上 下
22 / 44

第22話

しおりを挟む
「カイン様は離婚するのだろうか…」

自室の窓から外を眺めるジャック。空は深い雲に覆われて天気は悪く今にも降り出しそう。エリザベスの両親のカインとヴィクトリアが夫婦として成立しているのか気がかりな表情で物思いにふける。

ヴィクトリア夫人は占い師を狂信的に信じている感じだった。病気なら治療すれば治るけど、疑う余地もなく体の芯まで病的に歪んだ魂を抱えている場合は難しいと思う。

自分は正しいと思ってる人が相談して悩みを聞いてもらい精神の治療を受けても希望が見えて問題が解決することはない。

「ジャックちゃん!来たわよーーーー!」

突如として耳の中に飛び込んで来た鳥類の高音のような女性の声。予期した通りエリザベスの母親のヴィクトリアでした。

隣に知らない女性がいた。年齢は30歳くらいの細身のモデルみたいな長身の女性で清らかな美人だが限りなく冷たい表情で沈黙している。巫女装束に身を包み真剣な雰囲気が漂う。

「ヴィクトリア様、本日はようこそおいでくださいました」

一階に下りると既に両親が床に額をつけて這いつくばっていた。そんな姿の両親に視線を落とすと悲しみに打ちひしがれる。もう簡単には直らない長年に及ぶ身体に染み付いた癖だと思い悲しみを乗り越えてジャックは納得する。

「こちらは私が心からお慕いし神のごとく尊敬しているモニカ先生です」

どうやらヴィクトリアは占い師を連れて来たようだ。娘のエリザベスに妙なことを抜かしクロエへの恋愛対象の意識を植え付けた原因となる人物。

紹介されたモニカは気取った風な表情で軽く一礼をすると、何もかも見透かすような視線でジャックを穴のあくほど凝視し見定めると指し示す。

「この人の本来の霊魂は女性です。けれど星の巡り合わせがズレてしまい男性として産声を上げたのです」

初っ端から常識を突き抜けたとんでもない事を言い放つモニカ先生。ジャックは呆れ果てて怒りすら忘れ口を開け心ここにあらずでぼんやりした顔つきで停止してしまう。

「お前本当は女だったのか!」
「ジャックは女の子だったんだね!」
「何ふざけたこと言ってるんだよ!僕は男だから!」

占い師モニカの無責任な根拠の欠片もないお告げを頭から信じてかかる両親に、ハッと我に返ったジャックは大げさなほど不満を爆発させてがむしゃらに反論した。

「こちらを御覧なさい!」
「いい加減にしろよ!なんでそんなもの持ってるんだよ!」
「この方とエリザベスは運命によって太い絆で結ばれています。二人の意向を無視して繋がりを断つ事は神が許しません!」
「変なことを発言するな!」

続いてモニカ先生はどうやって手に入れたのか不明だがクロエの写真をおもむろに懐から取り出す。そしてエリザベスとクロエがどんなに運命的に引き寄せられたのか熱弁をふるう。

純粋で疑うことを知らない両親におかしな事を吹き込まれた息子は噛みつく勢いで怒鳴りつける。更に恋人のクロエの写真を持って世迷いごとを抜かしているのもジャックが怒りの限界を突破したきっかけになる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫は愛人のもとへ行きました。「幸せ」の嘘に気づいた私は王子様と結ばれます。

Hibah
恋愛
フローラは剣集めが趣味の夫ドミニクと夫婦円満に暮らしていた。しかしある日、教主様が「世界滅亡宣言」を発する。七日後に世界が滅亡すると聞いた夫は、気に入った剣だけを身につけて愛人のもとへ行く。夫婦円満とは表向きに過ぎず、もろく崩れ去った家庭生活にフローラは悲しむ。フローラは独りで家の整理を始めるが、ある男が訪ねてくる。彼の名はレオポルドといい、貴族学院時代の同級生だったが……? ※2024/10/8 加筆修正。番外編追加。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

【完結】美しい人。

❄️冬は つとめて
恋愛
「あなたが、ウイリアム兄様の婚約者? 」 「わたくし、カミーユと言いますの。ねえ、あなたがウイリアム兄様の婚約者で、間違いないかしら。」 「ねえ、返事は。」 「はい。私、ウイリアム様と婚約しています ナンシー。ナンシー・ヘルシンキ伯爵令嬢です。」 彼女の前に現れたのは、とても美しい人でした。

嘘つきな私が貴方に贈らなかった言葉

海林檎
恋愛
※1月4日12時完結 全てが嘘でした。 貴方に嫌われる為に悪役をうって出ました。 婚約破棄できるように。 人ってやろうと思えば残酷になれるのですね。 貴方と仲のいいあの子にわざと肩をぶつけたり、教科書を隠したり、面と向かって文句を言ったり。 貴方とあの子の仲を取り持ったり···· 私に出来る事は貴方に新しい伴侶を作る事だけでした。

【完結】婚約解消、致しましょう。

❄️冬は つとめて
恋愛
政略的婚約を、二人は解消する。

『君を、愛することはできない』と、今宵俺は言う。

❄️冬は つとめて
恋愛
結婚初夜に、彼は「君を、愛することはできない」と、言う。 2話で終わります。+ ?話。

頑張らない政略結婚

ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」 結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。 好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。 ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ! 五話完結、毎日更新

私の婚約者が、記憶を無くし他の婚約者を作りました。

霙アルカ。
恋愛
男爵令嬢のルルノアには、婚約者がいた。 ルルノアの婚約者、リヴェル・レヴェリアは第一皇子であり、2人の婚約は2人が勝手に結んだものであり、国王も王妃も2人の結婚を決して許さなかった。 リヴェルはルルノアに問うた。 「私が王でなくても、平民でも、暮らしが豊かでなくても、側にいてくれるか?」と。 ルルノアは二つ返事で、「勿論!リヴェルとなら地獄でも行くわ。」と言った。 2人は誰にもバレぬよう家をでた。が、何者かに2人は襲われた。 何とか逃げ切ったルルノアが目を覚まし、リヴェルの元に行くと、リヴェルはルルノアに向けていた優しい笑みを、違う女性にむけていた。

処理中です...