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第11話 逃げ出したくなる気持ち
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「あ!突然走り出したぞ!」
「美人が逃げた!」
「あんなに急いでどこに行くのかな?」
「あの綺麗な人……凄い勢いで走って行ったね」
「いきなり走り始めて驚いちゃった」
アンナの周りにいた人々は美しい女性に心を奪われてじっと探るように見つめていた。次の瞬間、何の前触れもなく美人が走り出した。何が起こったのかと一人の紳士が驚きの声をあげた。思いがけない事態に言動に丁寧さはなかった。そして息つく間もなく見ていた人たちも目を大きく開いて仰天する言葉を口々に言う。
どうしてあの綺麗な人は急に風のように走り出したのかと、予想外で誰も彼も頭の中が混乱して整理できなかった。大きな手提げ鞄を持った美しい女性は手を振り回して本気で駆けている。手提げ鞄は動きに合わせて激しく揺れて走りにくそうだと感じた。
名も知らぬ美人は全力疾走しているみたいで後ろ姿はあっという間に小さくなっていく。その様子を呆気に取られて眺めていた。街の人混みへ消えていく滅多にお目にかかれない美しい女性の後ろ姿を全員ぼんやり見つめることしかできなかった。
「はぁ、はぁ」
アンナは人が居ない所で休憩をしていた。肩を上下に動かして乱れた呼吸を整えていた。こんなに走ったのは久しぶりだった。アンナは人が怖くなって人混みを避けて人のいないところに向かって走った。すれ違う人みんなに自分のことを笑われて何か悪口を言われるような気がして、不安で押し潰されそうになるのを耐えて静かな場所を目指した。
「私は遠い異国の地でも笑いものにされて普通に道を歩くことも許されないのね……」
アンナは頭に手をやってしゃがみ込む。自分が本当に情けなくって精神的に参ってしまった。これからずっと辛い思いをして生きていくのかと思うと人生を投げ出したくなる。不安と混乱で大声で泣きたくなったけどアンナはどうにか抑え込んで耐えて立ち上がった。
直後にくぅーっと体から音を発する。アンナはお腹が減っていた事を思い出した。何か食べようと食事のできるところを表情のない顔でふらふらと歩いて探した。
「――いらっしゃいませ」
アンナが店に入った時、店のドアベルが鳴る音を聞いて愛想よく声をかけられた。アンナは疲労を顔に浮かべていた。慣れない場所なのでご飯を食べられるところを探すのに手間取った。静かな喫茶店で客はあまりいなかった。ここは安全な場所なのかと思いながらアンナは少し挙動不審で店の中を見渡して席についた。
「はぁー、ここでゆっくりさせてもらいましょう」
やっと安息所を得たと思って身も心もすり減らしていたアンナは伏目になりため息をついた。
「何になさいますか?」
(なんて美しい人なんだ……)
アンナの目の前に初老の紳士風の男性が現れた。喫茶店のマスターである。客の注文を聞きにやってきた。アンナを見たとたんに思わず胸がドキッとした。何十年も生きてきたがこれほどの美人にお目にかかったことはないのでぽかんとした顔で見ていた。年甲斐もなくはしゃぎ恋をしたように少し熱くなった。
「美人が逃げた!」
「あんなに急いでどこに行くのかな?」
「あの綺麗な人……凄い勢いで走って行ったね」
「いきなり走り始めて驚いちゃった」
アンナの周りにいた人々は美しい女性に心を奪われてじっと探るように見つめていた。次の瞬間、何の前触れもなく美人が走り出した。何が起こったのかと一人の紳士が驚きの声をあげた。思いがけない事態に言動に丁寧さはなかった。そして息つく間もなく見ていた人たちも目を大きく開いて仰天する言葉を口々に言う。
どうしてあの綺麗な人は急に風のように走り出したのかと、予想外で誰も彼も頭の中が混乱して整理できなかった。大きな手提げ鞄を持った美しい女性は手を振り回して本気で駆けている。手提げ鞄は動きに合わせて激しく揺れて走りにくそうだと感じた。
名も知らぬ美人は全力疾走しているみたいで後ろ姿はあっという間に小さくなっていく。その様子を呆気に取られて眺めていた。街の人混みへ消えていく滅多にお目にかかれない美しい女性の後ろ姿を全員ぼんやり見つめることしかできなかった。
「はぁ、はぁ」
アンナは人が居ない所で休憩をしていた。肩を上下に動かして乱れた呼吸を整えていた。こんなに走ったのは久しぶりだった。アンナは人が怖くなって人混みを避けて人のいないところに向かって走った。すれ違う人みんなに自分のことを笑われて何か悪口を言われるような気がして、不安で押し潰されそうになるのを耐えて静かな場所を目指した。
「私は遠い異国の地でも笑いものにされて普通に道を歩くことも許されないのね……」
アンナは頭に手をやってしゃがみ込む。自分が本当に情けなくって精神的に参ってしまった。これからずっと辛い思いをして生きていくのかと思うと人生を投げ出したくなる。不安と混乱で大声で泣きたくなったけどアンナはどうにか抑え込んで耐えて立ち上がった。
直後にくぅーっと体から音を発する。アンナはお腹が減っていた事を思い出した。何か食べようと食事のできるところを表情のない顔でふらふらと歩いて探した。
「――いらっしゃいませ」
アンナが店に入った時、店のドアベルが鳴る音を聞いて愛想よく声をかけられた。アンナは疲労を顔に浮かべていた。慣れない場所なのでご飯を食べられるところを探すのに手間取った。静かな喫茶店で客はあまりいなかった。ここは安全な場所なのかと思いながらアンナは少し挙動不審で店の中を見渡して席についた。
「はぁー、ここでゆっくりさせてもらいましょう」
やっと安息所を得たと思って身も心もすり減らしていたアンナは伏目になりため息をついた。
「何になさいますか?」
(なんて美しい人なんだ……)
アンナの目の前に初老の紳士風の男性が現れた。喫茶店のマスターである。客の注文を聞きにやってきた。アンナを見たとたんに思わず胸がドキッとした。何十年も生きてきたがこれほどの美人にお目にかかったことはないのでぽかんとした顔で見ていた。年甲斐もなくはしゃぎ恋をしたように少し熱くなった。
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