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第33話

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「弟のルーカスを連れてきました」
「すぐに治すから寝かせて」

朝早くにアルバートが弟を背負って運んできた。彼はいつもよりも2時間以上早く起きた。セリーヌは待っていましたという感じで言った。

――昨日家に帰ってベッドで寂しく暗い影を落としているルーカスに、足が治ると伝えるとびっくりして目を開いた。何でも兄が働いているレストランのオーナーの女性が回復魔法が使えると言うのだ。

「兄さん本当なの?嘘じゃないの?」
「大丈夫だ。社長はそんな人じゃない。真剣にお前の足を治すと言ってくれた」

ルーカスはとても嬉しく思いました。でも疑問を抱き始めます。こんな失った足が本当に治せるのか?人のいい兄が騙されているんじゃないのか?そう思うのも当たり前のことだった。医者からは足は二度と治せないと言われた。ルーカスも深い絶望に打ちのめされましたが受け入れることしか選択はない。

失った足を元に戻すような回復魔法を使える者など、世界中を探してもほんの一握りしかいない事はわかっているし、仮にいたとしても多額の治療費が必要となり兄に大きな負担をかけてしまうことになる。それでも慈愛に満ちている兄は、自分の足を治すために無理をして治療費を捻出ねんしゅつするために昼も夜も必死で働くと思う。でもそんなことはルーカスはさせたくないのだ。弟のほうも優しい思いやりの心を持っていた。

「……そんな人がいるんだね……」

ルーカスはアルバートから事情を説明されて、喜びで体が震えながらやがてぽつりと口を開く。兄がレストランで働いている事は知っていた。実に美味しいと高い人気を得ている。自ら足を運んで直接店に行ったこともあり、料理を食べた感想は何とも言えない幸せな気分になれた。こんな美味しい食事があったのか?と面食らってしまった。

兄は非常に多忙な日々を送っているというオーナーの女性に認められて、店の運営を任されていることも誇らしい気持ちでいっぱいになった。名前はセリーヌというらしく、一度だけ姿を見かけた事があった。

給仕たちが次々に各テーブルに出来上がった料理を運んでくる時に、その女性も混じって一緒に料理を運んでいた。店のオーナーなのに何とも気さくな人柄だと驚いた。加えて美しい顔に親しみやすい明るい声で料理を運んできてくれたことをはっきり覚えています。

ルーカスはその時にセリーヌにし、積極的に彼女にあいにレストランを訪れたが忙しいために姿を見ることができなかった。綺麗な女性だねと兄に聞いたら、別の国でもホテル経営など様々な分野で才能を発揮している女性だと知りまた驚いた。

「でもまさか回復魔法を使えることは今日まで俺も知らなかったけどな……」

アルバートは小声でつぶやいた。素晴らしい女性だと思っていたが、まさか回復魔法が使えるとは予想外だった。それも足を失った重症患者に対して元通りの完璧な状態にできるという。明日は治療のために早く家を出るからとルーカスに言うと二人はベッドに入った。だけど二人とも涙がとめどなく流れてその日は寝られなかった。
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