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第一幕 江戸にイこう!
第六話 Hey 尻
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馬鹿げた考えだが、これが番組のセットではないのなら単純に夢か、あの赤い月で令和時代から昔の江戸っぽい時代に飛ばされたってことになる。
流行りのスライム転生でもなれけば、パーティーを組むギルドのある異世界舞台でもない、昔の日本に飛ばれた。……アホくさ、一番ありえないのはこれだ。
「すいません。今から俺が質問することに正直に答えてもらえますか?」
向かい合わせにいる姫様へ真剣な顔つきでそう話す。
和やかな雰囲気から一変したのを感じとったらしく、困惑を見せてもすぐに眉毛をキリッと上げて「はい」と芯のある返事をした。
夜のささやきが聞こえる空気の中、少し沈黙をおいてから質問を並べる。
「今の年号と日付、この場所、あなたのお名前を嘘なしで正っっっ直に教えてください」
「年号と場所と……私の名前ですか? てっきり父上のお知り合いかと思っていました」
ほら出た。演技? 演技ならそう言ってくれ。頼むから。
祈るように握り拳の中には、じんわりと大量の汗が生産されていく。
「今は元禄七年六月十三日で、ここは江戸の中心にある神通城です。そしてこの城の姫である千代と申します」
「げんろく?」
元禄って、慶長、元和とかの……江戸時代の年表のことだよな?
「はい、元禄です」
千代姫と名乗る彼女は、またも満面の笑みでそうハッキリと答えた。俺には嘘をつく人間を見破る力なんて持ち合わせない。けれど、それらの言葉に嘘は見えなかったのだ。ほんのひとかけらも。この子は正直に答えている、と。
ええと、整理しよう。バイト帰りに赤い月に光でこの江戸時代に飛ばされて来たと? ……ん? これは俺がさっき一番ありえないと考えていた一説では?
「ふ、ふふふっ! あはははははーっ! マジかよ! ありえねー!!」
そんなおかしな話があってたまるか! 馬鹿馬鹿しい! 笑いが止まらないぞ!
歯医者に歯を見てもらうように全面を天に向けて体を反らせては、ますます爆笑が加速する。
「え? えっ、あの?」
千代姫はいきなり狂い笑いをする俺を見ては焦りの表情を浮かべて落ち着いてくださいといわんばかりに両手を前に出して止めのポーズ。タイムスリップをしたなんて非現実的なことを簡単に受け入れる余裕などはない。なのでこれは夢ではないのか? そんな思いがムクムクと生まれ始めたので確かめることにした。
夢かどうか確認する方法としてはスタンダードに痛みを与えるのがいい。痛みならば今すぐ自分の腕を抓ればすぐに解決するだろうが、そんな普通なことはしない。
俺は湿り気のある地に四つん這いなっては、お尻の方を千代姫の方へプリンと突き上げる。
「さあ姫、俺の尻を思い切り蹴り上げてくださいっ!」
どうせ痛みを伴うのならば、可愛い子に蹴り上げてもらいたい。
なぜならこれは――夢だから!
夢であってほしい興奮状態から現実世界では絶対にしない大胆、というよりセクハラまがいのことをしでかす。見ず知らずの男を尻を蹴れと言われた千代姫は蹴り上げるはずもなく、耳の端まで赤くして後ずさりをしながら、
「な、なにしているんですか!?」
「おっと、慌てないでください。これに深い意味はございません。ただあなたに蹴られてたいだけです」
「人様を蹴るだなんていけません!」
「でしたらこれを毬だと思ってどうぞ!」
「そんな汚らわしい毬など存在しませんっ!」
う……、ごもっとも……。
ぴしゃりと正論を言われたところで、興奮は冷えきってから、徐々に我に返っていく。落ち着きを取り戻せば、己のした恥ずべき行為を思い出しては脳内で切腹をしまくった。
流行りのスライム転生でもなれけば、パーティーを組むギルドのある異世界舞台でもない、昔の日本に飛ばれた。……アホくさ、一番ありえないのはこれだ。
「すいません。今から俺が質問することに正直に答えてもらえますか?」
向かい合わせにいる姫様へ真剣な顔つきでそう話す。
和やかな雰囲気から一変したのを感じとったらしく、困惑を見せてもすぐに眉毛をキリッと上げて「はい」と芯のある返事をした。
夜のささやきが聞こえる空気の中、少し沈黙をおいてから質問を並べる。
「今の年号と日付、この場所、あなたのお名前を嘘なしで正っっっ直に教えてください」
「年号と場所と……私の名前ですか? てっきり父上のお知り合いかと思っていました」
ほら出た。演技? 演技ならそう言ってくれ。頼むから。
祈るように握り拳の中には、じんわりと大量の汗が生産されていく。
「今は元禄七年六月十三日で、ここは江戸の中心にある神通城です。そしてこの城の姫である千代と申します」
「げんろく?」
元禄って、慶長、元和とかの……江戸時代の年表のことだよな?
「はい、元禄です」
千代姫と名乗る彼女は、またも満面の笑みでそうハッキリと答えた。俺には嘘をつく人間を見破る力なんて持ち合わせない。けれど、それらの言葉に嘘は見えなかったのだ。ほんのひとかけらも。この子は正直に答えている、と。
ええと、整理しよう。バイト帰りに赤い月に光でこの江戸時代に飛ばされて来たと? ……ん? これは俺がさっき一番ありえないと考えていた一説では?
「ふ、ふふふっ! あはははははーっ! マジかよ! ありえねー!!」
そんなおかしな話があってたまるか! 馬鹿馬鹿しい! 笑いが止まらないぞ!
歯医者に歯を見てもらうように全面を天に向けて体を反らせては、ますます爆笑が加速する。
「え? えっ、あの?」
千代姫はいきなり狂い笑いをする俺を見ては焦りの表情を浮かべて落ち着いてくださいといわんばかりに両手を前に出して止めのポーズ。タイムスリップをしたなんて非現実的なことを簡単に受け入れる余裕などはない。なのでこれは夢ではないのか? そんな思いがムクムクと生まれ始めたので確かめることにした。
夢かどうか確認する方法としてはスタンダードに痛みを与えるのがいい。痛みならば今すぐ自分の腕を抓ればすぐに解決するだろうが、そんな普通なことはしない。
俺は湿り気のある地に四つん這いなっては、お尻の方を千代姫の方へプリンと突き上げる。
「さあ姫、俺の尻を思い切り蹴り上げてくださいっ!」
どうせ痛みを伴うのならば、可愛い子に蹴り上げてもらいたい。
なぜならこれは――夢だから!
夢であってほしい興奮状態から現実世界では絶対にしない大胆、というよりセクハラまがいのことをしでかす。見ず知らずの男を尻を蹴れと言われた千代姫は蹴り上げるはずもなく、耳の端まで赤くして後ずさりをしながら、
「な、なにしているんですか!?」
「おっと、慌てないでください。これに深い意味はございません。ただあなたに蹴られてたいだけです」
「人様を蹴るだなんていけません!」
「でしたらこれを毬だと思ってどうぞ!」
「そんな汚らわしい毬など存在しませんっ!」
う……、ごもっとも……。
ぴしゃりと正論を言われたところで、興奮は冷えきってから、徐々に我に返っていく。落ち着きを取り戻せば、己のした恥ずべき行為を思い出しては脳内で切腹をしまくった。
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