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第12話 令嬢の放課後の活動

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「お待たせして申し訳ありませんでした。初めてお目にかかります。ナタリアと申します」

メイドが主人に言われてナタリアを呼びに行ってから、小一時間ほど経ってドアをノックする音がして姿を見せた。それまで部屋の中は張り詰めた緊張感が常に漂い、男爵家の夫婦は蛇に睨まれた蛙のように不安で生きた心地がしなかった。

「ナタリア今まで何をやってたんだ!奥様方に失礼ではないか!」

主人は吐き出すような怒号を上げた。声からは苛立ちがにじみ出ている。今まで出来の良い娘に褒めたり感謝したことは何度もありましたが、声を振り絞って怒ったことは初めてだった。

パフォーマンスとでも思われるかもしれないが、この場では本気で怒らなければいけないと父親は決めていた。大貴族の夫人をここまで待たせたら相手の面子も立てる必要もある。

娘を待っている間、夫婦は水でも浴びたように汗をかいて手足の震えが止まらず、心拍数が上昇して感情の緊張が頂点に達して倒れそうになるのを歯を食いしばって踏ん張る。壁にかかっている時計を横目でチラチラ気にしながら、メイドが娘を連れて戻って来るのをいまや遅しと首を長くして待っていた。

「お父様申し訳ございません。すぐに来れなかったのは、いつもの慈善活動を行っていましたので……」
「あぁ、そうだったな。ナタリアは社会奉仕に参加してたのだったな」

ナタリアは遅れてやってきた理由を言い始めたところ、父のほうも何か思い出したらしく明るい表情になる。実はナタリアは家にいなくてボランティア活動をしていたと言う。

これは親としては自慢できる娘だと胸を張る。ボランティア精神に溢れた聖人君子とは私たちの娘のことだと誇らしく思う。さらに凄いことに娘はボランティア部を自分で立ち上げて、代表的な存在をしていると聞かされた。

なんて心が広くて慈愛深い娘だと感動し、その時は夫婦で感極まって心の底から娘を尊敬して涙がわくようにあふれ出て涙が止まらなくなった。

「アメリア様にエリー様どうかお許しください。私は学園が終わると限られた時間で友人たちと無償の社会奉仕をしております」
「奥様方、長らくお待たせしてすみませんが娘はボランティア活動をしていたので許していただけませんか」

ナタリアの言葉を聞きながら夫婦はうんうんとうなずいて聞いて、正面に座っている二人の夫人に頭を下げながら謝罪をした。

彼女がボランティア部を立ち上げたというのは真っ赤な嘘である。実際にはパパ活組織を作り上げた創設メンバーの一人で今はナタリアは指導的な立場であり、放課後は講習会を開いてパパ活のやり方を教えていました。

パパ活を上手に出来なくて悩みを抱えて困っている子は意外に多く、彼女は初心者にも親切に丁寧に指導してくれると評判でした。一部では崇拝されて絶大な人気を得ている。

アメリアとエリーは事前調査を行いパパ活組織にスパイを送り込んでいた。ナタリアの正体を知っている二人は険しい表情を浮かべていた。
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