悪役令嬢になったんで推し事としてヒロインを溺愛しようと思う

マンボウ

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ルート1 ヒロインとお近づきになろう!

イケメンどもよ、そこをどけ!私が通る!

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 四人は私を睨む――とまでいかない。喜怒哀楽どれにも当てはまらない真顔だったけど、どことなく強い敵意を感じた。四対一で人数もあちらが多ければ、接近して恋心を抱かれるチャンスも多い。

 だけどそれがなに? そんなことぐらいで怯むとでも? 

 愛の大きさは断然私の方が勝っている。三百六十五日、寝る間も惜しんで肌荒れしても、クリスマスだろうとバレンタインだろうと、私はぐちょメモ、愛理の笑顔や泣き顔、発情顔、アへ顔。そして存在全てに全てを捧げてきたのよ。あの子が好きな物や感じる部位も好きな責めも頭の中に記憶してあるんだから! 

 ――なんて声に出せるはずがない。あたおか認定されては、愛理との距離はますます遠くなるかもしれないのだから。ここは争う姿勢をやめて、警戒を解くのが先。
 
「あなたたちが私を軽蔑するのは当然ですわ。だけど、己の極悪非道な行いを恥じることなく、松風さんに対する嫌がらせを思い返して私は、本当に最低な人間だと感じましたの。謝罪をしたからといって許されるべきではありません。ですが、言葉にして謝りたいんです」

 自分のした行為ではなくとも、桃尻エリカという存在が愛理を傷つけていた。実際、桃尻の裏の策略でバッドエンドに繋がったケースもあった。なんて考えていれば私の瞳からは自然と大粒の涙がこぼれていく。それと空気の読めない鼻ちょうちんが見事にぷくぅ~と膨れ上がったが、涼しい顔をして袖で拭った。

 どうよ!? 女子がここまで泣いて後悔してんのよ? 少しは警戒心を解いてもいいんじゃないの?

「前もそんなこと言って愛理に嫌なことしてたよね……」

「なっ!?」

 嘘!? そんなことあったっけ!?

 ボソリと突っ込む睦月に他の三人がうんうんと激しく同意。警戒心を失くすはずが、それはウソ泣き判定されてしまい、逆効果となってしまったのだ。それ以前に桃尻が愛理に近づいて謝罪の真似事をした出来事なんて覚えがなく、頭はたいへん混乱した。

 どうして? この私が忘れていた? そんなはずがない。……って、まさかっ! ぐちょメモのゲーム内にはない、プレイヤーの知らない嫌がらせがまだまだ多々あったってことなの!? おのれ桃尻……っ!

 桃尻エリカの悪事に虫唾が走る。無意識に舌打ちとギリギリと歯ぎしりを立てたが、前にいる金持兄弟は本当の理由は知る由もない。嘘がバレたことによる逆切れだと解釈しては、あからさまにゴミを見る感じで視線を送る。とくに雅人と三咲。

「とりあえず桃尻パイセンはここでお別れですねっ。バイバイキ~ン☆」

「とっとと失せろ」

「また後でね」

「ちょ、ちょ、ちょっと押すんじゃない! こらセクハラ!」

 雅人と三咲は強制的に私の体を横に押してくる。恵に至っては背中に手を添え、女性の階段の上り下りをエスコートするかのようにジェントルマンを装っているものの、じわじわとバス停から遠ざけていく。負けるかー!! 足元をふんばって頑としてどかない意思を示すが、あっけなく跳ね飛ばされてしまう、男子高校生といっても男の力には敵わない。

 そうして桃尻エリカのいなくなったバス停に平和が訪れましたといわんばかりに、四人はこちらに一瞥もせず談笑をし始めた。

 この金持ちボンボンブラザーズ……っ! 

 憎しみを背中越しに送りつけていたそのとき、一台のバスがやってきた。――そう、愛理が乗っている八時着のバスだ。それを目にした瞬間、憎む気持ちは一層され、バラ色の世界が広がる。画面越しでしか知らない、憧れだった子に会える嬉しさと緊張がごちゃ混ぜとなり、心臓に送る血液が渋滞しそうだった。

 プシュー、気の抜けた音を出して停止するバスの扉が開く。学園近くなので生徒が多数降りてくる。

 一番目、二番目、三番目、まだ降りてこない。四番目、そして五番目に降りる女子生徒の細く輝く足元を見ただけで分かった。

 ――愛理だ。ぐちょぐちょメモリアルの主人公であり、ヒロインの松風愛理がたしかにそこにいた!
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