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12話

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「ナタリア?」
「あ、はい……」
「どうしたの?」
「え?」
「今日は元気がないみたいだからさ」

デート中に立ち寄った店で軽い食事を取っていた。ラウル王子が心配そうな声でナタリア公爵令嬢に尋ねた。考え事をするように黙りこんでいたナタリアのことが心に引っかかる。思えば今日は会った最初からナタリアはずっと浮かない顔をしていた。

ラウルはこのデートによってナタリアとの心と体の距離を近づけ愛情を芽生えさせるのだと気合を入れてきた。でもいっこうに楽しいデートにならないことにラウルは焦りの気持ちが脳に駈け上がってくる。

ラウルは気分を変えるためにスキンシップを取ろうと腕を触ったら、ナタリアは怯えた表情で拒絶する頑なな態度をとった。二度目のデートで早まった行動をしてしまったのかと後悔して、もう終わったという思いで暗い気持ちに落ちた。あまり食欲はなかったが少し落ち着こうと思って席についた。

「そうだと思います」
「どうして元気がないんだ?この前はずっと楽しそうに笑っていたじゃないか?僕はナタリアの明るい笑顔が好きなんだ」

ナタリアはデート中に露骨に嫌そうな表情を見せた。だって仕方ないじゃありませんか。ナタリアは目の前に座っている恋人に息の根を止められたのだから。

婚約者のラウル王子と親友のアイリス伯爵令嬢に両手で無理やり押さえつけられた。苦しくて手足をばたばたさせて生きるために抵抗したが、ナタリアは力尽きてしまった結果息絶えた。絶対のものと信じて疑わなかった二人に同時に裏切られた。

今こうして人生のやり直しが発生している。不思議な力が宿っていそうにも半ば思われる。ナタリアが子供の頃からいつも両親が望んでいた幸せになりなさいと言う言葉。このチャンスで今度こそは幸せな人生のゴールを目指すことを誓った。

「ラウル王太子殿下」
「突然どうしたんだ?」

ナタリアは急に改まって切り出した。ラウルは驚きで胸を刺された思いをする。小さい頃に初対面の挨拶を交わしてからラウルはナタリアに言った。ラウルはナタリアともっと近しい関係になりたいと思っていたので、そういう堅苦しい感じの呼び方はよしてくれと伝えて気軽に呼んでくれと言った。

昔から知っているが恋人関係へと発展させたのは最近のこと。お互いにファーストネームで呼び合う間柄になる。それなのに何でという思いでラウルは呆気にとられたような顔でナタリアを見つめていた。

「私と別れてください」
「はぁ!?」

この時はまだ二度目のデートですが最初のデートの後に、王家と公爵家の会議で満場一致で婚約内定していた。ナタリアとラウルの本人たちも参加して二人の意志によって結婚の約束をした。なのに突然の婚約解消の申し入れに、ラウルはとうてい信じられない思いで驚きの声をあげる。顔はやるせない哀愁をにじませていた。
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