悪役令嬢になったんで推し事としてヒロインを溺愛しようと思う

マンボウ

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ルート3 ヒロインのお見舞いをしよう!

バレた!限りなくセーフに近いアウツ!

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 具合が悪くとも普通に受け答えはできる状態なのもあり、私は落ち着いている様で会話を続ける。と、そこへ打ち上げられた魚みたく真横になっているのを見かねた愛理が、

「お布団かけておきますね」

 しわくちゃになっていたシーツを伸ばしつつ、寒くならないように肩まで優しくかけた。怠さで手を動かせ図に困っていたときの出来事でもあり、最高のグッドタイミング。日本版ナイチンゲールは彼女で決まりだ。

「あの、桃尻さん」

「ん? なあに?」

「えっと、その、ですね……言いにくいことなんですけど……」

 突如愛理は、喉に言いたいことが詰まって言い出せないような素振りで全体的に体をくねらせ、もじもじからのそわそわ。

 あらあら、天使が黙り込んじゃって。なにかしら? 言おうかどうか躊躇っているのは強く伝わってくる。トイレだったら若林が話しているとは思うけど、まさか鼻毛が出ているとか!? それとも体臭が酷い!? それか……もしかしてだけど告白っ!? ああん、ここから先の言葉を聞くのが怖い!

 ブルブルとワクワクがシャッフルして、どういった表情をすればいいのか分からずに返事を待ち構えていると――

「私に、座薬入れましたよね」

 体臭の指摘の方がまだよかった。一ミリも予想していなかった展開へ。それを耳にした瞬間から、私の中の時が止まった。死後硬直が始まったのかと疑うほどの筋肉の硬さ。やがてそれは部屋の空間にも伝染していき、時計の秒針までもがピタリと止まったように感じた。しかし、無惨なことに時は動き出す。

 嘘、まさか、なんで、バレていた!? どうしよう……っ。

 風邪とは違う嫌な冷や汗と泳ぐ左右の目。なんともあからさまな態度が包み隠さず表に出てしまったことで、こちらが言い訳をしなくとも愛理にはあっけなく真相はバレてしまった。

「やっぱりそうだったんですね。いくら思い出そうとしても自分で座薬を入れた記憶がないんです。でもゴミ箱には薬の入っていた袋があったので、私以外の人が入れたんじゃないかって」

「ご、ご、ごめんなさいいいぃぃぃーっ!!!」

 その場で大きいジャンプをして額をベッドのシーツにめり込まんばかりの土下座をして、早口でこう言った。

「本当に騙すつもりじゃなかったの! あの日、愛理の意識が遠くなって、もう救急呼ぼうか迷ったんだけど……って、言い訳がましいわよね! とにかく本当に本当にごめんなさい! 座薬のことは嫌いでも私のことは嫌いにならないでぇ!」

 寝ている隙に他人から肛門を弄り倒されたのだ。謝罪されて、すぐに流せる女子高生が――いるんだな、それが。

「顔を上げてください。私は全然気にしていません。むしろお礼を言いたいんです。恥ずかしくないと言ったら嘘になりますけど、桃尻さんが私のためを思ってしてくれた行為だと分かったので謎が解けてスッキリしました」

「うう、なんて優しい子なの……自分で入れたなんて嘘までついたってのに……ごめんねぇ……」

「いえ、私こそ追い詰めるような感じで聞いちゃってごめんなさい。あの日からどうしても座薬のことが心で引っかかって。ボケちゃったのかな? なんて不安になったんです、ふふ」

「あは! そうなんだ。ボケてないわよ、大丈夫。恵先輩にも伝えておかないとね。あの人が結構冷静に対処してくれたおかげでもあるのよ」

 なんて話をしながら顔面から垂れ流しの鼻水と涙を拭いていれば、今までずっとふんわりとしたスマイルを浮かべていた愛理が一変。チャームポイントのクリクリどんぐり目には光がなく、「えっ」とワントーン低めの声を漏らした。

「恵先輩も……座薬を……?」

 どうやら愛理は私一人で座薬を入れたと思っていたらしい。一般的に考えるとそうなのだ。同姓だからこそ彼女の肛門という聖域に立ち向かえるのである。付き合ってもいない、性行為もしていない異性に肛門を向けるなんて普通の生きている十代の女の子が軽々しくするものでもない。できる子がいたとしても、それは頭もあそこもゆるゆるな馬鹿。

「勘違いしちゃダメよ? 恵先輩は目隠しをして入れたから見えてない、つまり大丈夫!」

 だがそれ以上に馬鹿なのは私の方だった。ロクな言い訳もできない。目隠ししたからなんだというのだ。当の愛理は気まずそうに顔を伏せて、床一点を見つめて、羞恥心でいっぱいらしく時々頬を冷ますかのように両手で挟んだりしていた。私も私で下手なことを口走った申し訳なさで、また違う涙が出てくる。この重々しい雰囲気の切り替えようがない。

 詰んだ。もうここまでか。近くにあった水の入ったコップを意味なく一気飲みしようとしたとき、横に置いてある、私が入れる座薬の存在を思い出した。ここまではいい。だけど私は自らの意志と反し、スフィンクスのようなポーズをして、お尻を愛しのヒロインへ向けていた。

「愛理。私に座薬を入れるといいわ」

 熱というのは恐ろしい。通常では思いつかないような思考回路に行きつくのだから。


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