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第一幕 江戸にイこう!
第四話 拭えない違和感
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褒められたことにその姫様らしき子は照れくさそうに顔の両側を手で挟むしぐさをする。
「そんなこと言っていただけるなんて嬉しいです。これは母上が着ていたものでして、とても思入れのある物なんです」
「へ、へえ? 母上様が……ね……」
見映えもだが中身も役作りがすごい。劇団ひまわり所属? こっちもどんな反応をすべきなのか、正解が分からない。ただひとつだけ、この子の演技は相当上手いぞ。口ぶりにしぐさも自然で当時の姫を連れてきたって感じがする。
すると姫様はまたも首をかしげながら、俺の方をじぃっと観察するように寄ってきた。
何か顔について…ハッ、このバイト服を見られている!?
今日は全身を動かすバイトだから汚れてもいいある程度首回りヨレヨレのTシャツ一枚と動きやすいストレッチのきいたスキニー。足元は安いスリッポンでいかにもオシャレとは程遠いファッション。
俺のクソバカ! こんな千年に一度の美女と出合うと事前に知っていたらもっとまともな服を着てくるんだった。
後悔のあまり歯ぎしりを相手に聞こえない程度で噛みしめる。
「あなたのそのお召し物、とても変わっていますね。お侍さんでもなさそうですね」
「えっ」
「あとその巾着、曇りのない真白で素敵です。どちらで手に入れたのですか?」
「や、普通にコンビニですけど」
「こんびに……面白い名前っ! 江戸の町にはそんな場所があるのですね。ごめんなさい、私まだまだ世間知らずで」
「あーはは……こんなお城にお住みでしたらそれは世間と離れてしまいますよねぇ……」
とりあえず苦笑いしておこう。
うーん、普通ここまでキャラ作りするか?
俺個人としてはもう普通に接してほしいところでもある。まあ、この子の役者魂と呼ぶべきなのだろう。
人生でそう巡り合わない可愛い子と出会えたのは最高の思い出。こんなに近くで会話も出来たのも夢のよう。だからこそもういい。明日も早朝からバイトがある。いい加減ネタバレをして帰らしてほしい。
そんな苛立ちもあり、お手上げのポーズをする。
「すみません! 俺も明日の予定ってものがあるんで帰らせてもらっていいですかね? スタッフさんとかいるんでしょ?」
テレビ局関係者がいそうな塀の後ろ、松の木、城、ぐるぐると回り呼びかけるも一向にスタッフらしき人が出てくる気配はない。隠しカメラがあるはずだとこれでもかとアメンボのように地面を這いずって探し当てようにもそれらしき物も出てこず。
はあ? 素人がこんなにお手上げしてるんだから早く出て来いよ。まったく、どこのテレビ局だ。
「スタッフー!」
「すたっふ?」
姫様は姫様で棒立ち。からの横文字を初めて聞いたような顔で片言な単語。
「ええ、あなたもどこか小さな頃から劇団に入っていたんですか? 本物のお姫様みたくって大河ドラマに出てそうな勢いでしたよ。あっ、もちろん普通のドラマとかにも。オーディションとかしたら絶対に受かりますって!」
「私、姫に見えない容姿なのでしょうか……」
「えっ」
じんわりと涙を目のふちに溜め込んではしょんぼりとする姫役の子。
な、ななな、泣――!?
いやいや、泣かせるつもりはさらさらなかった。褒めたつもりだったのにそんな反応をされては……こっちが泣てぇっ!
「いや! お言葉が足りずごめんなさい! 十分お姫様です! 俺あなたみたいな綺麗な人生まれて見たことありませんよ!」
「ふふ、そうでしたの」
ホッ、とりあえず笑ってくれた。
修羅場となりかける場を修復させ、胸を撫で下ろした。しかしそれで内側のわだかまり引っ掛かって底から安心できない自分がいた。
ざっくりとまとめると、番組セットとは思えない演出とこの子の見事な演技。そして会話も噛み合っているようで噛み合っていない。
この拭えない違和感は、なんだ……?
