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第43話 聖女の悪い遊び2

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「あっ……!痛い……お腹が痛い」

美少年の宝庫と言っても過言ではないグランベル王国の王立魔法学園。その中でも最高級の美少年のアダムはクラスの人気者。学園の広い中庭を歩いている時だった。突然お腹に鋭い痛みが走った。立ち止まったアダムは両手でお腹を押さえてうずくまった。どうしたんだろう急にお腹が痛くなるなんて。アダムは美しく整った顔を歪めた。痛みに耐えるのに精一杯でその場で動けなくなる。

「どうされたの?大丈夫ですか?」

その時、アダムの後ろから声が聞こえた。聖女のレイチェルだった。レイチェルは心配そうな顔で、アダムのことを優しくいたわるような様子を見せた。

「レイチェル様!?あの、腹痛に襲われまして……お恥ずかしい限りでございます」

アダムはお腹を痛がりながら説明した。最初声をかけてきたのがレイチェルだとわかった時は、お腹を痛がっている姿を見られて恥ずかしさで泣きたくなる思いだった。

アダムは礼儀正しく丁寧な言葉遣いで話したが貴族の生まれではない。平民出身の人物で職業は僧侶そうりょ。一般的に恵まれた職業と言われ得意分野は回復系の魔法。

この学園は平民出身者が多い。完全な実力主義というか職業主義なので、貴族と平民の数を比べたら自然なこと。ここの生徒たちは授業によって高い教養も身につけている。なので平民出身で言葉遣いが汚くても一年も経てばそれなりになる。

実はレイチェルは学園の講師として定期的に訪れて生徒を指導している。レイチェルが行う授業内容は得意な回復魔法。回復魔法を使う時の魔力の管理に、効果的な治療法などを教えている。

「それは大変だわ。私が診ますから安心しなさい」

レイチェルは、おかわいそうにと同情する感じで言う。レイチェルは聖女で回復魔法の専門家ですから、それなら私が身体を調べて病状を判断しましょうかと優しく思いやった。

この職業至上主義の世界で、レイチェルは成人の儀で神に選ばれた貴重な職業の聖女なので有名人。この国で知らない者はいないだろう。レイチェルは表向きには美しく聡明な聖女として国民から尊敬されて愛されている。公爵家でアンナを冷たく扱っていたことは世間に知られていない。

ダニエル王子はアンナに婚約破棄を宣言して、その後にレイチェルとの婚約を発表した。どう考えてもダニエルが悪いが、誰も王家の悪口は言えないからアンナが悪者にされた。

無能な家事のアンナが優秀な聖女のレイチェルに激しい嫉妬をした。アンナは長年にわたってレイチェルを毎日いじめて泣かせていたとか。アンナは浮気者でダニエルを裏切った。アンナは異性との交際においてだらしない女性でダニエルに愛想を尽かされたとか。王家と公爵家は協力して世間の人々に、真実と異なる嘘の情報を流してアンナに責任を負わせた。

「レイチェル様ありがとうございます」

アダムは救われたような明るい気持ちになる。お腹が痛いので嬉しげに顔を歪めていた。アダムはレイチェルの厚意に心の底から深く感謝している。

実を言うと、レイチェルが聖女の能力を使ってアダムに痛みを与えていた。どうして彼女は、そんな悪い事をするのか。どうしようもなく底意地が悪くて、人の道を外したモラルのない人間だからに他ならない。

彼女が痛みを与えて治して美少年に感謝される。その結果、美少年はレイチェルのことを神のごとく尊敬して女神と崇めている。こうしてレイチェルは好き放題に美少年たちを支配した。

しかし、レイチェルはまだ満足してない。これから多くの美少年に囲まれて回復魔法の授業を行う。次は美少年に痛みではなく何を与えるのか。彼女の悪い遊びは始まったばかりだ。
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