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空気のような彼女

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―――その場所は、都市としての機能はもう果たせないと一目見てもわかる惨状となっていた。
崩れた店舗、根元から折れ隣のビルに辛うじて支えてもらっているビル。所々ひび割れたアスファルトからはちょっとやそっとの量ではない草木が生い茂っていた。都市特有の人のリズムや機械の声などまるで最初から存在しないような静けさが植物をふわりとなで、お辞儀をするように揺れている。
 しかし、そんな場所になんと人が大の字になって仰向けになって倒れているのだ。それもたった一人だけ。だだっぴろい交差点の中央に寝転がっている青年は、たった今目を覚ました。
「・・・? 、  え?」
意識が覚醒した青年がそう呟く。どうやら彼は今自分がいる場所をしらないようだが、辺りを見渡している。しかしやはり、彼にはこの場所は知識にも記憶にもないらしい。先ほどから彼の口は困惑や不安のえ、としかこぼさない。ついには青年は自分の顔を触りだした。
「・・・?・・・っ!?」
なんと彼は自分の顔にも驚愕を感じたようだった。顔にも覚えがないのなら現代であれば前例がないであろう大問題だろう。場所に覚えがないのは、まあ風化しているので分かりにくいというのもあるのだろう。しかし、自分の顔に驚愕しているのであれば、記憶喪失ではない限り整形等で顔を変えられているということになる。故に青年の困惑と恐怖はもし我々なら加速していくだろう。しかし彼の手は、体を叩き足を触り、アスファルトを撫でた。しかも言葉を使っていないのだ。よくある記憶喪失の例だと、「ここはどこ?わたしはだれ?」と言うだろう。実際かどうかは置いておいて、頭に一番最初に浮かぶとしたら先程記した例の方だろう。この例でも言葉は使われているのに青年は使っていない。しかもまだ彼はその場を動いていないのだ。それどころか手というものに感動したのか彼の手はぶんぶんふらふらと空の中で暴れている。人として、触覚に驚くのは仮に青年が記憶喪失だったとしても考えにくいだろう。
 その異様な光景がおおよそ1分ほど続いた頃、いつの間にか女性がいた。彼女は白い髪に金の目、白い服を着ているというまるでファンタジー世界の住人のような姿だが、まるで、でなく彼女のひざ下から下は粉のようなものが地面に落ちていくその状況はまさにファンタジーである。
「こちらを見なさい、男よ。」
彼女が青年に声をかけるが、理解していないのか女性が現れたことに驚いただけで終わり、再び手が宙を泳ぐ。物を叩くのではなく手を使って遊んでいるようだが、彼女にとってはどうでもいいことなのだろう。
【私を見なさい。男よ。】
彼女は少し力をこめた声で青年に話かけると、今度は女性の方へ顔をしっかりと向けた。
「それでよいのです。人よ」
彼女は満足したように言葉をつづける。
 このときから、おかしな男とおかしな女のほうではなく、それらがいる世界が始まったのである。
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