63 / 84
ルート3 ヒロインのお見舞いをしよう!
バレた!限りなくセーフに近いアウツ!
しおりを挟む
具合が悪くとも普通に受け答えはできる状態なのもあり、私は落ち着いている様で会話を続ける。と、そこへ打ち上げられた魚みたく真横になっているのを見かねた愛理が、
「お布団かけておきますね」
しわくちゃになっていたシーツを伸ばしつつ、寒くならないように肩まで優しくかけた。怠さで手を動かせ図に困っていたときの出来事でもあり、最高のグッドタイミング。日本版ナイチンゲールは彼女で決まりだ。
「あの、桃尻さん」
「ん? なあに?」
「えっと、その、ですね……言いにくいことなんですけど……」
突如愛理は、喉に言いたいことが詰まって言い出せないような素振りで全体的に体をくねらせ、もじもじからのそわそわ。
あらあら、天使が黙り込んじゃって。なにかしら? 言おうかどうか躊躇っているのは強く伝わってくる。トイレだったら若林が話しているとは思うけど、まさか鼻毛が出ているとか!? それとも体臭が酷い!? それか……もしかしてだけど告白っ!? ああん、ここから先の言葉を聞くのが怖い!
ブルブルとワクワクがシャッフルして、どういった表情をすればいいのか分からずに返事を待ち構えていると――
「私に、座薬入れましたよね」
体臭の指摘の方がまだよかった。一ミリも予想していなかった展開へ。それを耳にした瞬間から、私の中の時が止まった。死後硬直が始まったのかと疑うほどの筋肉の硬さ。やがてそれは部屋の空間にも伝染していき、時計の秒針までもがピタリと止まったように感じた。しかし、無惨なことに時は動き出す。
嘘、まさか、なんで、バレていた!? どうしよう……っ。
風邪とは違う嫌な冷や汗と泳ぐ左右の目。なんともあからさまな態度が包み隠さず表に出てしまったことで、こちらが言い訳をしなくとも愛理にはあっけなく真相はバレてしまった。
「やっぱりそうだったんですね。いくら思い出そうとしても自分で座薬を入れた記憶がないんです。でもゴミ箱には薬の入っていた袋があったので、私以外の人が入れたんじゃないかって」
「ご、ご、ごめんなさいいいぃぃぃーっ!!!」
その場で大きいジャンプをして額をベッドのシーツにめり込まんばかりの土下座をして、早口でこう言った。
「本当に騙すつもりじゃなかったの! あの日、愛理の意識が遠くなって、もう救急呼ぼうか迷ったんだけど……って、言い訳がましいわよね! とにかく本当に本当にごめんなさい! 座薬のことは嫌いでも私のことは嫌いにならないでぇ!」
寝ている隙に他人から肛門を弄り倒されたのだ。謝罪されて、すぐに流せる女子高生が――いるんだな、それが。
「顔を上げてください。私は全然気にしていません。むしろお礼を言いたいんです。恥ずかしくないと言ったら嘘になりますけど、桃尻さんが私のためを思ってしてくれた行為だと分かったので謎が解けてスッキリしました」
「うう、なんて優しい子なの……自分で入れたなんて嘘までついたってのに……ごめんねぇ……」
「いえ、私こそ追い詰めるような感じで聞いちゃってごめんなさい。あの日からどうしても座薬のことが心で引っかかって。ボケちゃったのかな? なんて不安になったんです、ふふ」
「あは! そうなんだ。ボケてないわよ、大丈夫。恵先輩にも伝えておかないとね。あの人が結構冷静に対処してくれたおかげでもあるのよ」
なんて話をしながら顔面から垂れ流しの鼻水と涙を拭いていれば、今までずっとふんわりとしたスマイルを浮かべていた愛理が一変。チャームポイントのクリクリどんぐり目には光がなく、「えっ」とワントーン低めの声を漏らした。
「恵先輩も……座薬を……?」
どうやら愛理は私一人で座薬を入れたと思っていたらしい。一般的に考えるとそうなのだ。同姓だからこそ彼女の肛門という聖域に立ち向かえるのである。付き合ってもいない、性行為もしていない異性に肛門を向けるなんて普通の生きている十代の女の子が軽々しくするものでもない。できる子がいたとしても、それは頭もあそこもゆるゆるな馬鹿。
「勘違いしちゃダメよ? 恵先輩は目隠しをして入れたから見えてない、つまり大丈夫!」
だがそれ以上に馬鹿なのは私の方だった。ロクな言い訳もできない。目隠ししたからなんだというのだ。当の愛理は気まずそうに顔を伏せて、床一点を見つめて、羞恥心でいっぱいらしく時々頬を冷ますかのように両手で挟んだりしていた。私も私で下手なことを口走った申し訳なさで、また違う涙が出てくる。この重々しい雰囲気の切り替えようがない。
詰んだ。もうここまでか。近くにあった水の入ったコップを意味なく一気飲みしようとしたとき、横に置いてある、私が入れる座薬の存在を思い出した。ここまではいい。だけど私は自らの意志と反し、スフィンクスのようなポーズをして、お尻を愛しのヒロインへ向けていた。
「愛理。私に座薬を入れるといいわ」
熱というのは恐ろしい。通常では思いつかないような思考回路に行きつくのだから。
「お布団かけておきますね」
しわくちゃになっていたシーツを伸ばしつつ、寒くならないように肩まで優しくかけた。怠さで手を動かせ図に困っていたときの出来事でもあり、最高のグッドタイミング。日本版ナイチンゲールは彼女で決まりだ。
「あの、桃尻さん」
「ん? なあに?」
「えっと、その、ですね……言いにくいことなんですけど……」
突如愛理は、喉に言いたいことが詰まって言い出せないような素振りで全体的に体をくねらせ、もじもじからのそわそわ。
あらあら、天使が黙り込んじゃって。なにかしら? 言おうかどうか躊躇っているのは強く伝わってくる。トイレだったら若林が話しているとは思うけど、まさか鼻毛が出ているとか!? それとも体臭が酷い!? それか……もしかしてだけど告白っ!? ああん、ここから先の言葉を聞くのが怖い!
