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第17話
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「エレンーー!」
「え……なに?」
その日の昼少し前である。家にいたエレンは窓から外の景色をぼんやりと眺めていた。その時、誰かが自分のことをよく通る大声で呼んだ。
気持ちの良い気分でいたのに、しゃがれた叫び声をきいて驚いたが、最初は声の主がアルベルトだとわからなかった。
家の前で何やら不審な男が、屋敷の警備兵と揉めている様子。この場所からはよく見えないので、望遠鏡を取りにいって熱心に見つめていた。
「アルベルト?」
男はよろめく足取りで屋敷に近づいてきて、また大声でわめきちらす。だが警備兵に取り押さえられ激しく暴れている。
男の顔を確認したエレンは、口の中でぶつぶつとつぶやく。地味で質素な身なりの男はアルベルトだった。アルベルトとは婚約破棄から三年経っていたのだから、すぐに分からなかったのも至極当然のことでありました。
「エレンーー!出てきてくれーー!」
警備兵に動きを止められてもアルベルトは叫び続けた。おそらく相当な異常者に違いないと警備兵は決めつけていた。
「エレン様に何の用だ!」
「このキチガイ男が!」
「痛い目にあいたいのか?」
警備兵は荒っぽい言葉遣いで、アルベルトに対して情け容赦ない態度をとる。鋭い視線を向けられると、アルベルトは全身に恐怖が走り、顔が蒼ざめ唇が小刻みに震える。
「ずいぶん騒がしいわね」
その時、エレンが現場へ駆けつけると同時に凛と響く声を発した。
「エレンお嬢様!」
「こんな男に近づくのは危険です!」
警備兵はエレンの登場に大いに驚き動揺した。エレンが怪しい男のそばに寄っていくと、警備兵の誰もが興奮気味に声を上擦らせる。
「その男は一応この国の王子ですよ?」
「は?」
そんな言葉がエレンの口から飛び出すと、警備兵はみんなポカーンとしている。やせ細って粗末な身なりの男が王子であろうはずがない。
「エレン様、それは真実ですか?」
「疑うのも仕方ないですが……そうよ」
だが警備兵は少し迷う素振りを見せた後に、一人が口を開く。表情を引き締めて、ぐっと真面目な口調でエレンに尋ねる。
美しい顔はすっかりひきつって、地面に倒れてひどく疲労しているアルベルトに視線を落としながら言うと、警備兵は腰を抜かすほど驚いた。
「エレンが来てくれなかったらどうなっていたか……ありがとうエレン助かったよ」
「今さら何の用事かしら?」
アルベルトは大粒の涙が流れ出て頬を濡らしている。元婚約者のエレンにどうしても会いたかったと言う。
エレンは冷酷な目つきでじろりとアルベルトを見て事情を尋ねた。だがアルベルトは思いつめた顔をするだけで、しばらく返事が返ってこなかった。
*****
新作「私も新婚旅行に一緒に行きたい」彼を溺愛する幼馴染がお願いしてきた。彼は喜ぶが二人は喧嘩になり別れを選択する。」を投稿しました。よろしくお願いします。
「え……なに?」
その日の昼少し前である。家にいたエレンは窓から外の景色をぼんやりと眺めていた。その時、誰かが自分のことをよく通る大声で呼んだ。
気持ちの良い気分でいたのに、しゃがれた叫び声をきいて驚いたが、最初は声の主がアルベルトだとわからなかった。
家の前で何やら不審な男が、屋敷の警備兵と揉めている様子。この場所からはよく見えないので、望遠鏡を取りにいって熱心に見つめていた。
「アルベルト?」
男はよろめく足取りで屋敷に近づいてきて、また大声でわめきちらす。だが警備兵に取り押さえられ激しく暴れている。
男の顔を確認したエレンは、口の中でぶつぶつとつぶやく。地味で質素な身なりの男はアルベルトだった。アルベルトとは婚約破棄から三年経っていたのだから、すぐに分からなかったのも至極当然のことでありました。
「エレンーー!出てきてくれーー!」
警備兵に動きを止められてもアルベルトは叫び続けた。おそらく相当な異常者に違いないと警備兵は決めつけていた。
「エレン様に何の用だ!」
「このキチガイ男が!」
「痛い目にあいたいのか?」
警備兵は荒っぽい言葉遣いで、アルベルトに対して情け容赦ない態度をとる。鋭い視線を向けられると、アルベルトは全身に恐怖が走り、顔が蒼ざめ唇が小刻みに震える。
「ずいぶん騒がしいわね」
その時、エレンが現場へ駆けつけると同時に凛と響く声を発した。
「エレンお嬢様!」
「こんな男に近づくのは危険です!」
警備兵はエレンの登場に大いに驚き動揺した。エレンが怪しい男のそばに寄っていくと、警備兵の誰もが興奮気味に声を上擦らせる。
「その男は一応この国の王子ですよ?」
「は?」
そんな言葉がエレンの口から飛び出すと、警備兵はみんなポカーンとしている。やせ細って粗末な身なりの男が王子であろうはずがない。
「エレン様、それは真実ですか?」
「疑うのも仕方ないですが……そうよ」
だが警備兵は少し迷う素振りを見せた後に、一人が口を開く。表情を引き締めて、ぐっと真面目な口調でエレンに尋ねる。
美しい顔はすっかりひきつって、地面に倒れてひどく疲労しているアルベルトに視線を落としながら言うと、警備兵は腰を抜かすほど驚いた。
「エレンが来てくれなかったらどうなっていたか……ありがとうエレン助かったよ」
「今さら何の用事かしら?」
アルベルトは大粒の涙が流れ出て頬を濡らしている。元婚約者のエレンにどうしても会いたかったと言う。
エレンは冷酷な目つきでじろりとアルベルトを見て事情を尋ねた。だがアルベルトは思いつめた顔をするだけで、しばらく返事が返ってこなかった。
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