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16話
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「私はツヴァイク伯爵家の娘、アイリスと申します。今後はどうぞアイリスと気兼ねなくお呼びください」
アイリスは名門貴族の家系に生まれた。両手でスカートの裾を軽く持ち上げて名門貴族の名に恥じぬ礼儀正しく上品な言葉遣いで丁寧に挨拶をする。
アイリスは買い物をしていたら偶然発見してナタリアに声をかけた。思いがけない出会いにアイリスのほうは人懐っこい笑顔でナタリアとの再会を素直に喜んでいる様子だった。アイリスは挨拶を済ませるとナタリアに歩み寄って隣の席に座る。アイリスはお腹が空いちゃったと言いクレープ状のパンケーキと熱い紅茶を嬉しそうに注文した。
(こいつ私のそばにぬけぬけと座って来たわね!)
ナタリアはアイリスが近づいて来た時、本能的に警戒心が混じったような表情になった。
「まさかこんなところで王太子様お二方にお会いできるとは思ってもみませんでした。これは運命的な恋愛をせよと神のお導きに違いありません」
アイリスは挨拶の時の洗練された物腰とはかけ離れて、わざとらしい甘え声を出して身をくねらせていた。アイリスは確実にラウルとクラウドのことを誘惑しようとしているのではないかと思われる。先ほどまでラウルはナタリアに婚約破棄を言い渡され、考え直してほしいとナタリアに強く求めて怒鳴り声を店全体に響かせ声にならない悲鳴をあげていた。
にも関わらずラウルは婚約者の前でアイリスの色香に迷わされ鼻の下が伸びていた。ラウルは高ぶっていた気持ちがほぐれたようだったが、クラウドのほうは生まれつき心理分析をする才能が豊かで冷静な表情でアイリスを見ていた。
「それよりナタリアなんでさっき涙を流したんだ?」
ラウルの唐突な質問にナタリアは答えられず、うつろな表情を浮かべて黙り込んでいるとアイリスが代わりに答えようとして唇を開いた。
「ナタリアは私と会えて嬉しくて涙を流したのよね?」
「……そうだね」
本気で言ってるのか冗談なのかアイリスは悪意の欠片もない純粋な笑顔を作っていたけれど、目の形は少しも笑っていなかった。ナタリアはアイリスの言うことに弁解する気力もなく、なんとも言えない辛そうな表情で無念そうにつぶやいて話を合わせた。
「二人は仲が良いの?」
「とても仲の良い親友同士なんです。子供の頃から姉妹のように育ちました。いつも一緒で色々な遊びをいたしましたわ」
クラウドは落ちつきはらった冷静な口調で聞いた。アイリスはお淑やかな笑みをこぼしてナタリアと過ごした少女時代のことを回想し時折、涙ぐんでいるような潤いを帯びた声で懐かしい思い出を楽しそうに語っていた。
(あなたなんか親友じゃない!)
その隣で再びこみあげてくる涙をこらえながらナタリアの顔は不自然にひきつっていた。
「ナタリアもあの頃を思い出して泣いているのね。どんな時も気丈にして弱みを見せないけど本当は涙もろいところがあって、ナタリアが泣くといつもこうやって背中を撫でて慰めてあげたのよね」
少しばかり体が震えて顔を伏せているナタリアを心配そうな視線で見守りながら、アイリスはナタリアの背中を何度かさすって思いやりのある優しさみたいなものを見せた。
アイリスは名門貴族の家系に生まれた。両手でスカートの裾を軽く持ち上げて名門貴族の名に恥じぬ礼儀正しく上品な言葉遣いで丁寧に挨拶をする。
アイリスは買い物をしていたら偶然発見してナタリアに声をかけた。思いがけない出会いにアイリスのほうは人懐っこい笑顔でナタリアとの再会を素直に喜んでいる様子だった。アイリスは挨拶を済ませるとナタリアに歩み寄って隣の席に座る。アイリスはお腹が空いちゃったと言いクレープ状のパンケーキと熱い紅茶を嬉しそうに注文した。
(こいつ私のそばにぬけぬけと座って来たわね!)
ナタリアはアイリスが近づいて来た時、本能的に警戒心が混じったような表情になった。
「まさかこんなところで王太子様お二方にお会いできるとは思ってもみませんでした。これは運命的な恋愛をせよと神のお導きに違いありません」
アイリスは挨拶の時の洗練された物腰とはかけ離れて、わざとらしい甘え声を出して身をくねらせていた。アイリスは確実にラウルとクラウドのことを誘惑しようとしているのではないかと思われる。先ほどまでラウルはナタリアに婚約破棄を言い渡され、考え直してほしいとナタリアに強く求めて怒鳴り声を店全体に響かせ声にならない悲鳴をあげていた。
にも関わらずラウルは婚約者の前でアイリスの色香に迷わされ鼻の下が伸びていた。ラウルは高ぶっていた気持ちがほぐれたようだったが、クラウドのほうは生まれつき心理分析をする才能が豊かで冷静な表情でアイリスを見ていた。
「それよりナタリアなんでさっき涙を流したんだ?」
ラウルの唐突な質問にナタリアは答えられず、うつろな表情を浮かべて黙り込んでいるとアイリスが代わりに答えようとして唇を開いた。
「ナタリアは私と会えて嬉しくて涙を流したのよね?」
「……そうだね」
本気で言ってるのか冗談なのかアイリスは悪意の欠片もない純粋な笑顔を作っていたけれど、目の形は少しも笑っていなかった。ナタリアはアイリスの言うことに弁解する気力もなく、なんとも言えない辛そうな表情で無念そうにつぶやいて話を合わせた。
「二人は仲が良いの?」
「とても仲の良い親友同士なんです。子供の頃から姉妹のように育ちました。いつも一緒で色々な遊びをいたしましたわ」
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(あなたなんか親友じゃない!)
その隣で再びこみあげてくる涙をこらえながらナタリアの顔は不自然にひきつっていた。
「ナタリアもあの頃を思い出して泣いているのね。どんな時も気丈にして弱みを見せないけど本当は涙もろいところがあって、ナタリアが泣くといつもこうやって背中を撫でて慰めてあげたのよね」
少しばかり体が震えて顔を伏せているナタリアを心配そうな視線で見守りながら、アイリスはナタリアの背中を何度かさすって思いやりのある優しさみたいなものを見せた。
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