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20話

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ラウルが取り乱してアイリスに何とか助けて欲しいと泣きついてきた状態はしばらく続き、また店内にいる食事中の客を戸惑わせた。客たちはちらちらとこちらの方へ好奇な視線を向けて迷惑げな表情をしていた。

だがラウルの気持ちを静めるのにアイリスは精一杯だった。その横で客たちに向かって騒がせたことを礼儀正しく謙虚に頭を下げるクラウド。

(一般平民に対しても区別することなく謝罪の気持ちを伝えようとする真摯な姿勢に誠実な人柄のクラウド様……なんて素敵な人なの……)

その姿を見てアイリスは激しく心臓が鼓動し、改めて惚れ直したという顔で見つめていた。

「私は数日前にもナタリアと会いましたが、その時はラウル様との婚約成立を嬉しそうに話してくれました」

アイリスは思い浮かべたように話し始めた。ナタリアとアイリスはちょっと前に会ってお茶を飲みながら雑談をしていた。慣れ親しんだ女性同士なので気兼ねなくのびのびと話し合える。二人はかなりリラックスした雰囲気になっていた。

前置きもなくナタリアはアイリスにラウルと婚約したことを伝えた。その時のナタリアの様子はキャッキャと飛び上がって喜んで幸福感をかみしめていたように思う。あの時のナタリアを見ているので婚約破棄をするなんて考えられないと思いました。

「それは本当なんだな?」
「はい、ですからラウル様の方に問題があるのでは?ナタリアを怒らせることをしたりとか……」

ラウルはアイリスの話を聞いて胸のつかえが取れた気持ちで顔がぱっと明るくなった。反対にアイリスはとがめるような厳しい顔を向けた。だからこそラウルに原因があると確信している。何らかの原因によってナタリアは婚約破棄したいと言ったのだとアイリスは考えた。

「そんなことは断じてない!僕はナタリアのことなら好きな食べ物から趣味まで何でもわかるぞ?浮気もしてないしナタリアだけを愛しているんだよおおぉおぉおぉーーー!!」

ラウルは立ち上がって誇らしげに顔を輝かせて言い出す。自分はナタリアにどんなときも真心を尽くして接していて、いつまでも変わらない真の愛情を持っていると店全体に響くほどの大声で主張した。確かにラウルはナタリアのことを愛しているが、前の世界では約一ヶ月後に浮気をしてしまった。

ラウルは生まれながらというか性格の根本的に浮気性のところがありました。その時の浮気相手はアイリスではありませんが、ナタリアに知られてしまって平身低頭ひたすら謝ってやっと許してもらえた。

「ですが婚約破棄の理由はおわかりにならないんですよね?」
「そうだな……」

ラウルはナタリアのことは何でもわかると自信に満ちた口調で言いましたが、アイリスから的を射た指摘をされた。まさに正論でラウルは何も言い返すことができなくなった。その瞬間ラウルは輝きを失ってしょぼくれた顔になり、落胆の切なさが深そうな感じで崩れるように腰を下ろした。
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