやめておけという俺が胸の中でひたすら会議を行っては大パニック。ぐるぐると思考も視界も回ってどうすればいいんだ……。

「もういい」

 黙りこくる静けさに呆れた殿様は、ため息をつくと、次に迷わず腰にあった日本刀を引き抜いては刃を俺の首元へピッタァ……。喉仏のと距離は、数センチもない。そこで殿様は刃先を止めたのだ。

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