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第28話 受付嬢マリン視点4
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(家事のアンナさんが優秀?そんな凄い人なの?)
マリンはアンナが使えないので解雇されたとばかり思っていたのに、雇用主はアンナのことを才能の塊のような人だと、信じられないくらい褒めちぎっているのである。アンナは大勢で数日かかる仕事を一時間で完璧にやり遂げたという。雇えなかった理由はアンナの能力が高すぎて他の人の仕事まで終わらせてしまうことになる。そうなったらその人たちに報酬を払うことができなくなるというものだった。
アンナは垂直の壁を平らな道でも歩くように普通に歩いて登っていた。アンナは人並みはずれた能力を持っている女性。報告書にそう書かれていてもマリンには容易に信じがたい話であったが、最後に書かれているアンナに支払う報酬を見て信用せざるを得ないという思いになる。アンナは百人分の報酬を受け取るべきであると記されてサインが刻印されていた。
「アンナさん、あなたは一体何者なんですか?」
マリンは目の前にいるアンナという女性の正体について知りたくなる。そういえば今日会ったばかりでマリンはアンナのことを何も分からなかった。世にも稀な美しい顔とスタイルがいい気弱そうな人柄で上品な感じの女性。ということ以外は過去にどんな秘密があるのか何も知らない。
しかしマリンの言葉はアンナの耳に届いてこない。男性の怒鳴り声によってかき消されてしまったからだ。今は人は少なかったが周りはざわついた感じもする。建物中に響き渡るような大声を出した男性に誰もが目を引くのは自然なことだった。男性は少し離れた受付窓口で受付嬢と激しく口論をしていた。
(なかなかの美形じゃないの。口説かれたら付き合ってあげてもいいかな?)
マリンは慎重な目でその様子を観察する。男性は顔立ちが整っていて背も高くマリンの好きなタイプであった。マリンは何年も前から恋人募集中で、今まさに運命の人に出会えたような不思議な感覚が胸をついた。マリンはいつも恋に落ちる相手を探していた。いい人いないかなぁって、受付嬢なので訪れた男性を自然と品定めするようになっていた。
数ヶ月に一度くらいで、マリンのお眼鏡に適った付き合ってもいいと思える魅力に溢れた男性が現れる。その時は、じっと見つめて誘いかけることもあったが、具体的な恋愛の進展がないまま現在に至っている。マリンもそこそこの美人である。男性も目の前の美人が自分に微笑んでくれたら嬉しい気持ちになる。でもそういう容姿や雰囲気が優れている男性は恋人関係にある女性が高い確率で既にいる。
マリンが男性に交際を申し込まれたら付き合ってもいい、という恋愛感情を抱いたことはひとまず置いておくとして、男性は雇用主側で仕事を依頼しに訪れたようだ。男性と受付嬢は喧嘩してるのかなと思うほど意見がぶつかり合っていた。この仕事で経験豊富なベテランのマリンは二人の言い争いを聞いてすぐに理解する。
男性が無理な注文をしていて、それに対して受付の女性が駄目ですと依頼を断っている感じ。たまにこういうことがあるしマリンだって今まで何度か経験している。相手の機嫌が悪くて横柄な態度をとられたり、目の前で暴言を吐かれたことだって何度かある。でも世の中には色々な人がいるし、仕事だから多少は仕方がないっていう思いもあるので受け入れて生きている。
「助けてくれ誰でもいい……頼むから助けてくれ……」
口論の末に男性は負けた。その場に崩れるように床に膝をついて泣きそうな顔で弱音を吐き始めた。最初から男性が無茶な要求をしていたので当然と言えば当然の結果に落ち着いた。
マリンはアンナが使えないので解雇されたとばかり思っていたのに、雇用主はアンナのことを才能の塊のような人だと、信じられないくらい褒めちぎっているのである。アンナは大勢で数日かかる仕事を一時間で完璧にやり遂げたという。雇えなかった理由はアンナの能力が高すぎて他の人の仕事まで終わらせてしまうことになる。そうなったらその人たちに報酬を払うことができなくなるというものだった。
アンナは垂直の壁を平らな道でも歩くように普通に歩いて登っていた。アンナは人並みはずれた能力を持っている女性。報告書にそう書かれていてもマリンには容易に信じがたい話であったが、最後に書かれているアンナに支払う報酬を見て信用せざるを得ないという思いになる。アンナは百人分の報酬を受け取るべきであると記されてサインが刻印されていた。
「アンナさん、あなたは一体何者なんですか?」
マリンは目の前にいるアンナという女性の正体について知りたくなる。そういえば今日会ったばかりでマリンはアンナのことを何も分からなかった。世にも稀な美しい顔とスタイルがいい気弱そうな人柄で上品な感じの女性。ということ以外は過去にどんな秘密があるのか何も知らない。
しかしマリンの言葉はアンナの耳に届いてこない。男性の怒鳴り声によってかき消されてしまったからだ。今は人は少なかったが周りはざわついた感じもする。建物中に響き渡るような大声を出した男性に誰もが目を引くのは自然なことだった。男性は少し離れた受付窓口で受付嬢と激しく口論をしていた。
(なかなかの美形じゃないの。口説かれたら付き合ってあげてもいいかな?)
マリンは慎重な目でその様子を観察する。男性は顔立ちが整っていて背も高くマリンの好きなタイプであった。マリンは何年も前から恋人募集中で、今まさに運命の人に出会えたような不思議な感覚が胸をついた。マリンはいつも恋に落ちる相手を探していた。いい人いないかなぁって、受付嬢なので訪れた男性を自然と品定めするようになっていた。
数ヶ月に一度くらいで、マリンのお眼鏡に適った付き合ってもいいと思える魅力に溢れた男性が現れる。その時は、じっと見つめて誘いかけることもあったが、具体的な恋愛の進展がないまま現在に至っている。マリンもそこそこの美人である。男性も目の前の美人が自分に微笑んでくれたら嬉しい気持ちになる。でもそういう容姿や雰囲気が優れている男性は恋人関係にある女性が高い確率で既にいる。
マリンが男性に交際を申し込まれたら付き合ってもいい、という恋愛感情を抱いたことはひとまず置いておくとして、男性は雇用主側で仕事を依頼しに訪れたようだ。男性と受付嬢は喧嘩してるのかなと思うほど意見がぶつかり合っていた。この仕事で経験豊富なベテランのマリンは二人の言い争いを聞いてすぐに理解する。
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「助けてくれ誰でもいい……頼むから助けてくれ……」
口論の末に男性は負けた。その場に崩れるように床に膝をついて泣きそうな顔で弱音を吐き始めた。最初から男性が無茶な要求をしていたので当然と言えば当然の結果に落ち着いた。
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