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第6話
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「殿下は私の家庭は無茶苦茶にしたくせに自分の結婚は命がけで守りたいのですね」
「僕は最低野郎だよ。好きなだけ罵ってくれ…アイリにはその権利がある」
ピエール殿下は話の流れでマリア令嬢と結婚することをうっかり口に出したことをひどく後悔していた。アイリの言葉は自分に重くのしかかってきて、この問題からはもう逃げだすことはできない。
表面では観念し頭を下げて心のこもった顔になり誠意のある態度で接した。これからは精一杯尽くして手助けをするとアイリに従順さを示す。
しかし心の中では婚約者を巻き込みたくないと言う強い意思。アイリを口説いて不倫に導いたのはピエールのほうだが自分もふしだらな関係に同意したじゃないかと言う思いで、夫にバレて追い出されたのは胸を痛めるが頼られても迷惑だとどす黒い悪意に満ちた感情が渦巻く。
「僕がマリアと別れて結婚が水の泡になればアイリは気が済んで満足か?」
謝罪が終わりこれからのアイリの住まいや生活費のことを話し合っている最中に何の前触れもなくピエール殿下が雰囲気を悪くするように声を荒くして叫ぶ。理由はアイリの希望する生活費の金額がピエールの想像の域を遥かに超えていたからだ。
アイリの本音を明かすと親友マリアとの結婚を教えられた時からピエールを許す選択はとうに無くなり、絶対に出来ないような無理難題なお願いをして困らせることしか頭にない。それでピエールから到底できないと返ってくればマリアに話すと答える。
「淑女はお金がかかるのです。今後は子供も産み育てなければなりませんから…」
「それにしても法外すぎる無茶な要求だ!断固拒否する!」
「それでは遠慮なくマリアに私達の過ちを告白します」
「待ってくれ!だがそのお金はあまりにも…結婚しても僕とマリアが生活できないだろう?」
「そんなことは私には関係ございません」
「親友のマリアがひもじい思いをしても構わないと言うのか?」
「でしたら殿下の食事を全てマリアに与えれば問題ないですね」
「何を言っている!逆に僕が飢えて死んでしまうだろ!」
「なら殿下が物乞いをすればよろしいと思いますが?」
「王太子の僕に乞食のまね事をしろと言うのか!」
二人の話し合いは平行線をたどり互いに譲り合って折れることもなかった。引くに引けなくいつまでも続く出口の見えない状態。
数十分後、ピエールが泣きながら鼻水をすすり悲痛な声でどのような償いでもするからとアイリにすがりついていた。今すぐに返事をするのは厳しいから少しだけ待っていてほしいと言い近いうちにまた対話して落とし所を見つけるべきだと主張する。
「殿下はこのまま何も誠意を見せないでお帰りになるつもりですか?」
「そ、そんなことはほんの僅かでも考えていない…」
気迫のこもった顔でアイリに詰め寄られると押し潰されそうな気持ちのピエールは自分の配下の者を呼び寄せお金を持ってくるように指示を出す。
結構な金銭の入った鞄を渡す時にぎこちない笑顔を向けるがアイリの表情は鉄仮面だった。ピエールはなんだか自分が恥ずかしく情けなくなり足早に居なくなる。その場の危険からやり過ごしてつかの間の安堵を得られピエールは深いため息をついた。
「僕は最低野郎だよ。好きなだけ罵ってくれ…アイリにはその権利がある」
ピエール殿下は話の流れでマリア令嬢と結婚することをうっかり口に出したことをひどく後悔していた。アイリの言葉は自分に重くのしかかってきて、この問題からはもう逃げだすことはできない。
表面では観念し頭を下げて心のこもった顔になり誠意のある態度で接した。これからは精一杯尽くして手助けをするとアイリに従順さを示す。
しかし心の中では婚約者を巻き込みたくないと言う強い意思。アイリを口説いて不倫に導いたのはピエールのほうだが自分もふしだらな関係に同意したじゃないかと言う思いで、夫にバレて追い出されたのは胸を痛めるが頼られても迷惑だとどす黒い悪意に満ちた感情が渦巻く。
「僕がマリアと別れて結婚が水の泡になればアイリは気が済んで満足か?」
謝罪が終わりこれからのアイリの住まいや生活費のことを話し合っている最中に何の前触れもなくピエール殿下が雰囲気を悪くするように声を荒くして叫ぶ。理由はアイリの希望する生活費の金額がピエールの想像の域を遥かに超えていたからだ。
アイリの本音を明かすと親友マリアとの結婚を教えられた時からピエールを許す選択はとうに無くなり、絶対に出来ないような無理難題なお願いをして困らせることしか頭にない。それでピエールから到底できないと返ってくればマリアに話すと答える。
「淑女はお金がかかるのです。今後は子供も産み育てなければなりませんから…」
「それにしても法外すぎる無茶な要求だ!断固拒否する!」
「それでは遠慮なくマリアに私達の過ちを告白します」
「待ってくれ!だがそのお金はあまりにも…結婚しても僕とマリアが生活できないだろう?」
「そんなことは私には関係ございません」
「親友のマリアがひもじい思いをしても構わないと言うのか?」
「でしたら殿下の食事を全てマリアに与えれば問題ないですね」
「何を言っている!逆に僕が飢えて死んでしまうだろ!」
「なら殿下が物乞いをすればよろしいと思いますが?」
「王太子の僕に乞食のまね事をしろと言うのか!」
二人の話し合いは平行線をたどり互いに譲り合って折れることもなかった。引くに引けなくいつまでも続く出口の見えない状態。
数十分後、ピエールが泣きながら鼻水をすすり悲痛な声でどのような償いでもするからとアイリにすがりついていた。今すぐに返事をするのは厳しいから少しだけ待っていてほしいと言い近いうちにまた対話して落とし所を見つけるべきだと主張する。
「殿下はこのまま何も誠意を見せないでお帰りになるつもりですか?」
「そ、そんなことはほんの僅かでも考えていない…」
気迫のこもった顔でアイリに詰め寄られると押し潰されそうな気持ちのピエールは自分の配下の者を呼び寄せお金を持ってくるように指示を出す。
結構な金銭の入った鞄を渡す時にぎこちない笑顔を向けるがアイリの表情は鉄仮面だった。ピエールはなんだか自分が恥ずかしく情けなくなり足早に居なくなる。その場の危険からやり過ごしてつかの間の安堵を得られピエールは深いため息をついた。
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