上 下
75 / 84
ルート4 ヒロインとホテルに行こう!

ゲップよ消え去れ!私はダンシングヒーロー!

しおりを挟む
 そんな、いや、そんな……そんなまさか!?

 ドリンクバーで調合コーラを作り出していた味見が胃の中で塵も積もれば山となる。大きい完全体のゲップを作り出してしまった。私が後先考えない大馬鹿なのはもう認める。だ、け、どっ! なんで歌うときにゲップが来るのよ!? 

 コーヒーをコポコポと抽出していくような、大きな丸い粒が頚の少し下辺りからジワジワと上り詰めていく。ここで声帯を広げでもしたら、迷わず汚いゲップがマイクを広い、穴があったら一生引きこもるほどの醜態を晒してしまう。

 緊急事態ということで、喉の調子がとか言って歌を止めるしか……いいえ、続行よ。見てみなさい。あの愛理の期待に満ち溢れた眼差し光線。それに手拍子までして応援してくれているのよ。だったらちゃんと応えて、最高のパフォーマンスにしなきゃじゃない!

 ゲップ(以下爆弾とする)は、まだ喉までに到達していない。感覚でいうと、みぞおちで停滞してかけては上がったり下がったり。通常なら音も出さずにスッと爆弾を唇から空気中に解き放てるが、カラオケ中の爆弾に出会うシチュエーションは今までも……ってよりかは、現世でも遭遇しなかった。なんせ対応マニュアルがあまりにも少なすぎる。そして焦る場合ではないと言い聞かせても、焦ってしまうのが人間である。

 そんなこんなでイントロは進み、翼をくださいの歌詞が画面に映し出された。

「ぃま~……私のぉ~……」

 出だしは微妙。震えるは、緊張なのかビブラートなのか癖のある震えが混じってしまった。しかし上手い下手関係なく、爆弾が上昇してこないようにするのが最優先。泣き疲れて眠りに入った赤子をベビーベッドに寝かしつける感じで静かに声帯を広げる。

 なんせ「翼をください」はサビで大盛り上がりの高音のイメージと見せかけて、その前も高音がちょいちょい横入りする。次の歌詞にある「叶うならば」を詳しく例えれば「かな↑う↓な↑らば↓」になる。爆弾を抱いた私が器用に高音が出せるはずもない。

 もう、どうしろってのよ……。天変地異が起きない限り、この状況からは抜け出せない。カラオケあるあるの意味不な映像と共に歌詞は新しく表示されていく。当たり前だが、爆弾はまだそこに滞在。ついに、第一関門の高音が来る。あっ、そうだ! 軽くアイドルっぽい振り付けで体を動かしつつ、爆弾を消化させればいいじゃない!

「かなぁ~う、な~らば~……!」

 爆弾投下回避は成功。しかしアイドルっぽい振り付けが思いつかず、瞬時に出たのは激しいステップを左右にしながら愛理へウインク。このステップがジョイマン高木を彷彿とさせる動きだったと反省。でも愛理からは意外と好評らしく、

「すごーい! アイドルみたいです!」

 なんて大興奮。

 はぁ、好き。ていうか、歌がダメならこの体で魅せればいいってことに気づいちゃった。ゲップが出そうになったら、さりげなしにマイクを口元から遠ざければ問題ナシ。あーあ、なんでもっと早く答えに辿りつかなかったんだろ。――ふふ、もっといいこと思いついた! 三咲が歌っているときも、前に出て踊れば私の一人勝ちじゃん!

「しろぉ~い、つぅばっさ~」

 癖の強い歌声も私のパフォーマンスで帳消しってことで。問題の爆弾はというと、つっかえていた違和感もなくなり、これは桃尻エリカの完全勝利ときてしまった。油断はできないけど、さっきまでの不安と焦りがないだけで胸を張って歌えた。後はこのまま最後まで突っ走るだけ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 とある侯爵家で出会った令嬢は、まるで前世のとあるホラー映画に出てくる貞◯のような風貌だった。 髪で顔を全て隠し、ゆらりと立つ姿は… 悲鳴を上げないと、逆に失礼では?というほどのホラーっぷり。 そしてこの髪の奥のお顔は…。。。 さぁ、お嬢様。 私のゴットハンドで世界を変えますよ? ********************** 『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』の続編です。 続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。 前作も読んでいただけるともっと嬉しいです! 転生侍女シリーズ第二弾です。 短編全4話で、投稿予約済みです。 よろしくお願いします。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

【完結】妹に全部奪われたので、公爵令息は私がもらってもいいですよね。

曽根原ツタ
恋愛
 ルサレテには完璧な妹ペトロニラがいた。彼女は勉強ができて刺繍も上手。美しくて、優しい、皆からの人気者だった。  ある日、ルサレテが公爵令息と話しただけで彼女の嫉妬を買い、階段から突き落とされる。咄嗟にペトロニラの腕を掴んだため、ふたり一緒に転落した。  その後ペトロニラは、階段から突き落とそうとしたのはルサレテだと嘘をつき、婚約者と家族を奪い、意地悪な姉に仕立てた。  ルサレテは、妹に全てを奪われたが、妹が慕う公爵令息を味方にすることを決意して……?  

私はモブのはず

シュミー
恋愛
 私はよくある乙女ゲーのモブに転生をした。   けど  モブなのに公爵家。そしてチート。さらには家族は美丈夫で、自慢じゃないけど、私もその内に入る。  モブじゃなかったっけ?しかも私のいる公爵家はちょっと特殊ときている。もう一度言おう。  私はモブじゃなかったっけ?  R-15は保険です。  ちょっと逆ハー気味かもしれない?の、かな?見る人によっては変わると思う。 注意:作者も注意しておりますが、誤字脱字が限りなく多い作品となっております。

拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様

オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈 
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

処理中です...