悪役令嬢になったんで推し事としてヒロインを溺愛しようと思う

マンボウ

文字の大きさ
上 下
1 / 84
ルート1 ヒロインとお近づきになろう!

うっそ~!?あの子の苦手な悪役令嬢に転生しちゃった!

しおりを挟む
「ああ~、最っ高……」

 ――深夜二時。

 明かりもつけない真っ暗な格安ワンルームの一室でねっちょりとした声が響く。

 布団をかぶっては携帯用ゲーム機を舐めるようにプレイするのは、社会人五年目のブラック企業についてくのがやっとのアラサーOLの私。今日も残業で終電間近で体中はどこもかしこも悲鳴をあげていた。

 あと数時間で起床して仕事に行く支度をしなければならないというのに、私には寝る間も惜しんでプレイしたいゲームがあった。

 その名も「ぐちょぐちょメモリアル」というアダルト乙女ゲーム。通称「ぐちょメモ」だ。

 どこにでもあるイケメン四人兄弟と主人公が結ばれるため言葉や行動をポチポチと選択する作業ゲーム。そんなシンプルなゲームでもキャラデザやBGM、豊富なルートでアダルトゲームの中でも非常に人気が高く、近年では未成年でもプレイができるようエロなしの健全バージョンも発売されてはこれまた大人気を博した。

 ぐちょメモの大ファンである私はアダルトも健全版も何週したか覚えていない。関連書籍やCDは全て購入済み。本棚や押し入れはぐちょメモで溢れている。なぜそこまでハマっていると問われたら、単純に推しキャラがいるから。

「ちょちょちょ! その顔反則でしょ!? もうエッッッッッッ!」

 おおっと、いけない。興奮のあまり大声を上げちゃいそうになった。この前、エロすぎて発狂してたら隣人から壁ドンくらったのよね、まったく。

「だけど、そんな発情する顔するあなたが悪いのよ。――愛理」

 そう、私の押しはイケメンキャラではない。ぐちょメモのヒロイン、松風愛理だ。

 でもでも勘違いしないでよ? これはレズとかそういったものじゃなくって憧れ的なやつ。初めて見たらビビッときて沼にハマっちゃったわけ。ほら、女の子でも女性アイドルが好きって子いるでしょ? それと同じ。愛理に出合うまでは、普通に男キャラとか好きだったし。

 だけど、順調にぐちょメモライフを謳歌していた私にあるとき事件が起きた。

 朝の通勤ラッシュのとき、電車に乗ろうと急いで駅の階段を降りようとしたとき、ヒールがこう……太っていたわけじゃないんだけど根本からボキッと折れちゃったの。落ちるとき死を覚悟したんだけど、本当に死んじゃったみたい。

 なぜなら、目が覚めると知らない天井に知らない大きなベッドに眠っていたから。

 それもお姫様みたいなブリブリのフリルつきの枕にベッドシーツ。びっくりして飛び上がれば部屋も何畳あるんだってくらいの広さで、パー子顔負けのピンクまみれの家具たち。

「なにここ? 病院じゃないよね?」

 不安になりながら、部屋を探索すればドレッサーの鏡に映る自分に絶句をした。

 ピンクのネグリジェに両端にドリルのような縦ロール。少しつり目で気の強さがにじみ出ている彼女の名を知っていた。ぐちょメモに登場する桃尻エリカという女だ。

 桃尻財閥の一人娘で性格は悪い悪役令嬢。あの手この手で学校に転校してきた愛理に嫌がらせをする性悪な女である。しかも一度や二度ほどこいつのせいでバッドエンドを迎えたことも。

「え? えっとじゃあ、死んだから流行りの悪役令嬢に転生ってこと? ぐちょメモの? 桃尻エリカに?」

 なにそれ、それじゃあもう現実世界に戻れないじゃない……。

「いやったああああああああぁあぁぁあぁぁあーっ!! ぐちょメモふうううううぅぅぅぅうぅーっ!! 待って待って! それじゃあ愛理と出会って友達になれるってことだよね!? あーん、もう最高じゃない! しかも人生で一番輝く十七歳のときに逆戻り! やだ私ってばアオハルー!!」

 自分が死んでしまったことにショックを受けることは一秒もなく、ぐちょメモの世界に入り込めたことに大喜びをしてガッツポーズをしては高らかに舞った。

 このまま愛理と仲良くなって学園生活をエンジョイして――ん? ちょっと待てよ。たしか、愛理は桃尻エリカにかなり苦手意識を抱いていたはず。プレイヤーの私も桃尻に苛立ってしまうぐらい、卑劣なこともしていた。そんな愛理があっさりと振り向いてくれるわけがない。

「だからってイケメンキャラとのイチャイチャと見過ごす? そんなの嫌に決まってるでしょ! あああ! 嘘でしょ、もうどうすればいいのよー!!」

 頭を抱えながら清潔感のあるカーペットを転がりまくっていれば、あるひとつの考えが頭を過った。

「そうよ、せっかく飛ばされたんだもの。ぐちょメモの知識やデータは全て把握済みの私に男共が勝てるわけがないっての」

 口元をニチャ……と両端に上げて心の中でこう強く誓う。

 男どもを蹴落として、愛理と結ばれるルートを迎えてやる――!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

あなたのことなんて、もうどうでもいいです

もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。 元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

処理中です...