聖女の妹に幼馴染の王子をとられて婚約破棄「神に見捨てられた無能の職業は追放！」隣国で優秀な女性だと溺愛される

第23話 絶望する高身長の美男

「アンナさん、あなたは一体何者なんですか？」

マリンはアンナについての報告書を見て衝撃的な内容に動揺を隠せなかった。そういえばどこから来たのかも聞いていなかった。アンナに探るような視線を向けて彼女は何者なのだろうと尋ねた。その時だった。

「どうしてできないんだ！」

怒りと苛立ちを含んだ声が聞こえてきた。ここには受付が数か所あって少し離れた受付で男性が職員に食ってかかっている。男性は自分の希望が断られて不満そうな顔をしていた。

（かっこいい人だな……）

アンナは男性を見た瞬間にほとんど本能的に思って見惚れてしまった。すらりと背が高く目鼻立ちのきりっとした美しい顔にはどこか高貴な雰囲気を漂わせる。手入れが行き届いた身なりで清潔な印象を受ける。

今は人の姿は少ないが大声を上げれば自然と周りから注目された。何やら騒がしい声が聞こえるなと、あの男は受付の女性に無理なことを言って揉めてるんだなと周りで見ていた人たちはそんな目で見ていた。激しい口論はしているが手を出すような穏やかでない行動に出ていないので、間に入って男を注意するまではないかなという思いであった。

「何度も申し上げますがその条件では誰も依頼は引き受けません。最低でも十倍の報酬額を提示していただかないと……」
「だから今は金がないと言ってるだろう！」
「他のお客様のご迷惑になりますからお静かにお願いします」
「後で払うから今はもう時間がないんだ！」
「どうかもうお引取りください！」

受付の女性は弱りきった表情で迷惑な依頼人に言葉を返した。その報酬では道理に合わない要求ですと言っても男性は引き受けてほしいと頼んでいる。男性は再び声を荒くして叫ぶ。その様子からは心に余裕がなく感じられて必死さがうかがえる。

もういい加減にしてくださいと受付の女性の声も段々と男性をとがめるような冷たい言い方になってくる。男性は悔しさで苦しげな顔で不服そうに口を尖らせた。最後には受付の女性にお引き取りを願われて、男性は悲しみのあまりその場に崩れるように膝をついて倒れる。

「助けてくれ誰でもいい……頼むから助けてくれ……」

力が抜けて床に座り込んだ男性は泣きそうな顔になって助けを求める独り言をつぶやき始めた。

「あの、私でもその仕事は引き受けられますか？」

アンナは深く考えずに近づいて声をかけた。無意識の行動だったような気もする。痛々しいほどしょんぼりしている男性を見てかわいそうに思った。

男性を見ているうちに家族や使用人から無能だからと言われて、公爵家を追放された自分と重ね合わせて見捨てておくことができなかった。それに先ほどまで受付の女性に喧嘩腰な態度を取っていたが、何となく本来の性質は悪い人ではないように感じた。

「え……？」

床に座ってうつむいていた男性は不意に顔を上げた。突然女性に声をかけられて驚いて思わずびくっと体が震えた。顔を上げると目も覚めるような美しい女性が目の前に立っていた。

（こんな綺麗な人初めてみた）

男性の方もアンナの顔を見た瞬間に自然に心の中でそう思った。