ブルブルとワクワクがシャッフルして、どういった表情をすればいいのか分からずに返事を待ち構えていると――
「私に、座薬入れましたよね」
体臭の指摘の方がまだよかった。一ミリも予想していなかった展開へ。それを耳にした瞬間から、私の中の時が止まった。死後硬直が始まったのかと疑うほどの筋肉の硬さ。やがてそれは部屋の空間にも伝染していき、時計の秒針までもがピタリと止まったように感じた。しかし、無惨なことに時は動き出す。
嘘、まさか、なんで、バレていた!? どうしよう……っ。
風邪とは違う嫌な冷や汗と泳ぐ左右の目。なんともあからさまな態度が包み隠さず表に出てしまったことで、こちらが言い訳をしなくとも愛理にはあっけなく真相はバレてしまった。
「やっぱりそうだったんですね。いくら思い出そうとしても自分で座薬を入れた記憶がないんです。でもゴミ箱には薬の入っていた袋があったので、私以外の人が入れたんじゃないかって」
「ご、ご、ごめんなさいいいぃぃぃーっ!!!」
その場で大きいジャンプをして額をベッドのシーツにめり込まんばかりの土下座をして、早口でこう言った。
「本当に騙すつもりじゃなかったの! あの日、愛理の意識が遠くなって、もう救急呼ぼうか迷ったんだけど……って、言い訳がましいわよね! とにかく本当に本当にごめんなさい! 座薬のことは嫌いでも私のことは嫌いにならないでぇ!」
寝ている隙に他人から肛門を弄り倒されたのだ。謝罪されて、すぐに流せる女子高生が――いるんだな、それが。
「顔を上げてください。私は全然気にしていません。むしろお礼を言いたいんです。恥ずかしくないと言ったら嘘になりますけど、桃尻さんが私のためを思ってしてくれた行為だと分かったので謎が解けてスッキリしました」
「うう、なんて優しい子なの……自分で入れたなんて嘘までついたってのに……ごめんねぇ……」
「いえ、私こそ追い詰めるような感じで聞いちゃってごめんなさい。あの日からどうしても座薬のことが心で引っかかって。ボケちゃったのかな? なんて不安になったんです、ふふ」
「あは! そうなんだ。ボケてないわよ、大丈夫。恵先輩にも伝えておかないとね。あの人が結構冷静に対処してくれたおかげでもあるのよ」
なんて話をしながら顔面から垂れ流しの鼻水と涙を拭いていれば、今までずっとふんわりとしたスマイルを浮かべていた愛理が一変。チャームポイントのクリクリどんぐり目には光がなく、「えっ」とワントーン低めの声を漏らした。
「恵先輩も……座薬を……?」
どうやら愛理は私一人で座薬を入れたと思っていたらしい。一般的に考えるとそうなのだ。同姓だからこそ彼女の肛門という聖域に立ち向かえるのである。付き合ってもいない、性行為もしていない異性に肛門を向けるなんて普通の生きている十代の女の子が軽々しくするものでもない。できる子がいたとしても、それは頭もあそこもゆるゆるな馬鹿。
「勘違いしちゃダメよ? 恵先輩は目隠しをして入れたから見えてない、つまり大丈夫!」
だがそれ以上に馬鹿なのは私の方だった。ロクな言い訳もできない。目隠ししたからなんだというのだ。当の愛理は気まずそうに顔を伏せて、床一点を見つめて、羞恥心でいっぱいらしく時々頬を冷ますかのように両手で挟んだりしていた。私も私で下手なことを口走った申し訳なさで、また違う涙が出てくる。この重々しい雰囲気の切り替えようがない。
詰んだ。もうここまでか。近くにあった水の入ったコップを意味なく一気飲みしようとしたとき、横に置いてある、私が入れる座薬の存在を思い出した。ここまではいい。だけど私は自らの意志と反し、スフィンクスのようなポーズをして、お尻を愛しのヒロインへ向けていた。
「愛理。私に座薬を入れるといいわ」
熱というのは恐ろしい。通常では思いつかないような思考回路に行きつくのだから。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
婚約破棄?王子様の婚約者は私ではなく檻の中にいますよ?
荷居人(にいと)
恋愛
「貴様とは婚約破棄だ!」
そうかっこつけ王子に言われたのは私でした。しかし、そう言われるのは想定済み……というより、前世の記憶で知ってましたのですでに婚約者は代えてあります。
「殿下、お言葉ですが、貴方の婚約者は私の妹であって私ではありませんよ?」
「妹……?何を言うかと思えば貴様にいるのは兄ひとりだろう!」
「いいえ?実は父が養女にした妹がいるのです。今は檻の中ですから殿下が知らないのも無理はありません」
「は?」
さあ、初めての感動のご対面の日です。婚約破棄するなら勝手にどうぞ?妹は今日のために頑張ってきましたからね、気持ちが変わるかもしれませんし。
荷居人の婚約破棄シリーズ第八弾!今回もギャグ寄りです。個性な作品を目指して今回も完結向けて頑張ります!
第七弾まで完結済み(番外編は生涯連載中)!荷居人タグで検索!どれも繋がりのない短編集となります。
表紙に特に意味はありません。お疲れの方、猫で癒されてねというだけです。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。
《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
悪役令嬢が行方不明!?
mimiaizu
恋愛
乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。
※初めての悪役令嬢物です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる