15 / 24
第15話
しおりを挟む
元妻アメリアの襲撃から10日後。この日はオリバーとエミリーとミアで遊びに出かけていた。
改めて純粋でやわらかく温かな愛情で胸が満たされたオリバーは、帰りの馬車の中で二人を優しい瞳で見つめて嬉しさに揺れるような微笑みで気持ちがほっこりする。
「楽しかったね。また行こう」
「はい」
「ミアは疲れたのかな?」
「嬉しそうに元気にはしゃぎ回っていましたから」
天使のような寝顔のミアは遊び疲れてエミリーの膝の上で心地よさそうにすやすやと眠る。夢の中では何度も浮かんでくるオリバーとエミリーの穏やかな顔だった。
まだ正式に結婚はしていないが夫婦といえる関係の二人は幸せそうに会話する。自分達の子供ではないが血のつながりよりも3人には大切な絆がある。
自宅に到着して馬車から降りると時間は夕方で辺りは薄暗い。オリバーがミアを抱きかかえてエミリーが隣を歩いていると泥をかぶったみたいに上手に隠れていた存在が姿を現す。
「いつまで遊んでいるのよ!ずっと待っていたわ!」
「ひっーー」
「うわあ!」
「ちょっとそんなに驚くことないでしょ!私がお化けみたいじゃないの!」
じっとして物かげに隠れながら待っていたアメリア。擬態するように闇に身を潜めていた者が突然動き出したのだから驚くのは当然の反応。
エミリーは怯えの声を発してオリバーは体がビクッとして飛び上がった。
アメリアは文句をぶつぶつ言って不機嫌に眉をしかめて口をとがらせる。危険人物特有の合理性を欠いた行動に息が詰まったように立ちすくむ。
幸いなことに子供が眠っていたことが救いだった。アメリアを見たら身を震わせながら悲鳴のような声で泣き出していたことは火を見るよりも明らかだろう。
「アメリアなんの用だ?」
既に公爵家の警備兵に囲まれているアメリアは、この前のように叩き出されてはたまらないと野犬のように騒ぐことはなく落ち着いていた。
「話し合いたいの!」
「今ごろになって話すこともないだろう?」
「私の格好見なさいよ!このボロボロで薄汚い召し使いでも着ないようなドレス…生活費を恵んでください…」
「今は何をやってるんだ?」
「住むところもなく草むらで寝て…起きてから物乞いをして…体がかゆい…」
思いがけない衝撃の告白に言葉が出ないオリバーとエミリーは呆れたような顔つきで目を大きく開く。
見る影もなくなって曇った瞳のアメリアはどこをどう見ても不潔できれいとはいえない。体中と頭がこの間からかゆくて仕方がないと中々の口臭を放ちながら話す。
「お金はどうしたの?」
実を言えば、追い出されたアメリアにしみじみと哀れに感じた家族は、公爵令嬢がみっともない生活をしては可哀そうだと同情の念がわき起こり、ある程度の金貨を渡していた。
「お金は取られた…」
「誰に?」
「言い寄ってきた男に…」
姉のエミリーが問いただすと、バーで飲んでいたらそっと小声でモーションをかけてきた遊び人風の男と話が弾み酔った勢いでその日はベッドを共にしたと明かす。
だが朝に目覚めると金貨も銀貨もブレスレットも指輪も金目のものを全て奪い去られて何も無くなっていた。
やたらに腹が立ちむしゃくしゃする胸の中は嵐のように荒れて昼夜を置かずに憎き男を探し回ったが街のどこにも姿がなく途方に暮れる。
「あり得ない!」
姉のエミリーは妹のアメリアに軽蔑と呆れが混じり合った表情でじいっと痛いほどの視線を送っていた。
改めて純粋でやわらかく温かな愛情で胸が満たされたオリバーは、帰りの馬車の中で二人を優しい瞳で見つめて嬉しさに揺れるような微笑みで気持ちがほっこりする。
「楽しかったね。また行こう」
「はい」
「ミアは疲れたのかな?」
「嬉しそうに元気にはしゃぎ回っていましたから」
天使のような寝顔のミアは遊び疲れてエミリーの膝の上で心地よさそうにすやすやと眠る。夢の中では何度も浮かんでくるオリバーとエミリーの穏やかな顔だった。
まだ正式に結婚はしていないが夫婦といえる関係の二人は幸せそうに会話する。自分達の子供ではないが血のつながりよりも3人には大切な絆がある。
自宅に到着して馬車から降りると時間は夕方で辺りは薄暗い。オリバーがミアを抱きかかえてエミリーが隣を歩いていると泥をかぶったみたいに上手に隠れていた存在が姿を現す。
「いつまで遊んでいるのよ!ずっと待っていたわ!」
「ひっーー」
「うわあ!」
「ちょっとそんなに驚くことないでしょ!私がお化けみたいじゃないの!」
じっとして物かげに隠れながら待っていたアメリア。擬態するように闇に身を潜めていた者が突然動き出したのだから驚くのは当然の反応。
エミリーは怯えの声を発してオリバーは体がビクッとして飛び上がった。
アメリアは文句をぶつぶつ言って不機嫌に眉をしかめて口をとがらせる。危険人物特有の合理性を欠いた行動に息が詰まったように立ちすくむ。
幸いなことに子供が眠っていたことが救いだった。アメリアを見たら身を震わせながら悲鳴のような声で泣き出していたことは火を見るよりも明らかだろう。
「アメリアなんの用だ?」
既に公爵家の警備兵に囲まれているアメリアは、この前のように叩き出されてはたまらないと野犬のように騒ぐことはなく落ち着いていた。
「話し合いたいの!」
「今ごろになって話すこともないだろう?」
「私の格好見なさいよ!このボロボロで薄汚い召し使いでも着ないようなドレス…生活費を恵んでください…」
