上 下
9 / 26

第9話

しおりを挟む
「オリビア嬉しいよ。またこうして顔を合わせて話すことができて……僕の気持ちがやっと君に届いたんだね」

久しぶりに元婚約者のアルフィ殿下と会った。彼は少しはしゃいだ声で感激して涙が溢れていました。

でも彼女が面会を決意した本当の理由は、暴走状態を続ける彼を踏みとどまらせるためであって、復縁するつもりもありません。

アルフィの大いなる勘違いぶりに、顔をかすかにこわばらせたオリビアは物悲しげに微笑む。

「殿下はお変わりなく、活気のある姿を見れて安心いたしました」
「そう?ありがとう。オリビアは少し顔色が悪いようだけど、疲れているのかな?」
「そうでしょうか?」
「うん、ちゃんと休んだほうがいいよ」

彼女が挨拶すると彼は無遠慮な目を向けて観察したら、心配した顔つきで話し始める。一見いかにも親切そうに思いやりのようでもある。

でも誰のせいで別れた恋人と話し合うことになっているのか、アルフィはてんで分かってない様子。その厚かましい態度に、オリビアは微かな苛立ちに似た思いが波のように沸き立つ。

「この間、殿下がもの凄い勢いで突っ込んでこられた時は驚きました」
「あ!あのことか……ははは、あの時はオリビアを見たら興奮してしまって我慢できずに悪いことをしたな」

彼は思い出して懐かしそうに満面の笑みを見せますが、彼女からしたら全くもって笑い事ではない。無防備な彼女にいきなり後ろから突進してきて、恐ろしさと不安で気が狂いそうでした。

ありがたいことに門番の素早い対処のおかげで獣のような襲撃は阻止され、王子は視線が泳ぎ慌てふためいて逃走しましたが、その後も体から汗が流れ落ちていくような感覚で震えていた。

その日は、気分が高ぶり怯えきっていて朝まで一睡もできなかった。それなのに正面に座っている男は、笑い話みたいに声を裏返して品のない顔で笑みをこぼしている。

なんてデリカシーがない浅ましい人なの?許せない……。

「殿下は本心で笑っているのですか?」
「何のことだ?」

王子のことを本気で軽蔑する目でじっくりと見て、冷ややかな響きの声で尋ねました。

半ば呆然として、何となく彼は彼女から冷たい感触を感じましたが、本当の気持ちを感じ取ることができていないので、知性が消え失せたアホ面で逆に質問してくる。

「殿下に突撃されてから私がどのような状態で過ごしたか……殿下はお分かりですか?うぅ……」
「どうやら僕は冗談が過ぎたようだ。オリビア申し訳ない……」

たまらなく愛している彼女から非難するような目で睨まれて、両手で顔を覆い悲しくすすり泣いて涙のしずくを落とせば、いくら頭の回転が悪い彼でもようやく理解できたようです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「お前の代わりはいくらでもいる」と聖女を剥奪され家を追放されたので、絶対に家に戻らないでおこうと思います。〜今さら戻れと言ってももう遅い〜

水垣するめ
恋愛
主人公、メアリー・フォールズ男爵令嬢だった。 メアリーは十歳のころに教皇から聖女に選ばれ、それから五年間聖女として暮らしてきた。 最初は両親は聖女という名誉ある役職についたことに喜んでくれたが、すぐに聖女の報酬のお金が莫大であることに目の色を変えた。 それから両親は「家のために使う」という口実を使い、聖女の報酬を盛大なパーティーや宝石のために使い始める。 しかしある日、それに苦言を呈していたところ、メアリーが高熱を出している間に聖女をやめさせられ、家も追放されてしまう。 そして平民の子供を養子として迎え入れ、「こいつを次の聖女に仕立て上げ、報酬の金を盛大に使う」と言い始めた。 メアリーは勝手に聖女をやめさせられたことに激怒するが、問答無用で家を追放される。 そうして両親は全てことが上手く行った、と笑ったが違った。 次の聖女に誰がなるか権力争いが起こる。 男爵家ごときにそんな権力争いを勝ち残ることができるはずもなく、平民の子供を聖女に仕立て上げることに失敗した。 そして金が欲しい両親はメアリーへ「戻ってきてほしい」と懇願するが、メアリーは全く取り合わず……。 「お前の代わりはいる」って追放したのはあなた達ですよね?

