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序章
コードネーム【救世主】
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南側よりアーツェンの街に接近する36の機影があった。
機影というのには、航空機らしさがないが空を飛ぶのだからそう表現するのが妥当だろう。
人型のそれは、背中に2機のエンジン、脚部下の方に片足1機ずつエンジンが付いている。
そして、長身の銃。
または、機関銃といったものを装備している。
緑色のに塗装された機体は、帝国軍が導入したジェット戦闘機Me-262のそれと似ている。
「大隊各位、もうすぐアーツェンの街だ。もう一度、任務について説明しておく。我々の主任務は司令部の防衛にある。したがって攻撃目標は、司令部を害する敵ということになる。対空戦車にくれぐれも気を付けるようにしろ」
部隊の先頭を飛行するのは、指揮官機―――レーベレヒト・エルンハルト少佐の機体だ。
「了解!!」
彼の率いる部隊の全パイロットからの返答が返ってくる。
「エルンハルト少佐、攻撃目標は敵すべてってことかしら?」
指揮官であるエルンハルトの後ろを飛ぶ機体―――二番機のパイロットから質問が上がった。
「アナリーゼ中尉、そういうことになるな」
「昂りますわね」
アナリーゼ中尉と呼ばれたパイロットは、軍隊では珍しく女性だ。
珍しいというと語弊がある。
帝国軍の東部戦線で戦闘を行っている敵国ロシャス連邦では、女性兵士もそれなりにいるという。
女性のエースパイロットが生まれるくらいには、連邦の軍隊には、女性がいるのだ。
アナリーゼは、ニヤリと口角を吊り上げる。
美しい容貌とプラチナブロンドのヘアには、どこか歪いびつで似つかわしくない笑い方だ。
「中尉、俺たちの得物も残しといてくださいよ」
ほかのパイロットたちの声が笑い声をあげた。
「それは。あなたたちの頑張り次第ではなくて?」
「中尉殿は、言ってくれますなぁ」
また、笑いが起こる。
彼らには気負いといったものがあまり見受けられない。
前線にいる将兵なら、誰しもが抱く恐怖すらもあまり感じられないのだ。
「おしゃべりはそこまでだ」
エルンハルトが前方を見据える。
数キロ先には、硝煙立ち込める半壊した街があった。
「第2中隊は、残存兵の退路を開け。第3中隊、第4中隊は敵戦車部隊を叩け、第1中隊は、敵歩兵戦力を削ぎ第3中隊、第4中隊の攻撃を容易ならしめる。俺に続け」
「了解!」
各中隊ごとに中隊長機を先頭に各々の目標へと散開していく。
「少佐、対空戦車は確認できなくてよ?」
アナリーゼが、Fernglas 08(帝国軍の装備する双眼鏡)を覗きながらそう言った。
「M19対空自走砲がいないならありがたい」
M19対空自走砲とは、合衆国軍の装備する対空戦車で40㎜機関砲や12.7㎜重機関銃を装備している車両で、帝国空軍の難敵として戦線各地でその姿を目撃されている。
「速度そのまま、機関銃をメインに索敵するぞ」
―――アーツェン司令部付近―――
「北より、飛行物体複数確認!!」
確認された飛行物体は、上空から次々と銃撃を加えていた。
「強力な増援とは聞いていたが……まさか…あれとは……」
「知っているのか?」
帝国軍兵も合衆国軍兵も、空を見上げている。
「お前は知らないのか?」
「ああ」
「あれは、コードネーム【メシアス】だ」
メシアスというのは、帝国で使用される言語において救世主を意味する。
「習熟訓練中に敵爆撃機編隊を壊滅させた話を知らないのか」
戦場に逸話は、多くあるがそれは、誇張ではなく彼らの前で、実際に起きていることだった。
「二時方向、塀の向こうに敵機関銃を発見」
「六時方向、小隊規模の敵歩兵確認」
一か所にとどまることなく、飛行しながら【メシアス】たちは、一方にとっては絶望を一方にとっては救済を施していく。
「こっちに来たぞ、統制射撃、撃てぇっ!!」
合衆国軍兵が、小隊規模で密集し一か所を狙う銃撃を行うが撃ち出された弾は、むなしく空を斬る。
「良き的ですのね」
プラチナブロンドの髪の女性兵士が歪な笑みとともに撃つ。
「おやすみなさいませ」
撃ち出された弾は、狙い過たず兵士の頭を打ち抜く。
いや、粉砕するといった方が正しいか。
彼女の装備は、Eisenzaunというこの部隊の専用装備となっている新式の対戦車ライフル。
撃ち出されるのは30㎜弾。
脳漿をぶちまけたその兵士を見た周囲の兵士たちは恐怖で自分たちの小銃を撃つことさえ忘れた。
「これももらってくださらない?」
彼女は、いくつかのStielhandgranate 24《手榴弾》を兵士たちに向かって落としていく。
それの爆発範囲は10mほど。
3秒の遅延時間で唖然とする兵士たちにできることはなく―――爆発。
肉片をあたりにまき散らす。
そんな殺戮は、各所で見受けられ20分余りの後、戦闘は終結。
市街地には、擱座した戦車が、燃える装甲車が頭を失った胴体が―――残ったのは、帝国軍兵士と鉄屑、肉片。
