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第34話

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「黙れ!エレナを雑に扱っているのはお前たちか!」

事情を問いただすために、とめどなく喋り続けてくるホステスたちにハリーは強い口調で言い返した。シーンとした静かさが感じられる。

この男は何を言っているの?女性たちはそんな顔をしている。待機室で話したり軽く食事を取っている時だった。突然ママの悲鳴が聞こえて部屋の外へ飛び出したのだ。

現場へ駆けつけて驚き直ぐにママを介抱した。数人で体を持ち上げて運び革張りの長椅子に寝かせ、体をゆっくりと何度かさすったり、しきりに話しかけた。

「なんだよ……」

ハリーは困惑して不満そうに小声でつぶやく。目の前に展開される光景を見て、ママを突き飛ばして痛い思いをさせてしまったことに多少の反省する心もある。

だがエレナの自尊心や感情を傷つけた店の連中なのだから、相応の報いを受けるべきなのだと思う部分もあった。エレナは不安な気持ちが押し寄せてきた。

「恩知らずな人ね」
「ママにこんな真似をして信じられない」
「エレナは冷酷な人でなし!」
「その男も何なのよ」

汚い言葉で悪口を浴びせてエレナのことを恩知らずだとか、勝手なことを叫び出すホステスたち。その気持ちも分からなくはない。

エレナが初めて店にやってきて、雇ってもらいたいと申しこんだ時の姿を数人が一部始終を目撃していた。今にも倒れそうな様子で、ガックリ落ちた肩と悲しげな目つきをしていた。

話を聞いたママはエレナの境遇に同情したのだ。当然ながら、公爵令嬢と王子の新婚旅行について行って両親に勘当されたとは、恥ずかしくて言えないと事実は一部隠して話す。

「まあ可哀想に……大変だったわね」
「はい」

エレナは自分が元貴族令嬢であることも伏せて、家出同然で故郷を捨てて来てしまったと言った。だがママはエレナの話を聞いて秘密を隠していると直感する。

今、店で働いている女性たちにも言えない秘密はあるだろうし、もちろん自分にもある。見ず知らずの他人に、むやみやたら追及するわけにもいかない。

「うちで雇いましょう」
「ありがとうございます」

思いを汲み取ったママは、エレナの主張を全面的に受け入れて採用する。さらに、何よりエレナのような可愛い子が働いてくれるのは好都合だとママは喜んだ。

透明感があって美人で存在感を放つエレナに、客の誰もが恋心を抱くだろうとママは実に嬉しそうに笑う。エレナも深く感謝いたしますと何度も頭を下げていた。

「エレナちゃん、よくもやったわね。あなたはクビよ!」

突然むくりと身を起こすママの瞳には、一種の執念めいたものがこもっている。ママは以外に短気なところがある性格で、エレナはその場で解雇を言い渡されてしまった。
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