彼が結婚している親友と関係を持っていて婚約破棄。相手が妊娠してなかったからやり直そうと手紙が届く。

第5話

「私の親友と結婚するなんて初めて知りました。罪の意識が芽生えたのでマリアに全部話します！」
「それだけはやめろ！やめてくれ！マリアは関係ないだろ！」

ピエール殿下の婚約者が親友のマリアと聞かされてアイリは後ろめたさに胸が締めつけられる思いになり、不倫関係のことを何から何まで包み隠さず白状すると答えた。

それでやっと事の重大さに直面して本気の顔になるピエール。マリアと二人でいる時もアイリのことはよく聞かされていた。最も大事な親友だと言うことも理解している。

そのアイリが涙を流してこれまでのいきさつを伝えれば親友を傷つけたと叱り飛ばされマリアに嫌われて結婚も白紙状態になるのは火を見るより明らかだ。

「なんでもする！生活に必要な当面の金なら直ちに用意しよう！だからマリアだけには黙っていてくれ！」
「本当に殿下には失望しました。この前もそう言って私と連絡を絶って逃げましたよね？」
「もう逃げない！この前は突然すぎて気が動転していただけだ…」

アイリが捨身になってマリアに話をされたら取り返しのつかない事態になるのでピエールは熱を込めた言葉で血眼になって説得する。

この間は逃亡して手紙を幾度となく送っても耳を傾けようとしなかったと憎悪のこもった美しいエメラルドグリーンの瞳で怖いほど冷静な口調で言い返す。そう言われれば普通なら弁解のしようがないが動揺を隠せない態度のピエールは言い訳して見苦しく自己弁護を重ねる。

「殿下は逃げましたよね？素直に認めたらいかがですか！」
「その通りだ…僕は責任をとるのが怖くて逃げた…情けない男だと笑ってくれ…だけどもう逃げない」
「当然です！頭がからっぽの殿下でも逃げたら今度こそどうなるのかご理解しているようで安心しました」
「だからアイリもマリアには喋らないと約束は守ってほしい」
「とりあえずは…了解しました」
「アイリとりあえずとはどういうことだ！」
「まだ殿下には何もして頂いておりませんので信用できないと言っているのです」

一度はアイリを裏切り現実から目を背けて逃げ出したピエール殿下にはぐうの音も出ない。反論しようものならまた自分を正当化するようなみっともない責任転嫁を重ねてしまいそうなのでじっと耐える。自分は今、精神的な修行をしてると思い込んで我慢した。

本命のマリア令嬢には必ず内密にほしいと改めてお願いするが、アイリは腑に落ちないという言い回しで保留にして話を進めると、ピエールが衝動的にマリアには口外禁止だと強く主張したがあっけないほど簡単に反論されて虫みたいに大人しい態度になる。