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第4話

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(遅いな……みんな何してるんだろう?)

もう三十分近く経っているのに誰も戻ってこない。アメリアは婚約者のクロフォードのことが気になって心臓をドキドキさせながら姉のフローラの部屋に向かった。部屋のそばに近づくと息づかいに甘い声がまじるようになった。まるでわざと狙ったように部屋のドアが開いていた。

アメリアは少しだけ開いたドアの隙間から半ば恐怖をもって確認した。悲しい現実に直面して頬に涙が流れていた。信じていたクロフォードはフローラと抱き合ってキスしていた。

(そんな……)

アメリアは見てはいけないものを見てしまった気がして、冷静さを失ってパニック状態になった。アメリアは部屋に乗り込んで止めようと思ったが、いざ入ろうとした時に怖さで足が震えているのが感じられた。足の震えを止めようと必死に押さえたが駄目だった。

アメリアは情けない思いをしながら眺め続けていた。その場に立ちすくんでいるとアメリアにさらなる混乱が起こる。開いたドアの前に立っていたのでフローラと目が合ってしまう。しかもフローラはアメリアを見つめたまま目をそらそうとしなかった。それどころかヘラヘラした顔で挑発的な視線を飛ばしてくる。

クロフォードは背中を向けているので気づいてはいなかった。お互いに凝視し合っている時はアメリアの思考は凍ったように止まっていた。その時クロフォードがフローラの視線が気になったらしく、何だろうかという感じで後ろを振り向こうと体をひねらせ始めた。はっと我に返ったアメリアは見られたくなかったのですぐに逃げた。

逃げるように急ぎ足で階段を降りていた時、アメリアは幼馴染のハリーのことが頭をよぎる。

(そう言えばハリーはどうしてるのかな?)

妹のエリザベスの部屋に向かったハリーは何をしているのか気になった。アメリアは足音を限りなく小さくして歩いてエリザベスの部屋におそるおそる近づいた。

その時、息も切れるように叫ぶ凄い声が聞こえる。不意をつかれてアメリアは心臓が止まるかと思うほど驚いた。エリザベスの部屋のドアは閉められていましたがハリーは声が大きいので丸聞こえだった。アメリアは底知れぬに打ちのめされた。

(ジェシカと婚約してるのにハリーは何を考えてるの?)

アメリアは眉をひそめて非難するように思った。ジェシカというのはアメリアの一番大切な親友で伯爵家の令嬢。ハリーとジェシカは正式に婚約の誓いを交わしている。

それなのにハリーはエリザベスと怪しい秘め事に及んでいる。ハリーが浮気してるってわかったらジェシカはどんなに悲しむだろうか。しかも自分の妹とだなんて言えないし、アメリアは申し訳ない気持ちでいっぱいで心の中でジェシカに謝ることしかできない。

(私が二人をのこのこ家に連れて来たのが悪かったんだ……ジェシカごめんなさい)

積極的で強引な性格をしている聖女の姉と妹がいるのを分かっていたのに、無警戒のまま婚約者と幼馴染を家に連れて来てしまったことが原因だったことは言うまでもないであろう。

アメリアは膝をつき懺悔ざんげするかのような悲しげな眼差しで後悔がどこまでも尽きなかった。
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