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第49話 元婚約者の後悔と反省2
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ダニエルの職業は剣士。剣士という職業は剣の使い手では下の階級で上には剣客に剣豪に剣聖と上がっていく。どちらかというと誰もが憧れる幸先の良い職業ではない。ダニエル自身も理解しているので強い劣等感を持っていた。剣士は下位の職業なので上位の職業には戦ってもとてもかなわない。実際に試合をして強さを比べ合って、そう思わせる斬撃の強力さを感じた。
ダニエルがあらゆる努力をしているにもかかわらず、上の職業には一度も勝てなかった。勝負にすらならず一瞬で敗北する結果となる。これが職業の差。職業至上主義と言われるこの世界の絶対的な真理で、下の職業の者は努力ではどうにもならないと悟る。
ダニエルは現実の希望のなさに打ちのめされる。剣士でも厳しい修行を積み重ねて、いつか剣聖は無理でも剣客や剣豪なら勝てるかもしれないと頑張っていた。その思いは跡方もなく崩れ去る。ダニエルは人生で最も大きな挫折を経験した。ダニエルは生活が荒れた。剣の稽古にも身が入らず失敗ばかりで落ち込んでしまった。
そんな日々が続いていた時に予想しなかった事が起こる。絶対に勝てないと思っていた自分より上の職業の剣客に勝ってしまったのである。以前に比べて剣の稽古もおろそかになっていたのに、理解できないという思いで不思議そうな顔をして首を振った。
それからも普通に上の職業の者に勝てるようになる。とうとうしまいには、剣豪から一本取って試合に勝ってしまうほどの強さを見せつけた。ダニエルは大勝利を収めて腹の底からの雄叫びを上げた。感動から泣きたいようになって涙がとめどなく流れていたが顔は喜びに輝いていた。
「だが最近なぜか弱くなって……体もすぐに疲れるようになったんだ」
最近のダニエルは、どうもおかしいなと思うことの連続で頭の中は疑問だらけであった。まず最初は上位職に勝てなくなった。普通は下位職が上位職に勝つことは不可能だが、この前までは確かに勝てていた。それなのに一体どういうことなのだろうかと悩んでいた。
何度戦ってもあっけなくやられる。ダニエルは昔の自分に戻ったような気がした。次に体の重さを感じて寝ても疲れが抜けない状態が続いていた。ダニエルに何らかの異変が起きたことは明らかだった。ダニエルは修行不足のせいで弱くなったのだと思って、自分を鍛え直すために近くの森に護衛兵たちを引き連れて魔物退治に出陣した。
「そこでスライムに……?」
ジョセフは神妙な顔をして口を開いた。そこでスライムに遭遇して、戦闘が行われたのだろうと思いながら尋ねた。この世界でスライムは最弱の魔物と言われている。小さな子供に体力の衰えた老人にも簡単に倒せるのが理由だ。スザンナ夫人とレイチェルも真剣な素振りの顔をして固唾を飲んで見守っている。
「ああ、洞窟を見つけてな。そこでスライムに襲われたんだ。あれは恐ろしかった……今思い出しても小便をちびりそうになる」
ダニエルは洞窟の中で遭遇した恐怖の体験を語り始めた。洞窟を見つけたダニエルは自分が一人で様子を見てくると言って、護衛兵たちに待機をしているよう命令した。この辺りは町にも近く比較的安全な場所だという認識がある。ダニエルが危険な状況になることはないだろうと思った。
護衛たちは、わかりましたと返事をして少し安心したような笑顔で気楽に応じる。だが、護衛たちの考えは甘かった。ある理由で彼は急速な弱体化をしていたので、最弱のスライムですら命を落としかねない危険な魔物になっていた。
「勇敢な剣士としても名高いダニエル殿下が、スライム相手にお小水を漏らしてしまわれたと……?」
スライムに殺されかけたと話したダニエルの言葉に、ジョセフは納得いかないといった表情で首を傾げた。スライム相手に、そのような不名誉な状態になりましたかと疑問をふくらませていた。
「まあな」
ダニエルは澄ました顔で言ってのけた。
ダニエルがあらゆる努力をしているにもかかわらず、上の職業には一度も勝てなかった。勝負にすらならず一瞬で敗北する結果となる。これが職業の差。職業至上主義と言われるこの世界の絶対的な真理で、下の職業の者は努力ではどうにもならないと悟る。
ダニエルは現実の希望のなさに打ちのめされる。剣士でも厳しい修行を積み重ねて、いつか剣聖は無理でも剣客や剣豪なら勝てるかもしれないと頑張っていた。その思いは跡方もなく崩れ去る。ダニエルは人生で最も大きな挫折を経験した。ダニエルは生活が荒れた。剣の稽古にも身が入らず失敗ばかりで落ち込んでしまった。
そんな日々が続いていた時に予想しなかった事が起こる。絶対に勝てないと思っていた自分より上の職業の剣客に勝ってしまったのである。以前に比べて剣の稽古もおろそかになっていたのに、理解できないという思いで不思議そうな顔をして首を振った。
それからも普通に上の職業の者に勝てるようになる。とうとうしまいには、剣豪から一本取って試合に勝ってしまうほどの強さを見せつけた。ダニエルは大勝利を収めて腹の底からの雄叫びを上げた。感動から泣きたいようになって涙がとめどなく流れていたが顔は喜びに輝いていた。
「だが最近なぜか弱くなって……体もすぐに疲れるようになったんだ」
最近のダニエルは、どうもおかしいなと思うことの連続で頭の中は疑問だらけであった。まず最初は上位職に勝てなくなった。普通は下位職が上位職に勝つことは不可能だが、この前までは確かに勝てていた。それなのに一体どういうことなのだろうかと悩んでいた。
何度戦ってもあっけなくやられる。ダニエルは昔の自分に戻ったような気がした。次に体の重さを感じて寝ても疲れが抜けない状態が続いていた。ダニエルに何らかの異変が起きたことは明らかだった。ダニエルは修行不足のせいで弱くなったのだと思って、自分を鍛え直すために近くの森に護衛兵たちを引き連れて魔物退治に出陣した。
「そこでスライムに……?」
ジョセフは神妙な顔をして口を開いた。そこでスライムに遭遇して、戦闘が行われたのだろうと思いながら尋ねた。この世界でスライムは最弱の魔物と言われている。小さな子供に体力の衰えた老人にも簡単に倒せるのが理由だ。スザンナ夫人とレイチェルも真剣な素振りの顔をして固唾を飲んで見守っている。
「ああ、洞窟を見つけてな。そこでスライムに襲われたんだ。あれは恐ろしかった……今思い出しても小便をちびりそうになる」
ダニエルは洞窟の中で遭遇した恐怖の体験を語り始めた。洞窟を見つけたダニエルは自分が一人で様子を見てくると言って、護衛兵たちに待機をしているよう命令した。この辺りは町にも近く比較的安全な場所だという認識がある。ダニエルが危険な状況になることはないだろうと思った。
護衛たちは、わかりましたと返事をして少し安心したような笑顔で気楽に応じる。だが、護衛たちの考えは甘かった。ある理由で彼は急速な弱体化をしていたので、最弱のスライムですら命を落としかねない危険な魔物になっていた。
「勇敢な剣士としても名高いダニエル殿下が、スライム相手にお小水を漏らしてしまわれたと……?」
スライムに殺されかけたと話したダニエルの言葉に、ジョセフは納得いかないといった表情で首を傾げた。スライム相手に、そのような不名誉な状態になりましたかと疑問をふくらませていた。
「まあな」
ダニエルは澄ました顔で言ってのけた。
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