繰り広げられたのは数十分の殺戮。
「大隊長より701試験戦闘団各位に通達、帰投する」
機影というのには、航空機らしさがないが空を飛ぶのだからそう表現するのが妥当だろう。
人型のそれは、背中に2機のエンジン、脚部下の方に片足1機ずつエンジンが付いている。
そして、長身の銃。
または、機関銃といったものを装備している。
緑色のに塗装された機体は、帝国軍が導入したジェット戦闘機Me-262のそれと似ている。
「大隊各位、もうすぐアーツェンの街だ。もう一度、任務について説明しておく。我々の主任務は司令部の防衛にある。したがって攻撃目標は、司令部を害する敵ということになる。対空戦車にくれぐれも気を付けるようにしろ」
部隊の先頭を飛行するのは、指揮官機―――レーベレヒト・エルンハルト少佐の機体だ。
「了解!!」
彼の率いる部隊の全パイロットからの返答が返ってくる。
「エルンハルト少佐、攻撃目標は敵すべてってことかしら?」
指揮官であるエルンハルトの後ろを飛ぶ機体―――二番機のパイロットから質問が上がった。
「アナリーゼ中尉、そういうことになるな」
「昂りますわね」
アナリーゼ中尉と呼ばれたパイロットは、軍隊では珍しく女性だ。
珍しいというと語弊がある。
帝国軍の東部戦線で戦闘を行っている敵国ロシャス連邦では、女性兵士もそれなりにいるという。
女性のエースパイロットが生まれるくらいには、連邦の軍隊には、女性がいるのだ。
アナリーゼは、ニヤリと口角を吊り上げる。
美しい容貌とプラチナブロンドのヘアには、どこか歪いびつで似つかわしくない笑い方だ。
「中尉、俺たちの得物も残しといてくださいよ」
ほかのパイロットたちの声が笑い声をあげた。
「それは。あなたたちの頑張り次第ではなくて?」
「中尉殿は、言ってくれますなぁ」
また、笑いが起こる。
彼らには気負いといったものがあまり見受けられない。
前線にいる将兵なら、誰しもが抱く恐怖すらもあまり感じられないのだ。
「おしゃべりはそこまでだ」
エルンハルトが前方を見据える。
数キロ先には、硝煙立ち込める半壊した街があった。
「第2中隊は、残存兵の退路を開け。第3中隊、第4中隊は敵戦車部隊を叩け、第1中隊は、敵歩兵戦力を削ぎ第3中隊、第4中隊の攻撃を容易ならしめる。俺に続け」
「了解!」
各中隊ごとに中隊長機を先頭に各々の目標へと散開していく。
「少佐、対空戦車は確認できなくてよ?」
アナリーゼが、Fernglas 08(帝国軍の装備する双眼鏡)を覗きながらそう言った。
「M19対空自走砲がいないならありがたい」
M19対空自走砲とは、合衆国軍の装備する対空戦車で40㎜機関砲や12.7㎜重機関銃を装備している車両で、帝国空軍の難敵として戦線各地でその姿を目撃されている。
「速度そのまま、機関銃をメインに索敵するぞ」
―――アーツェン司令部付近―――
「北より、飛行物体複数確認!!」
確認された飛行物体は、上空から次々と銃撃を加えていた。
「強力な増援とは聞いていたが……まさか…あれとは……」
「知っているのか?」
帝国軍兵も合衆国軍兵も、空を見上げている。
「お前は知らないのか?」
「ああ」
「あれは、コードネーム【メシアス】だ」
メシアスというのは、帝国で使用される言語において救世主を意味する。
「習熟訓練中に敵爆撃機編隊を壊滅させた話を知らないのか」
戦場に逸話は、多くあるがそれは、誇張ではなく彼らの前で、実際に起きていることだった。
「二時方向、塀の向こうに敵機関銃を発見」
「六時方向、小隊規模の敵歩兵確認」
一か所にとどまることなく、飛行しながら【メシアス】たちは、一方にとっては絶望を一方にとっては救済を施していく。
「こっちに来たぞ、統制射撃、撃てぇっ!!」
合衆国軍兵が、小隊規模で密集し一か所を狙う銃撃を行うが撃ち出された弾は、むなしく空を斬る。
「良き的ですのね」
プラチナブロンドの髪の女性兵士が歪な笑みとともに撃つ。
「おやすみなさいませ」
撃ち出された弾は、狙い過たず兵士の頭を打ち抜く。
いや、粉砕するといった方が正しいか。
彼女の装備は、Eisenzaunというこの部隊の専用装備となっている新式の対戦車ライフル。
撃ち出されるのは30㎜弾。
脳漿をぶちまけたその兵士を見た周囲の兵士たちは恐怖で自分たちの小銃を撃つことさえ忘れた。
「これももらってくださらない?」
彼女は、いくつかのStielhandgranate 24《手榴弾》を兵士たちに向かって落としていく。
それの爆発範囲は10mほど。
3秒の遅延時間で唖然とする兵士たちにできることはなく―――爆発。
肉片をあたりにまき散らす。
そんな殺戮は、各所で見受けられ20分余りの後、戦闘は終結。
市街地には、擱座した戦車が、燃える装甲車が頭を失った胴体が―――残ったのは、帝国軍兵士と鉄屑、肉片。
繰り広げられたのは数十分の殺戮。
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