悪役令嬢になったんで推し事としてヒロインを溺愛しようと思う

マンボウ

文字の大きさ
上 下
55 / 84
ルート3 ヒロインのお見舞いをしよう!

違う、そうじゃない。その名はTHE・薬!

しおりを挟む
「そうそう! 林間学校のしおり、渡しておくわね。今日色々話があったのよ。あとこれは今日の授業ノート、汚い字かもしれないけどよかったら」

「こんなにたくさん大荷物じゃありませんでしたか?」 

「うふふ、全っ然! それでね林間学校のことなんだけど――」

 林間学校のしおりや学校の出来事、授業の進み具合など一通り話をする。しかし、ここで愛理の急変を感じとる。上半身は自力でしっかりと起きているものの、二の腕あたりが小刻みに動く……いや、ひどく痙攣している。たちまち呼吸も不安定となっていき、なんとか会話が成り立っても目の視点も合っていなかった。これはまずい。

「ね、ちょっと横になろうか」

 落ち着いて声をかけるが、裏側では狂乱状態だった。でもここで私の感情を丸見えにさせてしまうのは絶対にNG。愛理にも混乱を招いてしまうから。急かさず、スローペースで背中から布団に重力を預けるように落としていく。頭部をぶつけることなく眠りにつける状態につけることができたのも束の間、力尽きた抜け殻のように瞼を閉じる。

「えっ、愛理!? 愛理、大丈夫!? ど、どうしよ! これって救急呼ぶやつ!?」

 私は半泣きで話しかけてはオロオロとするばかり。こんなときだからこそ冷静に対処すべきなんでしょうけど、好きな子が死にそうなのを前にして正常でいる方が無理! 応急処置として冷えペタ? いや、応急処置にもなってないような……あーん、もっと知識とか色々つけてくるべきだった! 

 ヤンデレルートを持つ恵を呼ぶか、呼ばないか。究極の選択で迷い、動けずにいると目を閉じたままの愛理が「……薬」と小さな声で言った。

「薬? そっか、病院でもらった薬があるのね!」

 薬だから近場に置いてあるはず……おっ、あったあった。テーブルの上に内用薬って書いてある白い袋発見。この中にある薬を飲ませれば、たちまち元気100%になるってわけね。

 袋の中にある薬を取り出すと、ロケット型の錠剤。飲み込むには大きい薬。高熱のせいで受け答えがやっとの愛理だ。これをしっかりと飲ますには……最悪口移ししかない……!? そ、そんなの、ご褒美じゃないっ! でもでも、愛理が自分で飲めるかどうか確認はしておかなきゃ! 

「寝ているのにごめんね。この薬飲めそう?」

「そ……れ……ざ……や……」

「えっ」 

 ほんの少し前までしっかりと答えていたのに、一文字出すのに絞り出すように唇を一生懸命動かしていたが、もはや呂律が回ってない。

 もしものことかあったらどうしよう。恵の存在などとっくに忘れ、救急車をすぐに呼び出せるようにポケットにある携帯を握りしめながら、今は愛理が伝えたい言葉を聞き取ろうと耳を近くに寄せたところ――

「それ……はっ……座薬……なんで……す……っ」

 愛理はハッハッと呼吸使いをしながら言った。

「ははーん、座薬ね! 座薬、座薬……は? ざさざざっ、ざや……THE・薬……座薬ぅー!?」

 ここで桃尻エリカ版のWikipediaを見てみよう。「座薬」とは、普段出すことしか知らない肛門に逆方向から薬を入れることである。個人的な意見だけど座薬はよく効く。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

婚約破棄?王子様の婚約者は私ではなく檻の中にいますよ?

荷居人(にいと)
恋愛
「貴様とは婚約破棄だ!」 そうかっこつけ王子に言われたのは私でした。しかし、そう言われるのは想定済み……というより、前世の記憶で知ってましたのですでに婚約者は代えてあります。 「殿下、お言葉ですが、貴方の婚約者は私の妹であって私ではありませんよ?」 「妹……?何を言うかと思えば貴様にいるのは兄ひとりだろう!」 「いいえ?実は父が養女にした妹がいるのです。今は檻の中ですから殿下が知らないのも無理はありません」 「は?」 さあ、初めての感動のご対面の日です。婚約破棄するなら勝手にどうぞ?妹は今日のために頑張ってきましたからね、気持ちが変わるかもしれませんし。 荷居人の婚約破棄シリーズ第八弾!今回もギャグ寄りです。個性な作品を目指して今回も完結向けて頑張ります! 第七弾まで完結済み(番外編は生涯連載中)!荷居人タグで検索!どれも繋がりのない短編集となります。 表紙に特に意味はありません。お疲れの方、猫で癒されてねというだけです。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路

八代奏多
恋愛
 公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。  王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……  ……そんなこと、絶対にさせませんわよ?

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

処理中です...