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第32話

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「マリア……」
「ランドルフ様……」

質問に答えたマリアに、魔王は包み込むような柔らかな声で名前を呼んだ。同じくマリアも名前を呼び見つめて二人の視線が熱く絡み合う。その雰囲気は、まるで最愛の恋人に出会ってしまったと思わせる。

マリアは姉の話をして感極まって涙をこぼしており、今もマリアは目から涙を流しながら心の中で思った。

(うふふふ、さすが私ね。素晴らしい演技ができたわ。これで魔王の妻の座はもらった。お姉様はいつも私の踏み台になってくれるわね)

むしろ当然すぎる彼女の心からの率直な気持ちだった。妹のマリアは卑怯ひきょうでどうしようもなく性格が悪いのだ。姉のアイラを蹴落けおとすことに、何も心が痛まないのです。

他人を振り回すけれど、自分には無限に甘い。声と顔を取りつくろって、強者にびるような笑顔を見せるのは大得意でありました。異常なくらいすり寄ってきて、無駄なプライドを捨てて素直に甘えることができた。

普通の人間からしたら、少し下品すぎる取り入りかただと見られますが、マリアは全然平気で他人が何を言おうと気にしなかった。彼女は独特の性質を持っていると言えるだろう。

「マリア!お前はとんでもない嘘つきだなっ!!!」

だが、魔王には彼女の最大の持ち味が全く通用しなかった。普通の人間ならだまされそうな笑顔と仕草も、主演女優賞を受賞できるほどの役をこなし、誰もがみんな感動して心を動かされずにいられない演技も論外である。

「はぁ?」

思わず間抜けな声をらす。なんで……?マリアは意味がわからなかった。彼女の頭の中では、魔王に自分と結婚してほしいと熱心に求愛されて、彼女は愛の告白を受け入れるという文句のつけようがない脚本きゃくほんが完全に出来上がっていた。

それなのにおかしい。不機嫌ふきげんな口ぶりで嘘つきと怒鳴り声を浴びせられてしまった。マリアの意識はすっかり混乱していた。

「――マリア、お話にならない頭の悪い妹ですね」
「……な、何ですって!?……そ、それはどういうことよ!!!」

マリアは不安な気持ちが片付かなくて、ひどい混乱状態におちいっていた。しばらく無言になったまま動かなくなる。その様子を見守っていたアイラは、お気の毒さまという顔で口を開くのでした。姉にばか者と言われて非常に腹を立てながら、動揺どうようした目で不安げな顔に変わってしまう。

「ランドルフ様は心が読めるのです」
「え?」

落ち着いた声で明るい表情の姉から、魔王は人の心を読む力があると教えられると、口を開けたまままばたきすら忘れて再び激しい驚愕きょうがく度胆どぎもを抜かれ半ば放心してしまった。
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