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第25話
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――カトリーヌは部屋に既にいない。決死の覚悟を秘めた彼女は最後に振り返って、大切な人の笑顔を思い浮かべているから怖くない。あなたを守るから生きるのを諦めないでと言った。国王とレオナルドは、涙を流し続けていつまでも引きとめておくことはできなかった。
「やはり行ってしまったか……」
「……あんな真面目な顔は初めて見た。カトリーヌ……無事で戻ってきてくれ……」
「あなたたちは何を言ってるのですか!」
もう何事もないことを祈るしかない。二人揃って心配そうな顔をし続けていたら、王妃が不機嫌な口ぶりで言った。かなり不満を抱くものがあったらしい。
王妃のとがめるような視線に気づくと、途端に国王とレオナルドは肩をすぼめた。王妃はアリーナを応援する気持ちが強かった。美容でお世話になっているので、感謝の気持ちを常に忘れていないのです。
「――あそこがアリーナ邸ね」
正面から見ると、なかなかお洒落で白く立派な屋敷だと特に意識せずに感心した。さすがは辺境伯令嬢で神の能力を持つ女性の家であるという思いだ。広大な敷地の周囲を高い塀が取り囲んで、まことに見事な風格を備えている。旧王族が暮らしていた白亜の大豪邸であった。
だが、その広さゆえに外部から侵入するのは難しくないと思わせる。カトリーヌは人の目で認識できないように姿を消した。第一級で才能豊かな魔法師のカトリーヌには、この程度は造作なくできる。
「何がアリーナよ。私のほうが勝つに決まってるわ……人はいつか死ぬけど、好きな人にはまだ生きてもらいたい……」
カトリーヌは、はっきりと不快そうな表情を浮かべていた。彼女は自分の強さに絶大な自信を持っている。これは特に自惚れているわけではない。これまで多大な成果を上げて高い評価を得て世間に認められているのです。
なので、国王の言うことに苛立ちが心の底にあった。何を言ってるの?このおじさん頭が悪いわね。私が負けるわけがないのに、口うるさく注意してばかみたいと思っていた。それでも、国王の前では傲慢な態度をあまり取らなかったのは彼女が、年上の人間に対する礼儀礼節は弁えているからだろう。
「――ミレーユったら、うふふふ」
「この前はそんなことがあったわ。アリーナ笑いすぎよ?」
アリーナと親友のミレーユの声が聞こえてきた。二人は一緒にお茶を飲みながら、世間話に花を咲かせていた。
屋敷の庭には、壮麗な薔薇園が拡がっている。花畑に囲まれた中心に二人はいた。何かの話が思いがけなく膨らんで明るく楽しい会話を交わしながら、甘いお菓子をついつい食べすぎてしまう。
(私が近くにいるのに、何もわからずに笑顔でしゃべってる。これだからお嬢様はお気楽で困るわ……)
レオナルドの幼馴染のカトリーヌは伯爵令嬢である。普通の一般人からしたら、彼女も相当なお嬢様であるが、これまで魔法師として何度も修羅場をくぐり抜けて生きのびてきた女性なので、そのへんの貴族の令嬢とは自分は違うと言いたげな顔をしている。
とても落ち着いた雰囲気で、のんびり過ごしてお茶とケーキを楽しんでいる。そのことに何となく言葉で説明できない複雑な感情が燃え上がってきた。ほとんど八つ当たりみたいな感じであるが、そんなことはカトリーヌには関係ない。もうすっかり激昂してしまって、一気に怒りが頂点に達した。
次の瞬間ふと思う。話し合う前に、楽天的な頭のお嬢様の二人を自分の魔法で、少し脅かしてやろうと思ったのだった。
「やはり行ってしまったか……」
「……あんな真面目な顔は初めて見た。カトリーヌ……無事で戻ってきてくれ……」
「あなたたちは何を言ってるのですか!」
もう何事もないことを祈るしかない。二人揃って心配そうな顔をし続けていたら、王妃が不機嫌な口ぶりで言った。かなり不満を抱くものがあったらしい。
王妃のとがめるような視線に気づくと、途端に国王とレオナルドは肩をすぼめた。王妃はアリーナを応援する気持ちが強かった。美容でお世話になっているので、感謝の気持ちを常に忘れていないのです。
「――あそこがアリーナ邸ね」
正面から見ると、なかなかお洒落で白く立派な屋敷だと特に意識せずに感心した。さすがは辺境伯令嬢で神の能力を持つ女性の家であるという思いだ。広大な敷地の周囲を高い塀が取り囲んで、まことに見事な風格を備えている。旧王族が暮らしていた白亜の大豪邸であった。
だが、その広さゆえに外部から侵入するのは難しくないと思わせる。カトリーヌは人の目で認識できないように姿を消した。第一級で才能豊かな魔法師のカトリーヌには、この程度は造作なくできる。
「何がアリーナよ。私のほうが勝つに決まってるわ……人はいつか死ぬけど、好きな人にはまだ生きてもらいたい……」
カトリーヌは、はっきりと不快そうな表情を浮かべていた。彼女は自分の強さに絶大な自信を持っている。これは特に自惚れているわけではない。これまで多大な成果を上げて高い評価を得て世間に認められているのです。
なので、国王の言うことに苛立ちが心の底にあった。何を言ってるの?このおじさん頭が悪いわね。私が負けるわけがないのに、口うるさく注意してばかみたいと思っていた。それでも、国王の前では傲慢な態度をあまり取らなかったのは彼女が、年上の人間に対する礼儀礼節は弁えているからだろう。
「――ミレーユったら、うふふふ」
「この前はそんなことがあったわ。アリーナ笑いすぎよ?」
アリーナと親友のミレーユの声が聞こえてきた。二人は一緒にお茶を飲みながら、世間話に花を咲かせていた。
屋敷の庭には、壮麗な薔薇園が拡がっている。花畑に囲まれた中心に二人はいた。何かの話が思いがけなく膨らんで明るく楽しい会話を交わしながら、甘いお菓子をついつい食べすぎてしまう。
(私が近くにいるのに、何もわからずに笑顔でしゃべってる。これだからお嬢様はお気楽で困るわ……)
レオナルドの幼馴染のカトリーヌは伯爵令嬢である。普通の一般人からしたら、彼女も相当なお嬢様であるが、これまで魔法師として何度も修羅場をくぐり抜けて生きのびてきた女性なので、そのへんの貴族の令嬢とは自分は違うと言いたげな顔をしている。
とても落ち着いた雰囲気で、のんびり過ごしてお茶とケーキを楽しんでいる。そのことに何となく言葉で説明できない複雑な感情が燃え上がってきた。ほとんど八つ当たりみたいな感じであるが、そんなことはカトリーヌには関係ない。もうすっかり激昂してしまって、一気に怒りが頂点に達した。
次の瞬間ふと思う。話し合う前に、楽天的な頭のお嬢様の二人を自分の魔法で、少し脅かしてやろうと思ったのだった。
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