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第10話
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「ハリーとは別れましょう……」
頼りなく情けない男には愛想が尽きた。結婚したばかりの自分を置いてけぼりにして、幼馴染のエレナと遊びに出かけるという、デリカシー皆無の行動をとる。
イリスは二人が部屋から出るまで、涙をこらえるのに苦労して声を出す余裕はなかった。この男はもう駄目だと思ったイリスは、事務的な口調で離婚を宣言した。
緊張のあまり足腰に力が入らなくなり、立っていることもできず床に崩れるようにしゃがみこむと、悔しさからくる涙が流れ無念の思いが胸にしみ込んでいく。
しばらくのあいだ、寂しげに小さく震える声で泣くことしかできなかった。
「私の新婚旅行なのに……」
観光地として有名で、魅力的に感じられたからイリスはこの場所を新婚旅行先に選んだ。数日前には様々な場所を見て回っている自分とハリーの姿など想像して柔らかく微笑んだ。
本来なら自分と一緒に二人で、旅の思い出を作りに夕食の前に、しばらくあちこち散歩したりするのも丁度いいという感じで、街へ繰り出していただろう。
「イリスはエレナに冷たすぎる。エレナもそう思わないか?」
その頃、胸が満たされない気分のハリーは、歩きながら新妻のイリスに対して、あからさまに不満を漏らしていた。隣を歩くのは、この異常な事態を引き起こした張本人の幼馴染のエレナである。
先ほど、お揃いのネックレスを買った二人は、すでに身につけていて、すっかりご機嫌のエレナは笑みが口角に浮かぶ。その顔を見るとハリーはニヤリと白い歯を見せて笑い、自分が癒されていることを感じることができた。
だが複雑な感情が渦巻いて憂さ晴らしをしたい気を起こし、唇をゆがめ感情むき出しにして、イリスへの愚痴や悪口をこぼさずにはいられない。
「馬車に乗っていた時からそうだ。エレナと視線を合わせないようにしたり、エレナが話しかけても無視して返事もしないし」
「私もイリス様と仲良くしたいのに素っ気ない態度をされて悲しいです」
ハリーの頭の中では、悪いのは一方的にイリスで大事な幼馴染のエレナに対して、目に余る振る舞いが耐えられないと主張する。
エレナのほうもその意見に改めて納得するように、唇を動かし無意識のうちに声を出していた。
「さっきも一緒に出掛けようと誘っても突然怖い顔でキレ出してさ……僕は訳がわからないよ」
どうしてイリスはエレナと仲良くしてくれないのか?という思いがハリーには強くて客観的に見直すことができないのだ。何が悪くてイリスが怒っているのか、いまいち理解できていないようだった。
頼りなく情けない男には愛想が尽きた。結婚したばかりの自分を置いてけぼりにして、幼馴染のエレナと遊びに出かけるという、デリカシー皆無の行動をとる。
イリスは二人が部屋から出るまで、涙をこらえるのに苦労して声を出す余裕はなかった。この男はもう駄目だと思ったイリスは、事務的な口調で離婚を宣言した。
緊張のあまり足腰に力が入らなくなり、立っていることもできず床に崩れるようにしゃがみこむと、悔しさからくる涙が流れ無念の思いが胸にしみ込んでいく。
しばらくのあいだ、寂しげに小さく震える声で泣くことしかできなかった。
「私の新婚旅行なのに……」
観光地として有名で、魅力的に感じられたからイリスはこの場所を新婚旅行先に選んだ。数日前には様々な場所を見て回っている自分とハリーの姿など想像して柔らかく微笑んだ。
本来なら自分と一緒に二人で、旅の思い出を作りに夕食の前に、しばらくあちこち散歩したりするのも丁度いいという感じで、街へ繰り出していただろう。
「イリスはエレナに冷たすぎる。エレナもそう思わないか?」
その頃、胸が満たされない気分のハリーは、歩きながら新妻のイリスに対して、あからさまに不満を漏らしていた。隣を歩くのは、この異常な事態を引き起こした張本人の幼馴染のエレナである。
先ほど、お揃いのネックレスを買った二人は、すでに身につけていて、すっかりご機嫌のエレナは笑みが口角に浮かぶ。その顔を見るとハリーはニヤリと白い歯を見せて笑い、自分が癒されていることを感じることができた。
だが複雑な感情が渦巻いて憂さ晴らしをしたい気を起こし、唇をゆがめ感情むき出しにして、イリスへの愚痴や悪口をこぼさずにはいられない。
「馬車に乗っていた時からそうだ。エレナと視線を合わせないようにしたり、エレナが話しかけても無視して返事もしないし」
「私もイリス様と仲良くしたいのに素っ気ない態度をされて悲しいです」
ハリーの頭の中では、悪いのは一方的にイリスで大事な幼馴染のエレナに対して、目に余る振る舞いが耐えられないと主張する。
エレナのほうもその意見に改めて納得するように、唇を動かし無意識のうちに声を出していた。
「さっきも一緒に出掛けようと誘っても突然怖い顔でキレ出してさ……僕は訳がわからないよ」
どうしてイリスはエレナと仲良くしてくれないのか?という思いがハリーには強くて客観的に見直すことができないのだ。何が悪くてイリスが怒っているのか、いまいち理解できていないようだった。
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