聖女の妹に幼馴染の王子をとられて婚約破棄「神に見捨てられた無能の職業は追放!」隣国で優秀な女性だと溺愛される

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第61話 死ぬ決意を心に誓う

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「アンドリュー騙されたと思って食べてみろ。すぐに元気になるぞ」

ルークは自信たっぷりの声で言った。顔には笑みさえ浮かんでいる。アンナの料理を食べて母のサーシャは病気が治った。自分でも食べてアンナの料理の凄さは実感している。あとはアンドリューに食べてもらえれば体調が回復するだろうとルークは強い確信を持っている。だがそれを邪魔しようとする者がいた。

「ルーク様いけません!いただかなくて結構です!」

妹のプリシラは混乱して激しい感情にとらわれていた。好きだったルークに冷たい態度を取られて彼女には心に余裕がなくなっていた。とにかく一番大切な兄を守ることしか頭になかった。プリシラは兄の前に立ってお菓子を食べさせないように噛みつくような目で睨んで言った。

「アンナ……口に入れてくれないか……食べてみたい」

アンドリューは消え入りそうな声でお菓子を食べたいと言った。胸が激しく痛むし肉体的な疲労は限界だった。もう楽になりたい彼は人生を終わりにしようと気持ちを固める。それ故、あの世への手土産に初恋相手のお菓子を食べるのも悪くないと思った。アンドリューは自分で手に持って口に入れる体力もないので、アンナに食べさせてほしいと頼んだ。安心して死ねるような気がして唇にかすかな笑みを浮かべた。

「お兄様!何をおっしゃるのですか!」

次の瞬間、プリシラの心には絶望の鐘が鳴り響いた。生きる意味を与えてくれていた兄に裏切られて、彼女はショックで精神は暗い淵に引きずり込まれていく。挫折感を味わって悲観的になっていくのを自分自身で感じた。プリシラは苛立ってヤケクソ気味になって激しく非難する。

「プリシラ静かにしてくれ」
「ルーク様もう結構です……あなた達も何とかおっしゃってください!」

ルークは再びプリシラを叱った。さっきからプリシラがうるさいことを色々言うので単純に黙ってほしかった。それ以上は騒いでくれるなという気持ちで呆れていた。少しだけ大人しく引っこんでいろとルークは軽く言ったつもりだったが、プリシラの暴走は止まらないどころか勢いを増す。

プリシラは医者たちを急き立てる。重病人の兄にお菓子を食べさせようとする人に、あなた達も注意してくださいと感情をむき出しにして言った。ひどいヒステリー状態のプリシラに理不尽な怒りを向けられた医者たちは恐怖で言葉が出なかった。

プリシラは一人だけで騒いでいた。絶対に自分が正しいと信じて疑わないような様子で、頭が凝り固まっている思い込みが激しい異常者に感じられた。周りで見ていたメイドたちもプリシラの発狂している姿に、正気を疑うような視線を送って頭がおかしい人なのかなと思っていた。

「プリシラ……騒ぐなら出て行ってくれ……」
「プリシラいい加減にしろ!お前は言うことを聞かない子供みたいに我儘だ!」

アンドリューは妹に部屋を出ていくように言う。彼は安らかな眠りを求めていた。穏やかな心で人生の幕を閉じたかった。それなのにかたわらで金切り声で叫ばれたら気分が悪くなる。

間髪入れずにルークも一喝した。先程までの落ち着いた声での注意ではなく、怒りに燃えた声で殷雷いんらいのように感じられた。ルークはプリシラに恋愛感情はなかったが実の妹みたいに大切に思って可愛がっていた。それでも今はプリシラのあまりにも非常識な行動に我慢ならないほど不快になる。耳にするのが苦痛な言葉を平気で口にするプリシラの攻撃的な人格にどうしようもなく腹が立った。

(気違いは一度痛い目を見たほうが良い)

ルークは心の中で鬼になってやると決める。頭のおかしい人には優しく言ってもわからないし伝わらない。謝ってきても手遅れで譲歩することはできないという思いだった。いくら親友の妹で大切にしていた可愛いプリシラでも調子に乗った奴には慈悲を与えずに徹底的に叩きのめす。無様な姿を世に永遠にさらし続けろと思っていた。
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