「私も新婚旅行に一緒に行きたい」彼を溺愛する幼馴染がお願いしてきた。彼は喜ぶが二人は喧嘩になり別れを選択する。

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第36話

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「エレナとは別れたんだ」
「そうですか……」

二人は、かなり以前に喧嘩別れしたと言う事実を聞かされる。だがイリスは気のない相槌を打っていた。正直知らないおじさんに話しかけられたような気がして、不愉快な気分になった。

「イリスその男は誰だ?」

ハリーのことを適当に相手していた時、不意に後ろから呼ばれて振り向くと、金髪で温厚そうな顔立ちの青年が立っていました。

「レオン」

男の名前を呼んで無邪気に微笑むイリスは、レオンという男のそばに駆け寄り、ほっと安心のため息をついた。

イリスと仲の良さそうなお前のほうこそ誰だ?そんな気持ちでハリーは不思議そうな顔をして見ている。その瞬間、頭に閃きが走った。イリスはこの男と親密な信頼関係を築いていると直感した。

いくら恋愛問題について頭の鈍いハリーでも、楽しく弾む声と心から喜んでいるイリスの輝いた目を見れば分かる。先ほどまで自分と会話をしていた時の曇っていた顔が、晴れて鮮やかに明るくなったのだ。

「イリスどういうことだよ!」

胸の中で嫉妬や悲しみなど耐えがたい気持ちに動かされて、ハリーは思わず叫んだ。ぽたりと涙を落としながら、今にも泣き出しそうな心細い顔でイリスを凝視し続ける。

なんだこの男は?イリスとレオンはそんな思いを巡らしている最中であった。しばし無言の状態が続いた後、レオンが気まずい沈黙を破った。

「本来であれば王子のあなたに敬意を払うべきだが、今は平民階級になったと聞いている」

レオンはイリスの幼馴染で護衛の近衛騎士。伯爵家の次男でイリスの公爵家に婿入りを望んでいるのである。気楽な恋人同志でイリスもレオンのことが好きで納得している。

最初に父親から話を持ちかけられた時は、驚いたそぶりを示していた。だがレオンの謙虚で穏やかな人柄に、男女問わず丁寧に接しているのを知っていたイリスは喜んで同意した。

ハリーは王族という身分であったが、国王から縁を切られたので現在は一般平民になった。レオンはそのことも当然知っているが、それでも一定の配慮を見せた形と思われる。

「だから礼儀は不要だ」
「それなら気兼ねなく話しかけさせてもらう」

以前のような王子と伯爵家の次男という立場なら、圧倒的にハリーの地位が高い。だけど自分は王族を追放されているので、礼節をわきまえる必要はないと答えた。

ハリーは精一杯虚勢を張ってはいるものの、涙が止まらなくなり崩れ落ちてしまいそうでした。

レオンは真剣そのものの口調で返す。イリスは元夫と恋人の間に入り込む余地もなくて、少々落ち着かぬ様子で黙って成り行きを見守っていた。
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