カレー王国ができるまで。

マンボウ

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カレー王国ができるまで

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 あるところに、ルー村とライス村と呼ばれるふたつの村がありました。川には大量のカレールーが流れ、大きな山々はどんぶりをひっくり返した白いライスたちがそびえ立っています。
 ですが、そのふたつの村は毎日飽きることなく大喧嘩。
 その理由は「カレーライスでルーとライス、どちらが多くあるべきか」ということ。
 今日も村を繋ぐ一本のつり橋の上でルー村とライス村は元気に口喧嘩から始まります。
「やいやい、ご飯なんてカレーライスに必要ないんだ! 喉につまったら大変じゃないか! やっぱりカレーライスのメインはルーに決まってる!」
 先手はルー村の人々。怒りに震えてか、下に流れているカレールーも次第とボコボコと地獄鍋のように音を立てていきます。
「ふん、ルーなんてデブの飲み物だ! 僕たちライスがちゃんとしたご飯にしていることも気づかないなんてルーたちは馬鹿ばかりだ!」
 それに負けぬよう強く言い返すライス村の人々。ライスの山たちが「そうだそうだ」と言わんばかりに噴火寸前で震えています。両者、ここまでくるともう止められません。
 カレールーの川は大氾濫、ライスの山は噴火してご飯粒が空から舞っては……あーあ、これではもうカレーライスがめちゃくちゃ。
 そんなとき、聞いたこともない声がします。ルー村とライス村の全員が声のした方を見ると、一枚の福神漬け。よく見れば鼻水を垂らして泣いています。
 そして、
「なあ、どうしてカレーライスにはルーとライスしかないって決めつけるんだ? 福神漬けはいらないのか? どうして最初からいない者として扱うんだ?」
 震えた様子でそう言います。それを聞いたふたつの村は下を向いて誰ひとり答える者は現れません。
「なあ、黙っていないでなんとか言えよ……」
 福神漬けは涙を流しながら、何度も繰り返しました。

 ――後日。
 激しい音を立てていたルーの川はサラサラと穏やかに流れ、ライスの山は緩やかなカーブで小さな山を均一に並べられていました。
 そしてルー村とライス村を見れば、信じられないことに手を皆仲良く手を繋いで踊っているではありませんか。その中には福神漬けもいます。
 両者の村はあの福神漬けの言葉で気がついたのです。
 カレーライスはルーとライスだけじゃない。福神漬けに野菜、隠し味、いろんなものが混ざって、やっと一皿のカレーライスが出来上がるのだと。
 とても仲良しになったおかげでふたつの村は統合し、大きな王国へと生まれ変わったのです。
 その名もカレー王国。
 今日はみんなで楽しくカレーライスパーティーをはじめています。といっても、ここ毎日ずっとずーっとこんなパーティーをしているんですけどね。
 え? また喧嘩するんじゃないのかって? いえいえ、そんな心配いりませんよ。だってほら、夏野菜たちが福神漬けにカレー王国にぜひ住みたいと話しているところですもの。
 これまた、楽しいカレーライスが出来上がりますね。


 おしまい
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