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第20話

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「僕はエレナを守っているのに……ひどいじゃないか」

エレナに見捨てられたのではないかと不安を感じたハリーは、瞬時に全身から力が抜けてしまって、その場にがっくりと膝を落とした。

信頼していたエレナから批判を浴びせられてハリーの心は半分に折れて沈没し、今まで自分のことを守っていた壁がゆっくりと崩れ落ちていく。

「あなた今さらそんなことを言うわけ?」

目の前でしゃがみ込んで頭を抱えた夫のことを、幼馴染に裏切られた哀れな男だと思い視線を向けたが、すぐに後ろにいるエレナの方を睨んだ。

最初イリスは困惑した表情を見せていたが、手のひらを返すエレナの言葉にイリスは納得がいかないと不満を漏らすように尋ねた。

「イリス様」
「なに?」
「私は一度はお断りしましたけどハリーが強引に誘ったのです」

何とか責任逃れをしたいという気持ちだが、エレナの言葉も真実。最初に新婚旅行に一緒に行きたいとお願いしたのはエレナである。

だがイリスとハリーの言い合いを聞いているうちに、自分がいかに礼儀知らずな行為をしているのだと思って、一度だけは辞退する意向をハリーに伝えたのです。

新婚旅行に同行するなんて、迷惑なこと言ってごめんなさいと謝った。そう返したらハリーは、全然問題ないから一緒に行こうと言ったのだ。

あろうことかイリスもエレナの良さを分かってくれるなどと言い、積極的に参加するよう呼びかけた。

「ハリーに非があることは私も認めましょう」

新婚旅行に積極的に誘ったハリーが悪い。イリスもその点だけは認めざるをえません、と穏やかで上品な物腰の口調で話すが冷静さを保っている。

「イリス様、それなら私は悪くありませんよね?」

エレナは少し余裕をとり戻したのか、緊張からくる苦しさも和らいで顔の筋肉が緩み安心した顔つきになった。これで自分は助かるかもしれない……そんなことを思う。

数分前は、もはや助かる望みはないと絶望していたが、なんとか持ち直してイリスとの駆け引きを始める。エレナが生き延びる道はイリスを言いくるめるしかない。

気持ちにゆとりが出来てきたみたいね?イリスは僅かに感じ取りました。雰囲気の変わったエレナに警戒する必要があると判断し、気高い美が備わっている顔で眼光鋭く凝視する。

「ハリーが何度誘っても断るべきでした。あなたが新婚旅行についてきて離婚になった事実は変わりません」

ハリーの申し出を毅然とした態度で、きっぱりと断れば良かったでしょう?どんな言い訳を並べても通用しないと堂々とした風格を漂わせながら指摘した。
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