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第15話

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「ルイーズごめん…僕はエマを切なく恋してたまらないほど愛してる。だけど妊娠しているルイーズのことも愛情が胸いっぱいに溢れている」

不倫がバレた夫のアルフィは表面では妻エマに泣きながら謝り、もう二度としないと誓って罪の意識と後悔の心があるように唇を噛みしめる。

だが、実のところ妻に不倫がバレたことよりもこれで妹のルイーズと別れなければいけない辛さのほうが何倍も大きかった。

失いたくない妻に申し訳ない気持ちも当然あるが、体の芯までとろけた喜びで一杯になる充実感に体全体が吸い込まれて躍るような快感はもうこれっきりだと思うと心が揺れ動く。

(ルイーズの体が忘れられない…)

脳内がお花畑の生きる価値がないアルフィは虫けらに成り下がり堕ちるところまで堕ちて戯言を胸中で抜かす。恥さらしの夫と言われようともこれがアルフィの本音で嘘偽りない素直な思いだった。

ずっと妻を裏切り続けていつ不倫がバレないかと胸の中で震えていた。罪悪感でエマと顔を合わせるとふと暗い気持ちになり息苦しさに耐え切れない。

「王太子殿下…誠に申し訳ございません…お許しください」

ハッと稲妻のように頭をよぎりルイーズの婚約者のアレクサンド殿下に謝罪するアルフィ。声と顔を取り繕ってやりきれない負い目で沈んだ声を出す。

「ルイーズを妊娠させておいて今さら謝ってもらっても困る」

不愉快そうに口を尖らせたアレクサンド殿下はアルフィに非難するような瞳を向けて吐き捨てるように言った。

少しの沈黙から妻に顔を向けたアルフィが喋り始める。

「エマには絶対に迷惑はかけないからルイーズに僕の子供を産ませてあげてくれ」
「なら離婚するってことね」
「嫌だよ!エマも子供も愛してるから離婚はしたくない」
「妹があなたの子供を産むなら夫婦は続けられない」
「だから迷惑はかけない!ルイーズに産ませてあげてほしい」
「頭が狂ってる!」
「離婚は嫌だーー!エマと絶対に別れないーーー!許してあげよう?君の妹だろ?」

自尊心を捨てて犬のように縋りついてくる男らしさのかけらもない夫に妻まで頭がおかしくなり狂いそうだった。

ボロ雑巾のようになっている夫を見ても冷たいようだが今さら頼られても迷惑で大いに怒りすら感じる。夫にふさわしいか査定するように見るがもはや価値はない。

美しい長い金髪を乱れさせてエマは汚いものでも見るように、いい加減なことをほざく夫にため息も出てこなかった。

「お願い!お姉様の夫の子供を私に産ませてください!」
「ルイーズ!私達の両親にも正直に報告いたしますからね!」
「お父様とお母様には報告しないで!表向きはお姉様の子供として育てて!」
「ふざけないで!」
「お父様に知られたら私は勘当されて縁を切られます…」

輝きを失った聖女は子供のように激しく泣き出す。ルイーズは顔全体が涙で泉のように溢れ視界がぼやける。弾けたような叫び声を上げて見るに忍びないくらい懸命になり姉の足に頬を寄せる。

姉は心の中でこんな道理の分からない恥知らずな妹は、使わなくなった物のようにぽいと捨てて関係を絶つことに一点の迷いもなかった。

「エマ様!どうかルイーズに子供を産むことをお許し頂きますようお願い申し上げます!そして世間的な理由でエマ様の子供ということにしてください!」

呪いをかけられたみたいにルイーズにもらい泣きしたクララが土下座しながら、呆れを通り越したことを平然と恥ずかしげもなく口にして拝み倒す。

奇人変人の類3人に涙ながらに悲願され絡まれてるエマにアレクサンド殿下は身につまされる思いで気の毒そうな顔をして冷静な気持ちで見ていた。

**********

新作『突然両親からお見合いして結婚しろと言われた令嬢は全力で拒否して、学園でイケメンに囲まれる青春生活を送る成功者に』の連載を始めました。
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