聖女の妹に幼馴染の王子をとられて婚約破棄「神に見捨てられた無能の職業は追放！」隣国で優秀な女性だと溺愛される

第19話 公爵家の様子が何かおかしい2

「うちの食事をずっとアンナが作っていただと……！？」

ジョセフは気が動転して顔は苦痛に歪む。料理人の口から思いもよらない言葉が出て驚いていた。料理人たちに以前どおりの美味しい料理を作るように命じたが彼らは当然再現できない。

お前たちはどうして不味い料理しか作れないんだと、公爵家一同からの厳しい追及に耐えかねて料理人の一人がうっかり言ってしまう。自分たちが食べていた極上の味わいで、心に幸福を感じるほど美味しい料理はアンナが作っていたと答えた。

最初の頃は下準備をさせていただけだった。盛り付けをするように言うと手際よく行っていた。そのうちアンナは本格的に携わるようになった。味付けや焼き具合まで行って料理人の技術を余すことなく覚えていく。正直に言って数年前からはアンナが一人で全部作っていたと驚きの告白をした。

「家事のアンナが？そんなこと信じられないわ！」

スザンナ夫人は切って捨てるような言い方をする。不遇職の家事で役立たずのアンナが旨味を極めた料理を作れるわけがない。悪い冗談にもほどがあると苛立ちを覚えているようだった。

「能力が劣ったあの人が作っていたなんてあり得ない！」

レイチェルは不機嫌そうに顔をしかめて言った。レイチェルには大好きな料理があった。濃厚クリーミーなポタージュスープが出てきた時は嬉しくて心が踊っていた。口に含んだ瞬間に天国へ登るような心地で思い出しただけでも舌もとろける。

食べ過ぎてお腹が痛くなっても構わないし、ダイエットなんてどうでもよくなって何度もおかわりした。こんなに美味しい料理が世の中にあったのかと感動すらしていた。その料理を作っていたのが能なしで使えないと思っていた姉のアンナだなんて、レイチェルの中で素直に受け入れられるわけがなかった。

「お前たちにプライドはないのか！」
「申し訳ございません……」

ジョセフは癇癪かんしゃくを高ぶらせて不満や憤りの感情を吐き出すように怒号を上げた。真っ青な顔をして立っていた複数の男たちは主人に叱られて迅速に姿勢を低くすべきであると考えた。主人から許しの言葉が出るまで床に額をこすりつけて身を震わせて臆病な声で許しを願っていた。

アンナのことを家事で能力が低い役立たずと認識している家族は、アンナが料理を一人で全部作っているなんて想像することは不可能であった。

「娘に料理を作らせるなんて料理人失格ですね」
「お母様それを言うなら彼らは人間としても失格ですよ」

スザンナは料理人たちを呆れたように見下ろして、先ほどと比べると幾分落ち着いた声で言う。続けざまにレイチェルも皮肉な微笑を唇に浮かべて道理にかなった意見を口にした。

使用人の職務を放棄して自分たちの主人の娘に料理を作らせるなんて原則から大きく逸脱している。どんな重い罰を課せられても不満を口にすることは許されない。死刑宣告を受けても黙って受け入れるしかない。それほど酷いことを彼らはアンナにやらせていた。

しかし実際にはアンナの家族がきっかけ作りとしての役割を果たした。アンナのことを家事で無能だと言ってぞんざいに扱っていた。アンナの家族が使用人にアンナに対して冷たい態度で接するように仕向けていた。使用人たちがアンナに出来損ないと見下してからかっていることも家族は分かっていた。

そのことに家族は注意したり説教することは一度もなかった。使用人たちがアンナに対しての悪口や行き過ぎた行動などを目撃しておきながら、家族は知らないふりをした。メイドがアンナに仕事を押し付けていたことも見たことがあったが、ちょっとした雑用をさせていると思っていた。

したがって家族とも同罪ではないかと目の前でひれ伏している料理人たちは思うのだが、恐ろしくて誰一人として口に出すことはなかった。