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第10話 周りの人達が怖い

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馬車から降りたアンナはあてもなくふらふらと歩いていた。今は朝、人通りが多い時間帯で仕事に向かう労働者で溢れている。学校に向かう学生服姿の生徒たちも多く見かける。ここは首都で洗練された都会的な雰囲気を醸し出していた。空は雲ひとつない晴天で、空から太陽の光が降り注いでぽかぽかと暖かい空気がアンナの頬に触れた。

「お腹が減ったな……」

それに引き換えアンナの心は冷え切り空腹感も感じて言葉がため息のように出る。アンナは昨日から何も食べてなかった。何か食べたいと思いながら周りを見て視線を巡らせてみる。その時アンナは周りの様子がおかしいことを感じる。周囲の人々が観察するように自分のことを見ているような気がした。

(なに?私、なんか見られてる?)

アンナはどことなく落ち着かない気分になった。アンナのことを物珍しいものでも見るような眼差しで周りの人から騒がしい声があちこちから聞こえてくる。

「すごい美人……」
「スタイルいい!」
「あの綺麗な人は誰?」
「滅多にお目にかかれない美しい女性だ」
「とても華やかで整った顔してる」

アンナは人通りの多い場所をあてもなく歩き回っていた。目的もなく足の向くままにさ迷い続けたといっていい。とにかく街の中をうろついて闇雲に巡った。その時アンナは独特のオーラというか存在感を放っていた。アンナの抜群の美貌とスタイルに熱い視線が注がれていた。

すれ違いざまにアンナのことを一瞬だけ見た人たちは美人すぎて驚かずにはいられなかった。アンナを見た人が信じられないほど美しい人がいるなどと次々としゃべり散らし噂が噂を呼んで大騒ぎになっていた。アンナの後を追いかける人もいて、それが雪だるま式に増えていった結果このような状況になっていた。

当の本人であるアンナは人々からの熱い視線に全然気づかなかった。公爵家を追放されて心が空っぽになって絶望的なため息をつきながら、もう帰るところがないアンナは遠い地に来て自分の生きる場所を探し求めて歩きまわっていた。

(私が無能の家事だからみんな蔑んで笑いものにしてるんだわ)

アンナが美人だからという理由で周り人たちが騒いでることなどアンナは想像だにしない。職業が家事だからダニエル王子に婚約破棄されて、家族には能力が欠如している家事はいらないと公爵家を追放された。そのため今は何を考えてもマイナス思考になっていた。

アンナには負の感情が増幅されるばかりだった。周りの人たちが好奇心に溢れた顔で自分のほうを見ながらこそこそ話している。自分が家事だから笑われているとアンナは物事を悪い方向に考えているが、アンナの職業が家事ということは周りにいる人たちの誰にも知られていない。

自分に自信が持てなくなって弱気になっているアンナには、あの人もこの人もクスクス笑って自分の悪口を言いふらしているように見えた。アンナは見世物扱いされ大いに気分が悪くなってその場を離れたい思いに駆られる。心理的に追い詰められたアンナはその場から逃げ出した。
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