聖女の妹に幼馴染の王子をとられて婚約破棄「神に見捨てられた無能の職業は追放！」隣国で優秀な女性だと溺愛される

第18話 公爵家の様子が何かおかしい1

「不味い！この不味い食事は何だ!!」

アンナがいなくなった公爵家には次々と異変が起こり始める。公爵家当主のジョセフが感情にまかせて声を荒くして叫ぶ。ジョセフは怒りをこめてメイドたちを睨みつける。私たちが何か気に障るようなことをしたのかと思ってメイドたちは恐怖で顔が青ざめた。

「どうしてこんなに不味いの？」

次に口を開いたのはスザンナだった。どうして食事がいつもみたいに美味しくないのかと理解できないという風に首を振る。

「お父様、お母様この味気ない食事はなんなのですか！」

レイチェルは可愛い顔が歪んでいた。スープを一口飲んだところで気持ちが悪くなる。考えられないほど不味くて飲めるなんて味じゃなくてナプキンを手に取って口を拭ったほどだった。納得いかない思いを抱えるレイチェルはジョセフとスザンナに唇をとがらせて言う。

「料理人を連れてこい！」
「す、すぐに連れて参ります」

不審に思うくらい味が悪い食事を誰が作ったんだ。こんな不味い食事を主人である自分たちに出すとは何事だ。ジョセフは部屋中に響き渡る声で怒鳴り散らして命じた。主人に殺気立った怒りをぶつけられて心が乱れていたメイドの一人が、とっさに反応して震えた声で言った。メイドはこの場にいるのが怖くて逃げ出したい思いで厨房に向かって走り出した。

早く来てくだいと焦りを抑えきれない様子のメイドが厨房に入ってきた。料理人たちはどうしたのかと頭に疑問が沸き起こる。メイドに理由を聞けば主人が怒りの感情をたかぶらせているという。料理人たちは唐突過ぎて事情が飲み込めない思いを持ちながら主人の元へ向かった。

メイドに連れて来られた料理人たちは、公爵家一同に咎めるような厳しい目で見られた。主人の前に立った料理人たちは不安で胸に重苦しいものが広がる。それから厳しい説教がはじまった。

「この食事を作ったのはお前たちか？」
「はい」
「どうしてこんなに不味いのか説明しろ！」
「え？」

ジョセフは皿を指さして尋ねた。料理人たちは威圧感に押しつぶされそうになりながら返事をすると、ジョセフは料理が不味いのは何故だと料理人たちに荒っぽい言い方で追及する。料理人たちはジョセフの質問の意味が理解できなかった。

「いつもはもっと美味いだろう？」
「確かにいつもより味が数段落ちてますね。ですが私たちにも分かりかねます」

ジョセフは納得のいかない顔をして問い詰めると、料理人たちは味を確認するために試しに少し食べてみる。料理人たちは正直なところ自分たちにも分からないと素直な感想を口にする。

それもそのはず料理人たちはアンナに料理の下準備をさせていた。アンナが弱気で言うことを聞くので料理人たちは調子に乗って、味付けに調理も命じて召使いとしてこき使っていた。

数年前からは全部アンナに丸投げするようになっていた。なので料理人たちは真面目な顔でもっともらしい台詞を口にしただけのこと。主人が不味いと言っているので話を合わせたのだ。

アンナが冷遇されていると言っても主人の娘に料理を作らせていたなんて、正直に言ったら烈火のごとく怒られると思ったし、能力の低い家事のアンナが料理人の自分たちよりも何倍も美味しい食事を作っていたなんて夢にも思わなかった。

「ふざけるな！私だけじゃなくスザンナとレイチェルも不味いと言ってるんだ！」

顔を真っ赤にしたジョセフは威嚇いかくするように大声でいい放った。自分だけじゃなく妻も娘も同じように不味いと言っている。いつもの食事と比べて味が悪いのは間違いない。ただその理由を知りたいだけなのだ。

「そんなこと言われましても……」
「うるさい！お前たちはそれでも公爵家の料理人か！今日中に納得できる食事を用意しないと全員クビにするぞ！」
「それだけは、どうかお許しください」
「ならばさっさと作ってこい！」

お前たちは公爵家の料理人として失格。こんな不味い食事しか作れないなら雇用契約を解除することも考える必要がある。ジョセフに脅しをかけられると料理人たちは真っ青な顔をして怯え切った声で頭を低くする。

そんな姿を見ても公爵家一同に情け心は湧いてこない。不味い食事を食べさせられた自分たちは被害者だという思いが強かった。つべこべ言わずにさっさと作ってこいとジョセフに頭ごなしに言われると、料理人たちは逆らっても無駄なのはわかっているので大人しく従順に厨房に戻る羽目になった。