「そんなこと言っていただけるなんて嬉しいです。これは母上が着ていたものでして、とても思入れのある物なんです」
「へ、へえ? 母上様が……ね……」
見映えもだが中身も役作りがすごい。劇団ひまわり所属? こっちもどんな反応をすべきなのか、正解が分からない。ただひとつだけ、この子の演技は相当上手いぞ。口ぶりにしぐさも自然で当時の姫を連れてきたって感じがする。
すると姫様はまたも首をかしげながら、俺の方をじぃっと観察するように寄ってきた。
何か顔について…ハッ、このバイト服を見られている!?
今日は全身を動かすバイトだから汚れてもいいある程度首回りヨレヨレのTシャツ一枚と動きやすいストレッチのきいたスキニー。足元は安いスリッポンでいかにもオシャレとは程遠いファッション。
俺のクソバカ! こんな千年に一度の美女と出合うと事前に知っていたらもっとまともな服を着てくるんだった。
後悔のあまり歯ぎしりを相手に聞こえない程度で噛みしめる。
「あなたのそのお召し物、とても変わっていますね。お侍さんでもなさそうですね」
「えっ」
「あとその巾着、曇りのない真白で素敵です。どちらで手に入れたのですか?」
「や、普通にコンビニですけど」
「こんびに……面白い名前っ! 江戸の町にはそんな場所があるのですね。ごめんなさい、私まだまだ世間知らずで」
「あーはは……こんなお城にお住みでしたらそれは世間と離れてしまいますよねぇ……」
とりあえず苦笑いしておこう。
うーん、普通ここまでキャラ作りするか?
俺個人としてはもう普通に接してほしいところでもある。まあ、この子の役者魂と呼ぶべきなのだろう。
人生でそう巡り合わない可愛い子と出会えたのは最高の思い出。こんなに近くで会話も出来たのも夢のよう。だからこそもういい。明日も早朝からバイトがある。いい加減ネタバレをして帰らしてほしい。
そんな苛立ちもあり、お手上げのポーズをする。
「すみません! 俺も明日の予定ってものがあるんで帰らせてもらっていいですかね? スタッフさんとかいるんでしょ?」
テレビ局関係者がいそうな塀の後ろ、松の木、城、ぐるぐると回り呼びかけるも一向にスタッフらしき人が出てくる気配はない。隠しカメラがあるはずだとこれでもかとアメンボのように地面を這いずって探し当てようにもそれらしき物も出てこず。
はあ? 素人がこんなにお手上げしてるんだから早く出て来いよ。まったく、どこのテレビ局だ。
「スタッフー!」
「すたっふ?」
姫様は姫様で棒立ち。からの横文字を初めて聞いたような顔で片言な単語。
「ええ、あなたもどこか小さな頃から劇団に入っていたんですか? 本物のお姫様みたくって大河ドラマに出てそうな勢いでしたよ。あっ、もちろん普通のドラマとかにも。オーディションとかしたら絶対に受かりますって!」
「私、姫に見えない容姿なのでしょうか……」
「えっ」
じんわりと涙を目のふちに溜め込んではしょんぼりとする姫役の子。
な、ななな、泣――!?
いやいや、泣かせるつもりはさらさらなかった。褒めたつもりだったのにそんな反応をされては……こっちが泣てぇっ!
「いや! お言葉が足りずごめんなさい! 十分お姫様です! 俺あなたみたいな綺麗な人生まれて見たことありませんよ!」
「ふふ、そうでしたの」
ホッ、とりあえず笑ってくれた。
修羅場となりかける場を修復させ、胸を撫で下ろした。しかしそれで内側のわだかまり引っ掛かって底から安心できない自分がいた。
ざっくりとまとめると、番組セットとは思えない演出とこの子の見事な演技。そして会話も噛み合っているようで噛み合っていない。
この拭えない違和感は、なんだ……?
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