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第10話

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店員と立ち話をしているとカーテンをシャーっと引く音が響く。試着室のカーテンが開いて着替えを終えたアイシャが姿を見せる。

「ねえ、ナルセスどうかしら?似合ってる?」

純白のドレスを身にまとい、恥じらいを見せるような態度のアイシャがナルセスに問いかけてきた。

「美しくて綺麗だ」

そう思うとナルセスは無意識のうちに大真面目な顔で本心の言葉を発していた。

「本当?じゃあこれ買ってもいい?」
「もちろんだ。そのドレスはアイシャにとても似合っているよ」
「ありがとう」

アイシャは褒められて照れるような仕草であふれんばかりの笑顔で喜ぶ。

デート中に喜ぶアイシャの顔が見れた。それだけでナルセスは幸せな気分になり、今日デートをして良かったと素直に思う。

皮肉なことだが、ナルセスがルージュと良からぬ関係があったからこそ、二人はデートをして互いに屈託の無い笑みを交わすことができた。その後はフレンチレストランで豪華なディナーを食べて帰宅した。

「今日は本当に楽しかった。また連れて行ってね」
「そうだな。また一緒に出かけよう」

この言葉は二人の真実の気持ち。アイシャとナルセスは恋い焦がれて心の底から愛し合っていると、改めて確信できた日だった。


「じゃあ行ってくる。今日は少し遅くなる」
「わかりました」

二日後、朝仕事に出かけたナルセスを見送ると、アイシャは行動を開始した。ルージュと密会するのは夕方。まだ二人が会う時間には早いがアイシャは着々と準備を整える。

「いよいよですね。さすがに緊張してきました」
「アイシャ様焦りは禁物です。落ち着いて動きましょう」
「わかっています」
「我々がついておりますからご安心ください」
「頼りにしてるわ」

現在地は二人が密会する場所の近くで待機中。アイシャは体がわけもなく武者震いする。信頼できる側近がアドバイスを授けてくれて冷静さを保ちつつ、その他にも作戦について話し合い時間が過ぎていく。

「ちょっと遅くない?」

数時間後、アイシャは苛立ちをおさえられずにいた。なぜなら、もうとっくにナルセスとルージュが会う時間が過ぎているのにまだ部屋の中で待機しているのだ。

「今はどうなってるの!」
「アイシャ様お気を確かにお持ちください」
「その言葉を何回聞かされたと思ってるの?もう我慢できないわ!」
「お持ちください!まだ伝達役からの報告が……」
「それなら何で時間になっても使いの者がまだ現れないの?」
「おっしゃる通りです。何か予想外の出来事が起こったのかもしれません」

ナルセスを監視している者から、つなぎ役に情報が伝わりアイシャの元へ報告しにくる段取りのはず。それなのにいつまで経ってもつなぎ役が部屋に来ない。

予定していた時間から数時間後、トントンとドアを軽くノックする音が聞こえてきた。やっとつなぎ役の者が部屋に現れる。
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