「今は何をやってるんだ?」
「住むところもなく草むらで寝て…起きてから物乞いをして…体がかゆい…」
思いがけない衝撃の告白に言葉が出ないオリバーとエミリーは呆れたような顔つきで目を大きく開く。
見る影もなくなって曇った瞳のアメリアはどこをどう見ても不潔できれいとはいえない。体中と頭がこの間からかゆくて仕方がないと中々の口臭を放ちながら話す。
「お金はどうしたの?」
実を言えば、追い出されたアメリアにしみじみと哀れに感じた家族は、公爵令嬢がみっともない生活をしては可哀そうだと同情の念がわき起こり、ある程度の金貨を渡していた。
「お金は取られた…」
「誰に?」
「言い寄ってきた男に…」
姉のエミリーが問いただすと、バーで飲んでいたらそっと小声でモーションをかけてきた遊び人風の男と話が弾み酔った勢いでその日はベッドを共にしたと明かす。
だが朝に目覚めると金貨も銀貨もブレスレットも指輪も金目のものを全て奪い去られて何も無くなっていた。
やたらに腹が立ちむしゃくしゃする胸の中は嵐のように荒れて昼夜を置かずに憎き男を探し回ったが街のどこにも姿がなく途方に暮れる。
「あり得ない!」
姉のエミリーは妹のアメリアに軽蔑と呆れが混じり合った表情でじいっと痛いほどの視線を送っていた。
0
お気に入りに追加
1,230
あなたにおすすめの小説
地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
貴方の事を愛していました
ハルン
恋愛
幼い頃から側に居る少し年上の彼が大好きだった。
家の繋がりの為だとしても、婚約した時は部屋に戻ってから一人で泣いてしまう程に嬉しかった。
彼は、婚約者として私を大切にしてくれた。
毎週のお茶会も
誕生日以外のプレゼントも
成人してからのパーティーのエスコートも
私をとても大切にしてくれている。
ーーけれど。
大切だからといって、愛しているとは限らない。
いつからだろう。
彼の視線の先に、一人の綺麗な女性の姿がある事に気が付いたのは。
誠実な彼は、この家同士の婚約の意味をきちんと理解している。だから、その女性と二人きりになる事も噂になる様な事は絶対にしなかった。
このままいけば、数ヶ月後には私達は結婚する。
ーーけれど、本当にそれでいいの?
だから私は決めたのだ。
「貴方の事を愛してました」
貴方を忘れる事を。
形だけの妻ですので
hana
恋愛
結婚半年で夫のワルツは堂々と不倫をした。
相手は伯爵令嬢のアリアナ。
栗色の長い髪が印象的な、しかし狡猾そうな女性だった。
形だけの妻である私は黙認を強制されるが……
【完結】新婚生活初日から、旦那の幼馴染も同居するってどういうことですか?
よどら文鳥
恋愛
デザイナーのシェリル=アルブライデと、婚約相手のガルカ=デーギスの結婚式が無事に終わった。
予め購入していた新居に向かうと、そこにはガルカの幼馴染レムが待っていた。
「シェリル、レムと仲良くしてやってくれ。今日からこの家に一緒に住むんだから」
「え!? どういうことです!? 使用人としてレムさんを雇うということですか?」
シェリルは何も事情を聞かされていなかった。
「いや、特にそう堅苦しく縛らなくても良いだろう。自主的な行動ができるし俺の幼馴染だし」
どちらにしても、新居に使用人を雇う予定でいた。シェリルは旦那の知り合いなら仕方ないかと諦めるしかなかった。
「……わかりました。よろしくお願いしますね、レムさん」
「はーい」
同居生活が始まって割とすぐに、ガルカとレムの関係はただの幼馴染というわけではないことに気がつく。
シェリルは離婚も視野に入れたいが、できない理由があった。
だが、周りの協力があって状況が大きく変わっていくのだった。
【完結】私よりも、病気(睡眠不足)になった幼馴染のことを大事にしている旦那が、嘘をついてまで居候させたいと言い出してきた件
よどら文鳥
恋愛
※あらすじにややネタバレ含みます
「ジューリア。そろそろ我が家にも執事が必要だと思うんだが」
旦那のダルムはそのように言っているが、本当の目的は執事を雇いたいわけではなかった。
彼の幼馴染のフェンフェンを家に招き入れたかっただけだったのだ。
しかし、ダルムのズル賢い喋りによって、『幼馴染は病気にかかってしまい助けてあげたい』という意味で捉えてしまう。
フェンフェンが家にやってきた時は確かに顔色が悪くてすぐにでも倒れそうな状態だった。
だが、彼女がこのような状況になってしまっていたのは理由があって……。
私は全てを知ったので、ダメな旦那とついに離婚をしたいと思うようになってしまった。
さて……誰に相談したら良いだろうか。
生まれ変わっても一緒にはならない
小鳥遊郁
恋愛
カイルとは幼なじみで夫婦になるのだと言われて育った。
十六歳の誕生日にカイルのアパートに訪ねると、カイルは別の女性といた。
カイルにとって私は婚約者ではなく、学費や生活費を援助してもらっている家の娘に過ぎなかった。カイルに無一文でアパートから追い出された私は、家に帰ることもできず寒いアパートの廊下に座り続けた結果、高熱で死んでしまった。
輪廻転生。
私は生まれ変わった。そして十歳の誕生日に、前の人生を思い出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる