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第14話
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「今までの期間、王国から友好関係のために魔王領に来られた人がいると思うのですが、その人たちはどうされているのですか?」
「……」
アイラが尋ねた途端、フェルディナントは心底悲しくてたまらない表情になる。アイラはその顔を見ると絶対に聞いてはいけない質問をしたのだと感じてしまった。
「答えたくなければそれでもいいです」
「アイラ様、全て隠さずお話いたします」
フェルディナントの話によると、王国から送られた使者は今は一人もいないと言う。その理由はむしろ当然といわなければならない。
今までの王国からの使者は、アイラと違っていくら美しくても亜人であることからエルフを恐れた。普通に挨拶を交わすことさえも出来なくて、身を縮めて怖さで震えてうつむいている人が大半だった。
他には、子供みたいにギャーギャー泣き叫んで、近寄らないでと救いを求める悲しい声を上げる人もいた。先ほど、王国の兵士たちの恥ずかしい態度の一部始終を目撃していたアイラは無理なく納得する。
「自ら命を絶ってしまったと……?」
「残念ながら……」
「そうですか」
王国から友好関係を促進するために派遣された使者が、自分たちを恐れて迷うことなく死を選択してしまう。長年にわたってその繰り返しで、フェルディナントは何ともやりきれない気持ちだったと語った。
アイラと同じように馬車に乗ってどうにか連れてきても黙って逃げ出してしまうのだと言う。王国からの使者の行動を手足を縛ったりして抑止するようなことはしていないからです。
魔王領は広大である。魔王陛下が全ての地域を統治しているわけではないのだ。人間に対して悪意がなく平和的な魔物も多いが、中には人間を快く思わない邪悪な魔物がいる。そんなのに襲われたら貧弱な身体の人間が助かる見込みは限りなくゼロに近い確率だろう。
「アイラ様は謙虚で慈愛に満ちた素晴らしく魅力的な女性です。丁寧に挨拶をしてくださり、私たちを怖がったりしませんでした。そのことがとても嬉しく思いました」
「王国の兵士みたいに、やたら騒ぎたてるのは礼儀知らずと思われるのは嫌でしたので……」
アイラはこれまでの流れから魔王領と王国の考え方の違いが少しずつ分かってきた。魔王領は王国の人間を使者だと判断しているので温かく迎えてくれる。それとは逆に王国は国外追放の命令が出て、島流しにされているようなものです。
フェルディナントは真正面から、じっとアイラの顔を見つめながら話す。誠実な人柄で非の打ち所のない可憐なる人と言われると、アイラはこれまで経験したことのない胸のときめきをおぼえた。
「……」
アイラが尋ねた途端、フェルディナントは心底悲しくてたまらない表情になる。アイラはその顔を見ると絶対に聞いてはいけない質問をしたのだと感じてしまった。
「答えたくなければそれでもいいです」
「アイラ様、全て隠さずお話いたします」
フェルディナントの話によると、王国から送られた使者は今は一人もいないと言う。その理由はむしろ当然といわなければならない。
今までの王国からの使者は、アイラと違っていくら美しくても亜人であることからエルフを恐れた。普通に挨拶を交わすことさえも出来なくて、身を縮めて怖さで震えてうつむいている人が大半だった。
他には、子供みたいにギャーギャー泣き叫んで、近寄らないでと救いを求める悲しい声を上げる人もいた。先ほど、王国の兵士たちの恥ずかしい態度の一部始終を目撃していたアイラは無理なく納得する。
「自ら命を絶ってしまったと……?」
「残念ながら……」
「そうですか」
王国から友好関係を促進するために派遣された使者が、自分たちを恐れて迷うことなく死を選択してしまう。長年にわたってその繰り返しで、フェルディナントは何ともやりきれない気持ちだったと語った。
アイラと同じように馬車に乗ってどうにか連れてきても黙って逃げ出してしまうのだと言う。王国からの使者の行動を手足を縛ったりして抑止するようなことはしていないからです。
魔王領は広大である。魔王陛下が全ての地域を統治しているわけではないのだ。人間に対して悪意がなく平和的な魔物も多いが、中には人間を快く思わない邪悪な魔物がいる。そんなのに襲われたら貧弱な身体の人間が助かる見込みは限りなくゼロに近い確率だろう。
「アイラ様は謙虚で慈愛に満ちた素晴らしく魅力的な女性です。丁寧に挨拶をしてくださり、私たちを怖がったりしませんでした。そのことがとても嬉しく思いました」
「王国の兵士みたいに、やたら騒ぎたてるのは礼儀知らずと思われるのは嫌でしたので……」
アイラはこれまでの流れから魔王領と王国の考え方の違いが少しずつ分かってきた。魔王領は王国の人間を使者だと判断しているので温かく迎えてくれる。それとは逆に王国は国外追放の命令が出て、島流しにされているようなものです。
フェルディナントは真正面から、じっとアイラの顔を見つめながら話す。誠実な人柄で非の打ち所のない可憐なる人と言われると、アイラはこれまで経験したことのない胸のときめきをおぼえた。
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