貴方を捨てるのにこれ以上の理由が必要ですか?

蓮実 アラタ
恋愛
「リズが俺の子を身ごもった」 ある日、夫であるレンヴォルトにそう告げられたリディス。 リズは彼女の一番の親友で、その親友と夫が関係を持っていたことも十分ショックだったが、レンヴォルトはさらに衝撃的な言葉を放つ。 「できれば子どもを産ませて、引き取りたい」 結婚して五年、二人の間に子どもは生まれておらず、伯爵家当主であるレンヴォルトにはいずれ後継者が必要だった。 愛していた相手から裏切り同然の仕打ちを受けたリディスはこの瞬間からレンヴォルトとの離縁を決意。 これからは自分の幸せのために生きると決意した。 そんなリディスの元に隣国からの使者が訪れる。 「迎えに来たよ、リディス」 交わされた幼い日の約束を果たしに来たという幼馴染のユルドは隣国で騎士になっていた。 裏切られ傷ついたリディスが幼馴染の騎士に溺愛されていくまでのお話。 ※完結まで書いた短編集消化のための投稿。 小説家になろう様にも掲載しています。アルファポリス先行。

婚約者様は連れ子の妹に夢中なようなので別れる事にした。〜連れ子とは知らなかったと言い訳をされましても〜

おしゃれスナイプ
恋愛
事あるごとに婚約者の実家に金の無心をしてくる碌でなし。それが、侯爵令嬢アルカ・ハヴェルの婚約者であるドルク・メルアを正しくあらわす言葉であった。 落ち目の危機に瀕しているメルア侯爵家であったが、これまでの付き合いから見捨てられなかった父が縁談を纏めてしまったのが全ての始まり。 しかし、ある日転機が訪れる。 アルカの父の再婚相手の連れ子、妹にあたるユーミスがドルクの婚約者の地位をアルカから奪おうと試みたのだ。 そして、ドルクもアルカではなく、過剰に持ち上げ、常にご機嫌を取るユーミスを気に入ってゆき、果てにはアルカへ婚約の破談を突きつけてしまう事になる。

もうすぐ、お別れの時間です

夕立悠理
恋愛
──期限つきの恋だった。そんなの、わかってた、はずだったのに。  親友の代わりに、王太子の婚約者となった、レオーネ。けれど、親友の病は治り、婚約は解消される。その翌日、なぜか目覚めると、王太子が親友を見初めるパーティーの日まで、時間が巻き戻っていた。けれど、そのパーティーで、親友ではなくレオーネが見初められ──。王太子のことを信じたいけれど、信じられない。そんな想いにゆれるレオーネにずっと幼なじみだと思っていたアルロが告白し──!?

目を覚ましたら、婚約者に子供が出来ていました。

霙アルカ。
恋愛
目を覚ましたら、婚約者は私の幼馴染との間に子供を作っていました。 「でも、愛してるのは、ダリア君だけなんだ。」 いやいや、そんな事言われてもこれ以上一緒にいれるわけないでしょ。 ※こちらは更新ゆっくりかもです。

婚約者を変えて欲しいと言われ変えたのに、元に戻して欲しいなんて都合良すぎませんか?

紫宛
恋愛
おまけの追加執筆のため、完結を一度外させて頂きました(*ᴗˬᴗ)⁾ 幼なじみの侯爵令嬢がいきなり婚約者を変えて欲しいと言ってきました。 私の婚約者と浮気してたみたいです。 構いませんよ? 王子と言えど、こんな王子で良ければ交換しましょう? でも、本当にいいんですか? あなたの婚約者も、隣国の王子で王太子ですよ? 私の婚約者は、王子ですが王位継承権はありません。 今更戻して欲しいと言われても、私たち正式に婚約し来月結婚しますので無理です。 2話完結 ※素人作品、ゆるふわ設定、ご都合主義※

聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)

蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。 聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。 愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。 いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。 ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。 それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。 心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。

ブラックな職場で働いていた聖女は超高待遇を提示してきた隣国に引き抜かれます

京月
恋愛
残業など当たり前のお祈り いつも高圧的でうざい前聖女 少ない給料 もう我慢が出来ない そう思ってた私の前に現れた隣国の使者 え!残業お祈りしなくていいの!? 嘘!上司がいないの!? マジ!そんなに給料もらえるの!? 私今からこの国捨ててそっちに引き抜かれます

処理中です...