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第12話

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「ひどいよ……ふざけないで!なんでそんなこと急に言うの?やっぱり私よりもお姉様のほうがいいの?」
「前にも話したよね」
「どういうこと?」
「浮気する人は許せないって」
「えっ……?」
「この間、偶然見かけたんだ。アリスを喜ばせようと思ってプレゼントを買いに行ったら……見た瞬間その場で僕は倒れそうだったよ。なんでアリスがあんなだらしない男と仲良くしてるのかってね……悔しかった」

突然別れようと言われてアリスは目を丸くした。だが次にテリーの発せられる言葉には、何から何まで自分と遊んでいる男のことを知られたのだろうと思い巡らせて、アリスは血の気の引いた顔に変わる。

「違うの!」
「僕は情けないけど、震えて泣きながら会話も聞いていた。あの男と半年も付き合ってるんだろ?言い訳は聞きたくない。なによりアリスがあの男みたいに、はしたない言葉遣いで僕の悪口まで聞いた時はショックだったよ。ケチで悪かったな!でも聞きたい事なら一つだけある」
「……なに?」
「あの男のどこが好きなのか分かるように教えてくれ。僕はいくら考えても見当がつかないんだ」
「待って!」

アリスの否定の叫びに、テリーは勢いよく自分の気持ちをさらけ出す。そして最後のほうは早口で事務的に、男の好きなところを問いかけるが、アリスが黙っていたのでその場を去ろうとした。

後ろからテリーの体を抱きしめたアリスは涙ながらに謝ってくる。だがテリーはいかにも不満があるみたいな仏頂面で容赦なく振り払った。

「お姉様と婚約してるくせに、なに言ってるのよ!もし別れるならお姉様に全てバラします」

だがアリスはその瞬間自分の中で何かがキレて、テリーに掴みかかるように怒鳴り歯を食いしばって睨みつける。

自分のことを棚に上げて、説教を受けたことに対しても手が震えるほど腹が立つ。姉に秘密で自分と関係を持っていながら、どうしてテリーは私の浮気ばかりを責めているのだろうか?

アリスはどうでもよくなり別れるなら姉のフローラに、包み隠さず真実を打ち明けると浮き立った声で言い放った。

「それだけは待ってくれ……」

テリーは振り返り、アリスの覚悟を決めた本気の顔を見た途端に、うろたえた様子の視線を投げかけてきた。

「私を弄んだあなたを許さないから!」
「わかった。別れないからフローラには秘密にしてくれ」
「そんな謝罪では誠意が伝わらない。私は凄く傷ついたの」
「僕が悪かった。許してください……」

アリスは自分の純情な心を弄ばれたと怒りを込めて叫んだ。そしていきなり頭を下げたテリーは、アリスに全力の限りを尽くして許してほしいとお願いしました。

その謝罪の光景は見た人がいたら気の毒に思うほどで、テリーは地面に額をつけて無様に土下座までした。どうにかアリスのご機嫌をとろうと頑張ってしがみ付くような声で長らく謝り続ける。

先ほどまでは、アリスのほうが必死にテリーに別れないでと泣いてすがっていたのに、すっかり立場が逆転してしまった。この日から徐々に、アリスとテリーの主人と奴隷の関係が出来上がりつつあった。
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