「私も新婚旅行に一緒に行きたい」彼を溺愛する幼馴染がお願いしてきた。彼は喜ぶが二人は喧嘩になり別れを選択する。

window

文字の大きさ
上 下
10 / 50

第10話

しおりを挟む
「ハリーとは別れましょう……」

頼りなく情けない男には愛想が尽きた。結婚したばかりの自分を置いてけぼりにして、幼馴染のエレナと遊びに出かけるという、デリカシー皆無の行動をとる。

イリスは二人が部屋から出るまで、涙をこらえるのに苦労して声を出す余裕はなかった。この男はもう駄目だと思ったイリスは、事務的な口調で離婚を宣言した。

緊張のあまり足腰に力が入らなくなり、立っていることもできず床に崩れるようにしゃがみこむと、悔しさからくる涙が流れ無念の思いが胸にしみ込んでいく。

しばらくのあいだ、寂しげに小さく震える声で泣くことしかできなかった。

「私の新婚旅行なのに……」

観光地として有名で、魅力的に感じられたからイリスはこの場所を新婚旅行先に選んだ。数日前には様々な場所を見て回っている自分とハリーの姿など想像して柔らかく微笑んだ。

本来なら自分と一緒に二人で、旅の思い出を作りに夕食の前に、しばらくあちこち散歩したりするのも丁度いいという感じで、街へ繰り出していただろう。


「イリスはエレナに冷たすぎる。エレナもそう思わないか?」

その頃、胸が満たされない気分のハリーは、歩きながら新妻のイリスに対して、あからさまに不満を漏らしていた。隣を歩くのは、この異常な事態を引き起こした張本人の幼馴染のエレナである。

先ほど、お揃いのネックレスを買った二人は、すでに身につけていて、すっかりご機嫌のエレナは笑みが口角に浮かぶ。その顔を見るとハリーはニヤリと白い歯を見せて笑い、自分が癒されていることを感じることができた。

だが複雑な感情が渦巻いて憂さ晴らしをしたい気を起こし、唇をゆがめ感情むき出しにして、イリスへの愚痴や悪口をこぼさずにはいられない。

「馬車に乗っていた時からそうだ。エレナと視線を合わせないようにしたり、エレナが話しかけても無視して返事もしないし」
「私もイリス様と仲良くしたいのに素っ気ない態度をされて悲しいです」

ハリーの頭の中では、悪いのは一方的にイリスで大事な幼馴染のエレナに対して、目に余る振る舞いが耐えられないと主張する。

エレナのほうもその意見に改めて納得するように、唇を動かし無意識のうちに声を出していた。

「さっきも一緒に出掛けようと誘っても突然怖い顔でキレ出してさ……僕は訳がわからないよ」

どうしてイリスはエレナと仲良くしてくれないのか?という思いがハリーには強くて客観的に見直すことができないのだ。何が悪くてイリスが怒っているのか、いまいち理解できていないようだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

結婚なんてしなければよかった。

haruno
恋愛
夫が選んだのは私ではない女性。 蔑ろにされたことを抗議するも、夫から返ってきたのは冷たい言葉。 結婚なんてしなければよかった。

手放したくない理由

ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。 しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。 話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、 「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」 と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。 同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。 大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

偽りの愛に終止符を

甘糖むい
恋愛
政略結婚をして3年。あらかじめ決められていた3年の間に子供が出来なければ離婚するという取り決めをしていたエリシアは、仕事で忙しいく言葉を殆ど交わすことなく離婚の日を迎えた。屋敷を追い出されてしまえば行くところなどない彼女だったがこれからについて話合うつもりでヴィンセントの元を訪れる。エリシアは何かが変わるかもしれないと一抹の期待を胸に抱いていたが、夫のヴィンセントは「好きにしろ」と一言だけ告げてエリシアを見ることなく彼女を追い出してしまう。

冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。

ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。 事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw

成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸
恋愛
 フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。  すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。  メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。  しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。  それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。  そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。  変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

十分我慢しました。もう好きに生きていいですよね。

りまり
恋愛
三人兄弟にの末っ子に生まれた私は何かと年子の姉と比べられた。 やれ、姉の方が美人で気立てもいいだとか 勉強ばかりでかわいげがないだとか、本当にうんざりです。 ここは辺境伯領に隣接する男爵家でいつ魔物に襲われるかわからないので男女ともに剣術は必需品で当たり前のように習ったのね姉は野蛮だと習わなかった。 蝶よ花よ育てられた姉と仕来りにのっとりきちんと習った私でもすべて姉が優先だ。 そんな生活もううんざりです 今回好機が訪れた兄に変わり討伐隊に参加した時に辺境伯に気に入られ、辺境伯で働くことを赦された。 これを機に私はあの家族の元を去るつもりです。

処理中です...